243:アドン・エンハンス-3
本日一話目です
「強いわね」
『強いでチュねぇ』
「ギゴ……チュガア……」
『
私もザリチュも、恐らくは実験台にされた毒頭尾の蜻蛉呪も同じことを思った事だろう。
それだけの強さを『呪法・増幅剣』は持っていた。
「では、戦いも終わったことだし、改めて録画を使いつつ、検証していきましょうか」
「『でっチュねー』」
さて、『呪法・増幅剣』の性能を確かめた先ほどの戦いはライブ配信すると共に、録画もしておいた。
毒頭尾の蜻蛉呪の死体は回収したので、その録画を使って私は『呪法・増幅剣』の性能詳細を確かめていくとしよう。
「まず、『
『でチュね』
対象は毒にかかっていない状態の毒頭尾の蜻蛉呪。
これに1つの目で『
ここから、13の目で撃ち込んだ時の効果は、毒(78)。
呪詛濃度20のこの場で、相手に毒耐性がなく、最大値で入るならば、毒(273)。
実際には毒頭尾の蜻蛉呪は高濃度の呪詛を纏っているので、耐性がなければもっと効果は上がる。
ここから、毒頭尾の蜻蛉呪の毒耐性の高さがうかがえる。
では、『呪法・増幅剣』の条件を満たして13の目で撃ち込むとどうなるかだが……毒(282)と表示されている。
うん、跳ね上がっている。
どう考えても、耐性貫通も効果そのものも強化している。
「速さ、剣の動かし方によって、増幅率も上がる。速ければいいのは分かるけど、動かし方の理想は……普通の剣で相手を切るような動きの方がいい感じかしら?」
『ただ剣を飛ばして刺す、よりは、きちんと相手の体に刃を当てて引き、切る、の方が増幅率がいい感じではあるでチュね』
速さについてはともかく、剣の動かし方については、本格的にスクナの道場で学ぶのも良さそうだなと感じた。
具体的な増幅率の増減幅は検証不足だが、どうにも剣の腹で叩くような動きだと速さ分で稼いだ分しか増幅されていない感じがある。
剣の腹で叩くよりはマシだが、ただ飛ばして刺す、ただ剣の刃を叩きつける動きも、切ると言う動作を伴った場合よりは増幅率が低い気がする。
とりあえず確かなのは、きちんとした剣の扱い方に沿った動かし方をした方が効果が増すと言う事だ。
剣を動かす速さを速くする方法を求める意味でも、やはり何処かで基本くらいは学んだ方がよさそうだ。
「凝視した邪眼の数による差は明らかよねぇ……」
『どう見ても別物でチュねぇ』
剣の動きによる変化に比べると、条件を満たした邪眼の数による増幅は分かり易い。
数が多ければ、それだけ効果も上がる。
ただそれだけだ。
とは言え、こちらの条件はそれだけ攻撃の瞬間に隙を晒す事に繋がる事でもある。
『呪法・増幅剣』を伴った13の目による邪眼術の威力は、桁違いの代物になるが、リスクも同様に跳ね上がると理解しておくべきだろう。
「んー、総評すると、PvPよりはPvE向けな気がするわね」
「『どういう事でチュか?』」
「いやだって、私の邪眼術って元々プレイヤー相手だとオーバーキル気味じゃない。そこでリスクを冒して『
「『対多人数戦で使う事はあるかもでチュよ?』」
「ああ、剣一本、目三つとかね。無いとは言わないけど、そういう場面は少ない気がするわ」
対多人数戦での使用か……無いとは言わないけれど、よほど慣れないと、剣の動きが相当雑な物になる気がする。
とりあえずモンスター相手で、今のようにソロで活動しているから、嫌でも接近戦になる、と言う状況なら、基本的には『呪法・増幅剣』を使った邪眼術でいいかもしれない。
「……」
「『どうしたでチュ?』」
「いえ、ちょっとね」
ただ、『呪法・増幅剣』はあくまでも一工夫することで、邪眼術の効果を増幅するパッシブスキル。
有用ではあるが、必ず使わなければいけないものではない。
相応のリスクも背負っているのだし、使うべきでない時は使わないと言うのは忘れないでおいた方がいいだろう。
「とりあえずもう一戦ね。今度は他の邪眼と合わせた時にどういう挙動をするかの確認よ」
『分かったでチュ』
他にも確かめる事がある。
と言う事で、もう一戦してみたのだが……その結果として、幾つか興味深いものが見れた。
「……!!」
「へー、面白いわね」
『見事に爆散して、素材は回収できなかったでチュね』
「そっちは想定通りだからどうでもいいわ」
一つ『呪法・増幅剣』による強化が成功すると、発動した邪眼術使用時の目の輝きと同じ色の光が、発動点に生じる。
その際、増幅率が高ければ高いほど、輝きも強くなる。
これに気づいたおかげで、おおよそではあるが、増幅率の上げ方や上手くいったかの判断が付くようになった。
「それよりも『
『そういう笑みは浮かべない方がいいと思うでチュよ……』
邪眼術それぞれの挙動としては……
『
『
『
『灼熱の邪眼・1』:熱が一点に集中するためか、与ダメージの増幅率が他の要素の増幅率よりも高い模様。
『出血の邪眼・1』:習得した時にも確認したことだが、出血の効果が発揮されるとき、切りつけた場所に傷が現れるようになっている。
「後、薄々感じてはいたけど、出血って重症化すると、発動時のダメージが増えるのね」
「『爆発の勢いの影響でチュかね。たぶんでチュけど』」
「かもしれないわね」
うん、今後の戦闘の幅がだいぶ広がったような気がする。
別パターンの呪法も幾つか既に思いついているし、実際に習得する時が楽しみだ。
「さてと、それじゃあ『
「『樹皮と赤樹脂、それに木材でチュかね』」
「そんなところね」
私は急に戦闘が始まってもいいように、二本の呪詛の剣を作り出すと、それを両脇に控えさせつつ、熱拍の幼樹呪を探し始めた。