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244:アドン・エンハンス-4

本日二話目です

「さて着いたわね」

「『宙に浮いているのに、安定しているでチュよね』」

 結局戦闘になる事はなく、私は熱拍の幼樹呪を発見。

 その上に着陸することに成功した。


「早速剥ぎ取り……と、行きたいところだけど、少し調べましょうか」

 私はまず、この熱拍の幼樹呪についてきちんと調べる事にした。

 サイズは呪限無の石門が内部に生じた個体とほぼ変わらずの高さ5メートル、直径3メートルの結晶体。

 樹皮に欠けはなく、樹脂についても同様。

 鑑定結果も前回とほぼ同じだった。

 違いは内部に繋がる穴が存在していない事ぐらいと言っていいだろう。


「では検証もしつつ剥ぎ取り、と」

 私は腰の毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣を抜くと、熱拍の幼樹呪から赤い樹脂を回収する。

 前回のトゥースナイフでやった時と比べると、明らかに短剣の突き刺さりがいいし、回収は楽にできた。


「おっと」

「『やっぱり落ちるんでチュね』」

 そうして剥ぎ取ると同時に、熱拍の幼樹呪の高度が大きく落ちる。

 が、経験済みの事柄なので、短剣を素早く抜き取った私は落ちるのに逆らわず、空気抵抗にも抗わずにいる事で、その場に留まり、高度を落とす熱拍の幼樹呪を見守るだけになった。

 これならば、赤樹脂を剥ぎ取り過ぎて、渇泥に落としてしまっても、素早く逃げれば私は大丈夫だろう。


「さて……」

 問題はここからだ。

 私は高度が落ちた熱拍の幼樹呪に接近すると、その周囲を回ってみる。

 すると、先ほどまではなかった穴が熱拍の幼樹呪の底に出現していた。

 そして、その穴の中には、呪限無の石門が出現していた。

 空間の歪みも感じ取れたし、手をかざせば『ダマーヴァンド』への帰還を希望するかも聞かれた。

 完全に昨日のそれと同一である。


「『これはどういう事でチュか?』」

「んー、熱拍の幼樹呪がそういう生態であるのは確かだとして、何故こんな事をするかだけど……もしかしたら一種の命乞い、あるいは警告なのかもしれないわね」

「『ああ、帰還用のゲートを作るから、見逃してってことでチュか。うーん、それよりは警告のが妥当な気がするでチュ。これ以上やるなら、こっちもタダでは済まさないと言う奴でチュね』」

「さてどっちなのかしらね。でも警告と思っておきましょうか。自分で言っておいてなんだけど、カースが命乞いと言う時点でちょっと妙な気がするわ」

 他に変化はない。

 熱拍の幼樹呪のHPは僅かに削れている。

 さて、戦うならHP10万越えの化け物と戦うことになるのだけど……それでも剥ぎ取れるだけ剥ぎ取ろう。

 樹皮が必要なのは確か、木材だって欲しいし、樹脂も同様だ。

 攻撃されたならされたである。


「では……『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』」

 私は熱拍の幼樹呪の上に移動すると、呪詛の剣を切っ先を上に向ける形で構える。

 そして振り下ろし、刃がある程度、熱拍の幼樹呪の内部に入ったところで『出血の邪眼・1』を発動。

 蘇芳色の輝きが発せられる。

 与えた出血の量は……418か。

 『呪法(アドン)増幅剣(エンハンス)』込みとは言え、中々の数字と言えそうだ。


『どう削っていくんでチュか?』

「んー、材木を切るやり方か、鉱山で山ごと削って鉱石を回収する方法か……まあ、そんな感じかしらね。何処まで上手くいくかは試してみないと分からないけど」

 熱拍の幼樹呪の側面に回り込んだ私は、先ほどと同様に『呪法・増幅剣』込みの『出血の邪眼・1』を撃ち込む。

 これを何度も繰り返して、出血が起動すれば、熱拍の幼樹呪の上部の一部が切断されるようにした。

 出血のスタック値は約3,000。

 相手が動かない樹とは言え、随分と貯めた物である。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

 では起爆。

 毒をタイマーとする事で、私が熱拍の幼樹呪から離れる時間を稼いだ上で、出血の効果を表に出す。


「んー……駄目か」

『表面が裂けただけでチュね』

 出血の効果によって、樹液と思しき液体が熱拍の幼樹呪から漏れ出る。

 同時に破壊が行われ、熱拍の幼樹呪の樹皮が裂け、樹本体も傷ついた。

 が、そこまでだ。

 切れたのは表面だけで、熱拍の幼樹呪の上部の一部が切断されることはなかった。


「で、暴れ出すと」

 そして、私の攻撃に怒りを覚えたのか、あるいは一定値以上のダメージに対する機械的な反応なのか。

 熱拍の幼樹呪は脈打ち始め、周囲に熱を放出し始めた。


『どうするでチュか?』

「さてどうしようかしらねぇ……ああいや、そんなことを言っている場合でもなさそう」

 距離を取っている私たちの前で熱拍の幼樹呪が姿を変えていく。

 私の攻撃によって裂けた部分から、大量の樹脂が血のように零れ出てきたかと思えば、樹皮に付いたそれらは目、耳、鼻と言った感覚器に変わっていく。

 裂けた樹皮も断面部分が分厚く唇のようになって、傷口に沿って牙が生え揃っていく。

 呪限無の石門に繋がる穴からは炎で出来た腕が飛び出てくる。

 私はこれらの変化を前にして、『鑑定のルーペ』を向けた。



△△△△△

熱拍の変異樹呪 レベル17

HP:80,742/83,766

有効:なし

耐性:灼熱、沈黙、出血

▽▽▽▽▽



「っ!?」

『反撃でチュか』

 鑑定に対する反撃で私のHPバーが100程度減る。

 しかし、姿に合わせて名前が変わっただけでなく、ステータスも変わっているのか。

 最大HPは減っているし、耐性も変わっている。

 与えたダメージが持ち越しされているっぽいのはいいとして、耐性に出血が増えているのは……姿を変えなければいけなくなった原因に対処するためと考えるのが妥当そうか。


「ーーーーーーーーーーー!!」

「ま、やれるだけやりましょうか」

『まあ、そうするしかないでチュよね』

 熱拍の幼樹呪改め、熱拍の変異樹呪はこちらを威嚇するような叫び声を上げると、炎の腕を振りかぶりつつ、こちらに向かって真っすぐに飛んできた。

09/09誤字訂正

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