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228:リサーチサクリベス-1

「んー……案外視界良好ね」

 火曜日。

 ログインした私はいつも通りの作業を終えると、自分に『小人の邪眼・1(タルウィミーニ)』を重ね掛けして、小人のスタック値を500近くまで上げる。

 その上で、昨日の内に、子毒ネズミの毛皮から作ったこれを着用した。



△△△△△

子毒ネズミの着ぐるみ

レベル:3

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


子毒ネズミの死体から奇麗に毛皮を剥いで作られた着ぐるみ。

微弱ながら毒耐性を有しており、外部からのこれらの力に強くなる。

頭部は子毒ネズミの頭蓋骨を利用することで、型崩れを起こさないようになっている。

▽▽▽▽▽



『背中を除けば、見た目は見事に子毒ネズミでチュね』

「そうね。これなら誤魔化せるかしら?」

『んー……見た目は大丈夫だと思うでチュ。こうなると怖いのは周囲の呪詛濃度でチュかねぇ。その見た目で呪詛濃度19の呪詛の霧を纏ったりしたら、そちらの方が騒ぎになるでチュよ』

「ああそうね。そこは気を付けた方がいいわね」

 現在の私の見た目は、背中から六枚の虫の翅が出ている子毒ネズミと言う感じだ。

 視界は背中の翅についている目と、口の中から外を覗ける構造になっているので、問題はない。

 動く事についても、四肢は問題なく動かせるようになっているし、虫の翅での飛行もあるので、こちらも問題はない。

 なお、現在私が身に着けている装備品についてだが、着ぐるみにした子毒ネズミのサイズが大きかったおかげで、ポーションケトルや毛皮袋は問題なく着ぐるみ内に入れることが出来ている。

 ザリチュについては頭蓋骨の中で少し窮屈な思いをしてもらうと共に、帽子の先が目の部分から外に出ているが、これくらいなら異形の一種として見逃される範疇だろう。

 他の装備品については、最近影が薄いフレイルを置いていく以外は、全く問題なしである。


「じゃあ、出発ね」

『でチュね』

 では、こんな物まで用意して、一体何をするのだろうか?

 一言で言ってしまえば調査だ。


「到着っと」

『気を付けるでチュよ』

「分かってるわ」

 私はサクリベスに転移する。

 そして纏う呪詛濃度を目算10で維持しつつ、結界扉から外に出ると、夜陰に乗じてプレイヤーやNPCの足元を縫って移動。

 建物の陰に隠れる。

 周囲の反応は、ネズミの出現に多少の騒ぎは起きるが、それだけで済んだようだ。


「神殿はあっちだったわね」

『空振りにならないといいでチュね』

「うーん、その可能性がないとは言えないわね……」

 今回私がサクリベスにやってきたのは、呪限無へ移動するための情報を集めるためだ。

 そう、呪限無への門が開きかけたことがある『サクリベス地下・聖浄区画』、あそこの本格調査が目的である。


『しかし、たるうぃが調査する必要があるんでチュか?』

「と言うと?」

 私は建物の陰で周囲の呪詛濃度を高めると、建物の屋上まで一気に飛び上がる。

 そして、呪詛濃度を戻すと、神殿に向かって移動を始める。


『毎度おなじみ検証班が調べていると聞いているでチュよ。検証班は専門家でチュよね。で、たるうぃは素人でチュ。調べる必要があるんでチュか?』

「ああ、そういう事。でもね、あそこで調べ物をしている検証班は低異形度のプレイヤーなのよ。低異形度プレイヤーと高異形度プレイヤーでは見えるものが違うことがあるのは実証済み。それ以外にも私は私にしか出来ない事があると思っているわ。自惚れでもなんでもなくてね」

『それはまあ、そうでチュね』

 神殿に侵入成功。

 人影は疎ら、明かりも疎ら、私は人目に付かないように気を付けつつ、地下の入り口へと向かっていく。


「と言うかね。呪限無、カース、それら以上にヤバい諸々については、自分で調べなければ情報は手に入らない。検証班の実力以前の問題としてね」

『あー、そうだったでチュね。『七つの大呪』とか喋るのもアウトでチュもんね』

「そういう事よ」

 地下への入り口には複数人のNPCが見張りとして立っていた。

 が、私は僅かな隙を縫う事で、侵入に成功。

 どんどん奥へと向かっていく。

 しかし向かうのはカロエ・シマイルナムンの劣化体と戦える生産区画ではなく、居住区画の奥の方だ。


『臭いが酷いでチュねぇ……』

「そう? 私は特に感じないけど」

『まあ、たるうぃの鼻だと分からないでチュよね。でも、ざりちゅの鼻には、この程度の掃除だとまだまだ臭いがこびりついているのが分かるんでチュよ』

「なるほどね」

 居住区画の奥の方は、カロエ・シマイルナムンによっておかしくなったNPCたちの巣窟であり、そこで行われていたのは、聖女アムル曰くあらゆる堕落行為だったか。

 それらの行いの中にはキツイ匂いが残る行為も当然存在しているだろうし、それならばザリチュの反応も頷けると言うものである。

 そして、そんな場所だからこそ、大半の人間は来ることを忌避するのだろう。

 プレイヤー含めて、人影はまったくない。


「そろそろいいか」

 私は着ぐるみを脱ぐと、小人状態を解除。

 普通に歩いて、部屋の調査を始めていく。

 他のプレイヤーが居たら……一応、姿は隠す方針で。


「おっと、当たりかしらね」

『でチュね。とても臭いでチュ』

 そうして調べること暫く。

 私が入室すると共に、置かれていた本が大量の呪詛を纏って、震えだす部屋があった。

 本の内容は……『スクリィヒ・テンビ』と言う人物が記した、聖浄区画の生産区画についての話であり、日記に近いか。

 特殊なインクを使われているらしく、どうやら、この本を読むためには、本の周囲の呪詛濃度が相応の高さでないといけないようであるらしい。

 私は本を読み始めた。

08/30誤字訂正

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