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225:現実世界にて-9

「優勝おめでとう。樽笊さん」

「準優勝おめでとうございます。財満さん」

 月曜日。

 暦の上では海の日で休みなのだが、私も財満さんも大学に来ている。

 レポートを書いたり、調べ物をするにあたって、図書館がある大学の方が便利だからだ。


「樽笊さん。それ、煽りにも聞こえるわよ」

「半分以上は純粋な称賛の気持ちですけどね」

「半分以下には煽りも含まれていると」

「そこはほら、対人戦の常と言うやつです」

 まあ、休日だけあって人影は疎らだ。

 と言うわけで、私も財満さんも気兼ねなく『CNP』の話をする。


「それと、優勝はしましたけど、反省点は大いにあるんですよね」

「と言うと?」

「決勝戦、相打ちに近い形で私はクカタチを仕留めている。けれど、事実として、あの決勝戦で一番早くに落ちたのは私なんです。しかも、こちらの探知手段を逆利用される形でですよ。反省しないわけにはいかないです」

「それは……まあ、そうね。そこは客観的な事実ではあるわ」

 正直に言えば、決勝戦は他の戦いに比べて反省点が多い。

 クカタチの件もそうだが、ザリアの状態異常対策のレベルを見誤ったのも痛い点だ。

 ザリアは私の邪眼術によって辛酸を舐めさせられているのだから、何かしらの対策を練っているくらいは想定しているべきだった。

 想定できていれば、もっと有効な動き方が出来ていたに違いない。

 他にも立ち回りや邪眼術の選択など、反省点は数多くあるだろう。


「でもそうね。それを言うなら、私も反省するべき点は多いのよね」

「財満さんもですか」

「ええ。小人による回避を予見できていなかったのもそうだけど、何よりも反省するべきは単純な実力不足ね。せっかく千華……妹が樽笊さんを仕留めてくれて、残ったライトリカブトさんにも十分な手傷を負わせてくれたのに、私はただただ圧倒されてしまった。あれほど悔しいことは早々ないわ」

「あー……確かにそうですね」

 確かに財満さんの反省点も多そうだ。

 もしもザリアがライトリのような重装備の相手との戦いにもっと慣れていれば、勝ったのは財満さんの側であったことは想像に難くないのだから。


「まあ、どういう反省をするにしても、結論は強くなるしかない。なのですけどね」

「一言でまとめるならそうでしょうね。一言でまとめなくても、同じ文言は入ってくるでしょうけど」

 まあ、駄目だった点が分かっているなら、それを改善すればいい。

 幸いにしてその機会はあるのだから。


「で、財満さんの使っていたあの人形は結局何だったのですか?」

「ああ、アレね。アレは一定強度以上の特定状態異常攻撃を受けた時に発動、短時間だけどあらゆる状態異常攻撃を無効化する使い捨てアイテムよ」

「厄介ですね……」

「そうね。自分の周囲の呪詛濃度を操作するアイテムと合わせて、樽笊さんにとっては厄介なアイテムになると思うわ」

 と言うわけで、見出した反省点の一つに未知……私が知らないアイテムの知識があると言う事で、財満さんから仮称・身代わり人形についての情報収集である。


「制作難易度はどうなのですか?」

「そうね……私は自分にかかっている呪いのおかげで簡単に作れたわ。私以外の人が作るのは……少し大変かも。砂漠で手に入る素材はともかく、もう一つの入手方法が分からない人も居るだろうから」

「なるほど。それならば、まだ何とかはなりそうですね」

 ふむ、仮称・身代わり人形はそう簡単に作れない、と。

 それならば一対一ならば、時間をかけることを前提に対処することは出来そうだし、普段の戦闘では問題にならなさそうだ。

 で、私が作るのは……たぶん出来る。

 恐らくだが、『ダマーヴァンド』の藁と私の体由来の素材があれば作れるのではなかろうか?

 ザリアが使っていたものよりも多少質は落ちるかもしれないが、今日のログインで作っておこう。

 貴重な保険になるはずだ。


「で、樽笊さんの使っていた小人についてはどうなの?」

「アレですか。アレは小人の樹の葉と言うアイテムです」

 私は財満さんに小人の樹の葉について話していく。


「なるほど、小人の邪眼の基にしたアイテムだったのね。でもそうね、確かに自分で好きな時に解除できないと言うのは面倒かも」

「面倒と言うか、私のように体のサイズに依存しない戦闘手段を持たないプレイヤーでもなければ致命傷になりますね。後、攻撃を受けて凌ぐタイプも厳しいでしょうか」

「ああ、防御力そのものも落ちているし、縮んだサイズに応じて被ダメージも増えるものね。これは樽笊さん以外の使い手が出てくることは当分なさそうね」

 小人状態については、使いどころが正直難しい。

 潜伏や回避で使うのでなければ、私のように物理方面を投げ捨てていないと碌なことにならないし。


「それで樽笊さんは今日からどうする予定?」

「とりあえずはイベント報酬の確認ですね。色々と得ましたから。その後は……」

「その後は?」

「少し考えていることがあるんですよね。上手くいって、話しても大丈夫そうなら、財満さんにも話すかもしれません」

 イベント後の動向については、財満さんはそろそろブラクロたちと合流して、本格的な砂漠探索を始めるとのことだった。

 私は……


「あ、うん。話せなくなるフラグね。分かったわ」

「立ってます? フラグ」

「立ったと思うわ。樽笊さんだし」

「そうですか。まあ、その時はその時で」

 呪限無に至る門を開いてみようと思っている。

08/27誤字訂正

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