239:現実世界にて-10
本日一話目です
「掲示板で人気沸騰中みたいよ。樽笊さん」
木曜日の大学にて。
食堂でいつものように財満さんと話をしようとしていたら、まず言われたのがこれである。
「人気沸騰中ですか。呪限無、『熱樹渇泥の呪界』についてですね」
「ええ、その通りよ。と言うかそういう名前の場所だったのね」
財満さんに話を聞いたところ、私が垂れ流しにした映像によって掲示板が大きく荒れているらしい。
どうやったら呪限無に行けるのか。
呪限無に行くのはいいのだが、あんな場所どうやって攻略すればいいのか。
雑魚カースがキモイ。
その他諸々etc.と言う感じで。
「いつもの事ですね」
「まあ、いつも通りと言えばいつも通りね」
私は表情を変える事もなくそう言った。
財満さんも同様である。
「問題はタルとリアフレであると知られている私の方に凸ってくる馬鹿が居る事なのよねぇ……」
「GMコールで対処すればいいのでは? 『CNP』のGMコールは優秀ですよ?」
「もうやったわ。ただ、ああ言うのは関わるだけでも損と言うか、不幸になるのよねぇ」
「ああ、時々居ますよね。関われば関わるほど疲れるし、面倒になる人間って……」
が、その後に財満さんは微妙に疲れた表情を見せた。
うーん、流石に少しくらいは情報を出しておくべきか。
「じゃあ少しだけ。『熱樹渇泥の呪界』は通常のルートで行ける場所ではないし、私に合わせて生成された疑惑のある呪限無です。なので……」
「私たちがいずれ行くであろう普通の呪限無は、あそこまで特殊な環境にはならない、と」
「そういう事です。まあ、呪限無を探索するなら、そこがどんな呪限無であるにせよ、呪詛濃度調整装備や呪詛の霧を見通せる装備品は必須ですね」
「なるほどね。その情報、掲示板にも流しておいてもらえると助かるわ」
「分かりました」
と言うわけで、これらの情報は掲示板に流しておいた。
と、ここでブラクロ、カゼノマ、ロックオの三人が近づいて来たので、私はスマホの画面が見えないように少しだけ姿勢を変える。
「……。樽笊さん、今更だけど、あの三人に樽笊さんの正体を隠す必要ってあるの? 黒白く……ブラクロはともかく、ロックオとカゼノマは樽笊さんが誰か気づいていて口に出していないだけだと思うわよ?」
「うーん、まあ、今更明かすのもなんだと思うので、黙っておきます。ロックオとカゼノマはともかく、ブラクロは……なんでしょうね、論理的に考えれば大丈夫なのは分かっているんですけど、いざ明らかになったら、うるさそうな気配がどうしてもぬぐえないんですよね」
「ああ、何となく分かるわ……。ブラクロってどうしてか、そう言うところで信用できないと言うか……信頼できないと言うか……」
「ここまでくると一種の才能。あるいは呪いですよね。どうしてか正当に評価できないと言う」
「そうね。そんな感じはあるわ」
なんか思わず話が盛り上がってしまう。
いやうん、本当に、冷静に評価すれば、ブラクロはちゃんと噤むべき時はくちを噤むし、秘密は守れると分かっているのだが、どうしてだか、評価がしづらいと言う。
普段の言動……いや、細かいしぐさなどの問題なのだろうけど、不思議な話である。
「そう言えば気になったんだけど、今回樽笊さんがライブ配信で垂れ流した理由って何なのかしら?」
「大した理由はないですよ。他の第二マップに到達したプレイヤーたちに倣ったようなものですし」
「呪限無は第二マップじゃなくて、エンドコンテンツみたいなものだと思うわ」
「第二マップですよ。『熱樹渇泥の呪界』は呪限無の中でも浅層……浅い層だそうですから」
「つまり、まだまだ奥があるってことなのね……」
「そうなります。まあ、浅層の探索を一通り終えた上で、色々と手を打つ必要があるでしょうけど」
さて話を呪限無に戻そう。
「ああでも、取ってつけたようなものでよければ、私個人の理由もありますよ?」
「と言うと?」
「だって面白くなりそうじゃないですか」
「面白くなる?」
そう、呪限無の存在を明らかにして、部分的に情報を出せば、確実に面白くなる。
だってだ。
「呪限無に行く為に、カースと戦うために、そして、それらを倒して得た素材によって強化された私と戦う為に、他のプレイヤーたちは試行錯誤を繰り返し、強くなっていき、私が知らないものをどんどん見出していくじゃないですか。そしてイベントで披露してくれる。これが楽しくないなんて、私にとってはあり得ないです」
「……。はぁ、うんまあ、樽笊さんはそうだったわね」
私の言葉に財満さんが一度遠くを見つめた後にため息を吐き、何かを納得したように口を開く。
「ちなみにイベントで不利になるとかは考えないの?」
「考えませんね。この程度では不利になるとは思いませんし。そもそも私はエンジョイ勢ですよ。負けても悔しくはありますが、仕方がないとも思ってます」
「なるほど」
と言うか、探索風景を明かした程度で不利になるなら、元々有利でも何でもないだろう。
「そう言えば次のイベントってどうなるんでしょうか?」
「公式からの発表はまだないわね。八月に入ったら発表があるんじゃないかしら」
「なるほど」
出来ることならば次のイベントまでに『熱樹渇泥の呪界』の探索を終え、一通りの強化を済ませたいところではある。
となれば、今日もやはり『熱樹渇泥の呪界』に潜るとしよう。
きっと色々と見つかるはずだ。
09/07誤字訂正