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220:2ndナイトメアバトル-9

「さあ……どう動く?」

 何故外に向かって駆け出すのか。

 決まっている、体育館の中に留まっていては、床下から来るクカタチの攻撃を何時までも避けられないからだ。

 同時に、ライトリと遠距離攻撃を打ち合っているザリアを視界に収めて、邪眼によって仕留める事で2対1を作り出すと言う目的もある。


「逃がしません!」

「へぇ……」

 床下からクカタチの体が槍のように突き出され、私の背中に向かってくる。

 だが、数は一本、そのスピードも私を仕留めるには足りていない。

 なので、先ほどと同じ方法で無効化される可能性が高いので反撃はせず、避けるだけに留める。

 そして、壁の出入り口から外に出た。


「……!」

 ライトリは驚いた顔をしつつ、何かを叫ぼうとする。

 だが、ザリアの針によって沈黙が付与されている為だろう、声にはなっていない。


「タル!」

 ザリアは居た。

 壁際から私に向かって来ている。

 右手に持った細剣には呪詛が集まり始めていて、左手からは沈黙効果のある針が私に向かって投げられている。


「くっ……」

 クカタチは床下に逃げている。

 だが、こちらに向かって素早く動いている気配がある。


「……」

 私の体にザリアの針が刺さって、沈黙(3)が付与される。

 しかし、私の邪眼術には動作キーが設定されているので問題はない。

 私はザリアの周囲の呪詛濃度を高めつつ、先ほどと同じように『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』『恐怖の邪眼・3(タルウィテラー)』を撃ち込んだ。

 そう、確実に撃ち込んだ。


「!?」

 だが弾かれた。

 ザリアの胸元から現れた人形のような物が弾け飛んだだけで、ザリアに状態異常は入っていなかった。

 恐らくは状態異常付与攻撃に対する身代わり、しかも何かしらの制限によって私にだけ反応するようになっているアイテムだろう。

 そして、私の驚きを狙うようにザリアもクカタチも動く。


「咲き誇りなさい!」

 ザリアは血のように赤い呪詛を纏った細剣を振り下ろそうとしている。

 マントデアを仕留めるのにも使われた、ダメージのない連続攻撃によって高スタック値の出血を付与し、トドメの刺突で炸裂させる呪術。

 全てを受ければ、死亡確定の攻撃だ。


「よしっ!」

 同時にクカタチの体が近くの床下から突き出され、私の方へと向かってくる。

 ただし、先ほどのような槍ではなく、網のような形。

 こちらもまた捕らわれれば死亡確定の攻撃だ。


「……」

「うっ!?」

 私は即座に対処する。

 まず、邪眼術を使っていなかった目で『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』でクカタチの動きを止める。

