235:ヒートサースト-3
本日一話目です
「……」
私はさらに300メートル程降下。
最初の高さから600メートルほど下る。
そして、200メートル先に広がる黒い砂の海を観察する。
「渇泥と言うのはたぶんアレよね」
「『アレだと思うでチュ』」
黒い砂の海は、周囲の熱樹の拍動によって波打っているらしく、大きな波が起きる間隔と熱樹が拍動する間隔は一致している。
波の高さは拍動が上手く重なると100メートル程の高さに達するが、基本的には10メートルから20メートルと言うところか。
とりあえず、今私が居る高さならば安全だろう。
だが、これ以上アレに近づこうとは思えなかった。
あの黒い砂からは、『呪い樹の洞塔』で見た外の黒と同じように、触れればただではすまない気配がしたからだ。
「チュブラガアァ!」
「あら、ちょうどいいわね」
「『あーあ、ご愁傷さまでチュ』」
と、ここで毒頭尾の蜻蛉呪が一匹、私の方に向かってくる。
先ほど戦った個体よりも一回り小さい。
なんにせよ好都合だ。
「チュブラ……ゴッ!?」
私は最初の突撃を回避して、毒頭尾の蜻蛉呪に『
すると、気絶によって毒頭尾の蜻蛉呪の意識が途絶え、空中に浮くための力も失われたために体勢が崩れる。
「せいっ!」
「!?」
そのタイミングで毒頭尾の蜻蛉呪の頭に向けて、毛皮袋から取り出したフレイルを叩きつけ、下方向への加速をつける。
「よっ」
「ー!?」
で、毒頭尾の蜻蛉呪の意識が復帰し、体勢と浮力が回復するタイミングを狙って追撃の『気絶の邪眼・1』。
再び気絶させる。
そして、気絶から復帰して体勢を立て直すタイミングで、更に追撃。
『気絶の邪眼・1』を適切なタイミングで継ぎ足す事で、毒頭尾の蜻蛉呪を落下させていく。
「チュゴッ!?」
「さてどうなるかしら?」
そうして10の目で『気絶の邪眼・1』を撃ち込んだところで、偶々高く跳ね上がった黒い砂が毒頭尾の蜻蛉呪に触れた。
「チュバゴ……ギッ……ガッ……チュア……」
「うわぁ……」
「『これは酷いでチュ』」
一言でまとめてしまうならば、ザリチュの感想通り、酷い、だ。
詳細を述べるならこうなる。
まず、黒い砂が毒頭尾の蜻蛉呪に触れた。
すると、黒い砂が泥として膨れ上がると共に、泥に触れた部分の体が一滴の水分も残さない程に乾いた。
そして、最初に触れた砂にくっつくように他の黒い砂が集まってきて、その度に毒頭尾の蜻蛉呪の体から水分が奪われていった。
最終的に、重量が大きく増し、体力と水分を奪われた毒頭尾の蜻蛉呪は、体の大半が黒い泥に覆われ、外に見える部分もくまなくミイラ化した状態で黒い砂の海の底に向かって消えていった。
「絶対に触れてはいけないわね。触れたら、私たちもああなるわ」
「『黒い砂の海より下を探るなら、対策装備は必須でチュね。対策装備を作れるかも分からないでチュが』」
正に渇泥。
渇きの泥だ。
上手く回収できれば、用途は非常に多そうだが、回収をするならば、ザリチュの言う通り、対策装備……いや、もはや専用装備と言うべきものが必要だろう。
「上に……いえ、先に横ね」
『チュ?』
「熱樹の放つ熱の量が最初に居た高さよりも弱い気がするわ」
私は黒い砂に触れないように注意しつつ、熱樹に近づいていく。
最初に見た通り、熱樹の樹皮は白、赤、黄が混ざっていて、とても鮮やかである。
また、一定の間隔で拍動をしているのは分かっていたが、近づくとその拍動の強さがよく分かる。
迂闊に触れて、そのタイミングで拍動が起きれば、それだけでもダメージを負いそうな気がするほどだ。
「うん、やっぱり弱い」
「『だいぶ違うでチュねぇ』」
そして、そういう事が分かるほどに近づけるように、上層部程に熱樹から放たれる熱の量は多くない。
拍動の事がなければ、触れる事も出来そうだ。
ただ、逆に考えると……上層部に行くほど、放たれる熱は強くなる。
私の火炎耐性だと、油断して近づき過ぎたら、普通に体が発火して焼け死にかねないかもしれない。
「あ、折角だし鑑定しておきましょうか」
私は『鑑定のルーペ』を熱樹に向ける。
植物も生物なので、鑑定は出来るはずだ。
△△△△△
熱拍の樹呪 レベル25
HP:???/???
有効:なし
耐性:灼熱、気絶、沈黙、小人、脚部干渉力低下、恐怖
▽▽▽▽▽
「熱拍の樹呪ねぇ……」
「『HPが膨大過ぎて、見えない感じでチュかねぇ』」
「でしょうね。サイズから考えても、カロエ・シマイルナムンの数倍はあるんじゃないかしら」
鑑定成功、反撃もなし。
と言うか、これもやっぱりカースなのか。
流石は呪限無と言うべきだろうか。
「んー……上の方に移動して、熱拍の樹呪の放つ熱が上層部の方程強いことを確認しつつ、拠点探しに移りましょうか」
「『分かったでチュ』」
私は斜め上に向かって移動を開始する。
で、熱拍の樹呪についての予想が正しいことを確認した。
「じゃあ次は呪詛濃度の高い場所ね」
「『正気でチュか?』」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、よ。まあ、100メートルを切っても、中が見えないなら逃げるけど」
続けて呪詛濃度が21以上あるであろう呪詛の霧の塊に向かって移動していく。
呪詛の霧の塊は支える物のない空中に浮いているが、そこから移動することはない。
となると、呪詛を集めている核ぐらいはありそうだ。
「へぇ。近づくわよ」
『分かったでチュ』
そうして残りの距離が150メートル程になったところで変化があった。
呪詛の霧の塊の中心に、宙に浮いた白い木の塊のようなものがあるのが見えてきた。
私はそれに近づいていった。
09/04誤字訂正