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230:リサーチサクリベス-3

「さて……」

『ぐっすり眠っているでチュね。ああ、その奇麗な顔に毒液とかぶち込んでやりたいでチュねぇ。と言うかやるでチュよたるうぃ! 性悪悪辣聖女にチュアアアアァァァァ!?』

 聖女様たちの寝ている部屋への潜入は成功。

 聖女様たちはどちらも寝ていて、部屋の中に他の人影はなし。

 部屋の外には複数人の護衛が居るが、私たちに気づいた様子はない。

 随分と迂闊な気もするが、おかげで楽に探索できたので良しとしよう。

 で、とりあえずザリチュを一度抓って黙らせると、私は二人の顔めがけて呪詛濃度6程度の呪詛の霧を浴びせた。


「っ!?」

「くっ!?」

 反応は劇的だった。

 呪詛の霧が顔に触れるよりも一瞬早く二人とも目覚め、聖女アムルが張った透明の壁のようなものによって呪詛の霧の進行は止まり、聖女ハルワが腕を振るうと進行が止まった呪詛の霧が消失する。

 で、叫ばれる前に、目一つ分の『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』を発動。

 発声を20秒だけ止めさせてもらう。


「久しぶりね。聖女ハルワ、聖女アムル。今日は地下でちょっと面倒な物を見つけたから、こっそり渡しに来たわ」

 私は二人から少し離れた場所で、顔以外の11の目を閉じつつ両手を上げて、攻撃の意志がないことを示す。

 二人の表情は……まあ、苦々しい。

 私が不倶戴天の敵であることを考えたら、当然の反応とも言えるが。


「とりあえず物を出すわ」

 私は腰の毛皮袋から四冊の本を取り出すと、二人の前に置いていく。

 さて、そろそろ沈黙が解ける頃か。


「面倒な物? 今この場で一番面倒なのはアンタよ。呪限無の化け物」

「落とし児タル。貴方自身はともかく、そこの普段よりも潰れていて、みすぼらしさが増している汚い帽子は部屋の中に入れないでいただけますか? 私、怒りのあまり叫び声を上げてしまいそうです」

『オベッチュ。あーあー、ゲロカスみたいな意見が聞こえたでチュねぇ。そんなに叫び声を上げたいなら、絞め殺される鶏みたいな声を上げればいいでチュよ! ざりちゅは手伝ってやるでチュよおぉ!』

「はいはい、恨み言は私が去った後に好きなだけ言いなさいな。それよりも今はこっちよ」

 聖女ハルワは何時でもこちらに飛びかかれるような姿勢で、苦々しくこっちを見ている。

 聖女アムルは笑顔だが、不機嫌さを隠そうともしていない。


「この四冊の本は、聖浄区画の奥深く、居住区域にあった本よ。通常の状態では普通の本なんだけど、こうやって高濃度の呪詛を浴びせると、その時だけ見えるようになる文が隠されているわ」

「「……」」

 私は本の仕掛けについて話した。

 ただそれだけで二人の表情が一気に引き締まった。

 どうやら、この仕掛けの厄介さに気づいたようだ。


「呪限無の化け物。仕掛けがあったのはこの四冊だけ?」

「私が発見したのはこの四冊だけね。他にあるかは分からない。今も使われているかもわからない。どういうインクで、どの程度のものにまで書けるかも分からないわ。私が発見したのは、ただ高濃度の呪詛を浴びると見えるようになる文章があったことだけよ」

 実際、この仕掛けは極めて厄介だ。

 呪詛濃度10以上ないと読めないなんて、仕掛けを知らなければ、偶然ダンジョンの中に文章を持ち込んで目を通さなければ気づくはずもない。

 そして呪詛濃度10と言うのは、異形度0のNPCだと、呪詛濃度過多を起こす直前の呪詛濃度であり、何かしらの目的や意図がなければ、関わることなどありえない濃度だと言える。

 しかも、このインクだが、恐らくは紙の濡れ具合などから認識することが出来ないようになっている。

 本当に厄介だ。


「なるほど。確かに緊急の案件ですね。何処でどのようなやり取りがあったのか、分かったものではありません」

「ええそうね。悔しいけれどアムルの言う通りだわ。このインクが今でも使われていたら、堂々と危険なやり取りが行われている可能性があるもの」

「まあ、そういう事ね」

 と言うわけで、どう対処するかは聖女様にお任せだが、ある事を知らなければ対処もクソもないので、この情報は極めて重要な物である。


「で、本命はこの本ね。同じ仕掛けが施されているんだけど、書かれている内容がヤバいのよね」

「は?」

「え?」

『チューッチュッチュッ、勝手に本命を勘違いしていたでチュねぇ。ザマァでチュ』

 さて、『スクリィヒ・テンビ』の本である。

 私は呪詛濃度10の呪詛を纏わせ、震えている状態の本を二人に渡す。


「何故震えているのかしら? 嫌がらせ?」

「なのかしらね? とりあえず私には理由は分からなかったわ」

「書き手の怨念でも込められているのでは?」

『この震えだけは本当に謎でチュ』

 読みづらそうにしているが……勘弁してもらいたい。

 なお、二人が呪詛濃度過多に陥る心配はしていない。

 以前に二人は視界を共有する呪いを持っているとか聞いた覚えがあるので、見た目は異形度0でも、実際には異形度1はあるはずだ。


「……。なるほど。確かに危険な資料ね。直接私たちの下に届けてくれたことに感謝をします。呪人タル」

「あら素直ね」

「嫌々で、渋々で、やむを得ず、けれど聖女として、人の上に立つものとして、サクリベスに益をもたらした者に対して最低限の敬意を払っているだけです。繰り返して言いますが、嫌々、渋々、やむを得ずです。いいですね」