 そしてインベントリから一枚の葉を取り出して握り潰す。


「なっ!?」

「……」

 握り潰したアイテムの名は小人の樹の葉。

 私の体に小人(100)が付与されて、私の体は本来の10分の1にまで縮小。

 同時に小さくなった体で全力で羽ばたき、ザリアの一撃目を回避。


「くっ、このっ!」

「……」

 続けて放たれた二撃目、三撃目もザリアの腕の動きをしっかりと見極めて避けていく。

 そして避ける方向はザリアから離れる方向ではなく、ザリアに接近する方向。

 こうすることで、気絶が解けたクカタチの追撃を防ぎつつ、ザリアの連続攻撃もしづらくしていく。

 が、流石はザリアと言うべきか、素早く後方にステップを踏むことで、私の体をしっかりと間合いに収めている。


「ぐっ……ブラッディフラワリング!」

「……」

 だが呪術の時間切れのようだ。

 強制されるようにザリアが見当違いの位置に向かって突きを繰り出し、体が硬直する。

 その隙を狙う形で私はザリアの首元に移動し、すれ違いざまに腰のナイフで切りつける。

 ダメージはほぼ無し、毒は僅かに入った。


「……」

「……」

 私はそのまま移動を続け、ライトリと合流。

 ザリアは体育館の中に移動し、クカタチは再び体育館の床下に潜んだ。


「……。喋れます。タルさん、アイテムによる小人で、自己解除は不可能ですね」

 私はライトリの言葉に頷く。

 沈黙は……後10秒と少しか。

 小人による回避は……ザリアの事だ、二度目は通じないだろう。


「強いですね。油断していたわけではありませんが、まさかこれほどとは……」

「……。ん、喋れるわね。そうね、予想以上に強いわ。私対策として、チャンス以外はきっちり隠れているし」

 さて、此処からどうするか?

 問題は幾つかある。

 物陰に隠れるザリアとクカタチをどうやってこちらの攻撃範囲に収めるか。

 ザリアの対策アイテムが後幾つあるか。

 切り離しによって状態異常を防ぐクカタチにどうやって状態異常を通すのか。

 ライトリと協力して事に当たるにしても、どう協力して仕留めるのか。


「呪詛濃度攻撃を試みるわ」

「分かりました」

 私は体育館を取り囲むように呪詛濃度を高めていく。

 目指す呪詛濃度は14。

 クカタチには何の効果もないが、ザリアは呪詛濃度過多でダメージを受ける濃度、ついでに言えばライトリには問題のない濃度だ。

 これをザリアが嫌がって表に出てくれば、そこへライトリが攻撃を仕掛けて仕留められるだろう。

 問題はクカタチだが……。


「クカタチの位置は?」

「体育館の床下から動いていないわ。クカタチの呪詛濃度維持装備の効果が私の感覚に違和感として伝わっているから、大丈夫なはずよ」

「分かりました」

 こちらの様子を窺っているのか、動く様子は感じない。

 ライトリは盾を消すと、右手に槍を、左手に『毒の投槍・1(ベノムジャベリン)』を持ち、投擲からの突撃を出来るように構えを取る。

 私も当然邪眼術を発動する構えを取る。


「動きます」

 体育館の入り口から煙玉が複数個投げられ、白煙が生じる。

 それと同時にライトリは『毒の投槍・1』を投じつつ、突撃。

 私もライトリの後を追うように飛んでいく。


「ザリ……っ!?」

「なっ!?」

 そうして白煙の中に飛び込んだところで私はザリアの姿を目視した。

 ライトリの槍もザリアを捉えるところだった。

 対するザリアは細剣を構えているが、呪詛濃度過多の影響で明らかに体調を悪くしていた。

 だが、私の邪眼術が発動するよりも、ライトリの槍が届くよりも早く、私もライトリも飲み込まれた。


「フイイィィッシュ!」

 地面から前触れもなく現れた、魚の姿をしたクカタチに。

 これはただの変形ではない。

 ほぼ間違いなくクカタチ独自の呪術だ。


『あーあ、やらかしたでチュね。たるうぃ』

「ガボガボガ……」

 やられた。

 クカタチは……私が呪詛濃度干渉の応用によって位置を探っていることに気づいていた。

 呪詛濃度維持装備を外すことによって、自分の位置を誤魔化したのだ。

 だが、ただでやられる気はなかった。


「うごげっ!?」

『でも、最後っ屁はしっかりやったでチュか』

 私は貯めていた邪眼術を……『毒の邪眼・1』を12発、クカタチに叩き込んだ。

 与えた毒は175。

 クカタチは毒の重症化に耐え切れず、形を崩す。


≪死亡しました。このまま試合終了までお待ちください≫

 私は小人状態の影響もあって被ダメージが増していたため、クカタチの熱湯による全身火傷で死亡。

 だがクカタチも私の毒によって間もなく倒れるだろう。


「せいっ!」

「ぐっ!?」

 勝敗の行方は幾らかのダメージと灼熱の状態異常を受けたライトリと、呪詛濃度過多の影響が抜け切らずに体調が優れないザリアの一騎打ちに託されることとなった。

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