 こう、聖女ハルワの背後にオノマトペを出すなら、『ぐぬぬ……』と言うところだろうか?

 でもまあ、流石は聖女様だ。

 この資料の危険性までしっかり理解してくれたらしい。


「落とし児タル。貴方がこの知識を得たと言う事は……」

「心配しなくても、最大限安全には配慮するわ。失敗する気はないけど、失敗しても第一に被害を受けるのは私にして、対処せざるを得ない状況にはしておくわ」

「そうですか。ただ、被害が生じるなら、その薄汚い帽子が真っ先に損壊するように取り計らっていただけると嬉しいですね」

『チュアアアァァ! いい度胸でチュねぇ! 本当にいい度胸でチュねぇ! その内目にもの見せてやるでチュからねぇ!!』

 そう、この資料を利用すれば、呪限無への門を開ける可能性がある。

 そして、呪限無への門を開けると言う事は、カースを呼び出せると言う事でもある。

 夢の中かつ事故とは言え、私は既に呪限無に至る門を作った実績も持っていて、そんな私の知識が補強されたならば、二人が私に鋭い視線を送るのも当然の事と言えるだろう。

 おまけに二人の予想通り、私は呪限無への門を作る気満々だし。


「今回の件の対価は見逃せ、と言うところですか」

「そういう事ね。一回だけ見逃してくれれば、それで十分よ」

 私は本の周りに留めていた呪詛の霧を回収すると、窓の方へと移動していく。


「行かないと言う選択肢は?」

「ウチには凶暴で大喰らいの番犬のようなものが居るの。いつの間にか居たと言うか、あっちのが先でしょうけど、いずれにせよ放置はなし。放置したら、先々で詰む未来しか存在しないわ」

 さて、そろそろ腹も空いてきた事だし、失礼させてもらうとするか。


「「……」」

 私と聖女ハルワはしばしお互いに睨み合う。


「分かりました。私とアムルは違和感を感じたので、偶然この本を持ち帰っていた。呪限無の化け物なんて此処には来ていない。本のページの一つをダンジョンで見てみたら、新たな文章が出現していた。これで行きましょうか」

「分かったわ。じゃあ、私はここには来なかった。何も話はしなかった。だから私がこれからすることは聖女様たちは知る由もなかった。これで通しましょう」

「そして何かあった時には、偶々人員と装備が整っていた。私たちと親しいものがサクリベスの南側寄りに居た。こうですね」

 うん、話はまとまった。

 これで必要なセーフティーネットは張れただろう。


「じゃ、失礼……いえ、訪ねても居ないのだから、挨拶は不要ね。うーん、まあいいか。ではではー」

 私は窓から外に出ると、手近な草の葉の間に入っていく。

 そして、自分に対して『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』を使用。

 私に気絶(1)と電撃属性の1ダメージが入り……直後、私は赤い霧をその場に残して、セーフティーエリアに転移した。

 いや、こう言うべきか。

 閉じた目の裏側で自分に『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』を使って出血のスタック値を貯め、起爆し、死に戻り(デスルーラ)

 小人状態だったので、爆発力も抑えられ、周囲への被害らしい被害もなく、誰の目にもつかないように移動することに成功したのだった。


≪称号『小人使い』を獲得しました≫

 あ、はい。

 そう言えば自爆でも獲得できたか。



△△△△△

『蛮勇の呪い人』・タル レベル17

HP:0/1,160

満腹度:25/110

干渉力:116

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・2』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『大飯食らい・1』、『呪いを指揮する者』、『???との邂逅者』、『期せずして呪限無の門を開くもの』


呪術・邪眼術:

毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』、『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』、『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』、『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』、『小人の邪眼・1(タルウィミーニ)』、『足縛の邪眼・1(タルウィフェタ)』、『恐怖の邪眼・3(タルウィテラー)』、『禁忌・虹色の狂眼(ゲイザリマン)


所持アイテム:

毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、呪い樹の炭珠の足環、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトル、タルの身代わり藁人形etc.


所有ダンジョン

『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール設置


呪怨台

呪怨台弐式・呪術の枝

▽▽▽▽▽


△△△△△

『小人使い』

効果:小人の付与確率上昇(微小)

条件:小人(100)以上を与え、小人の効果が残っている間に生物を殺害する。


私の小人の力を見るがいい。

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09/01誤字訂正

09/02誤字訂正

08/28誤字訂正

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