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219:2ndナイトメアバトル-8

「何これ……」

「懐かしい」

「また妙な……」

「公立小学校くらいのイメージ?」

 さて決勝である。

 舞台は……体育館? うん、体育館だ。

 小学校にあるような体育館で、床は板張り、先生が話をするための壇、バスケットボールのゴール、一階部分を見下ろせる狭い二階の通路、壁には直接外に繋がる扉が四つと、体育館っぽいものは一通りそろってる。

 此処からでは詳細は確認できないが、ザリアの背後にはロビーに繋がるであろう扉もあるか。

 おっと、扉から見える外の地面が、私たちが今居る場所よりも少し低いことからして、床下空間もあるな。

 となると……この地形で一番有利なのはクカタチ、次が私、ザリアとライトリが同じくらいと言うところか。

 うん、だいたい把握した。


「さてザリア。これでPvPは三度目でいいのかしらね」

「そうね。一応三度目でいいと思うわ」

 私はライトリの背後に移動しつつ、ザリアに話しかける。

 決勝であるためか、まだ開始のカウントダウンは始まっていない。


「今回は私が勝たせてもらうわ。何時までも負けっぱなしと言うのは、趣味に合わないわ」

「ふふふっ、そう上手くいくかしらね」

 ザリアは右手で細剣を構えつつ、左手に沈黙効果のある針を持つ。

 準決勝の動画で見た時から身に着けている物が増えたりはしていない。


「上手くいかせるのよ。クカタチと一緒にね」

「タルさんには色々とお世話になりましたけど、だからこそ今日は全力で戦わせてもらいます」

 クカタチも外見は変わりなし、熱湯が少女の姿をしているだけだ。

 準決勝の動画どころか、『熱水の溜まる神殿』で会った時から姿は変わっていない。

 しかし、ポーション瓶やインベントリの袋すら見えないとなると……たぶん、クカタチにかかっている呪いで見えなくなっているな、これ。

 つまり、クカタチからはいきなり何が飛び出してきてもおかしくない、と。


「そう。ライトリ、前は頼んだわよ」

「言われなくても」

 ライトリは敢えて盾を持たずに、槍だけを持った状態で構えを取る。

 開幕と同時に突撃できる体勢とも言う。


『レディース、エンド、ジェントルメエェェン。アンド、エトセトラアアァァ。只今より、『CNP』第二回公式イベント『呪術師が導く呪詛の宴』、PvPイベント、決勝戦を行います』

「……」

 運営の万捻(まんねじ)さんの声が響き始める。


『それでは、改めて選手の紹介からさせていただきます。まずは壇側、邪眼妖精のタル、『光華団』のライトリカブト!』

 歓声の類はない。

 まあ、交流マップや掲示板では関係者が囃し立てているのだろうけど。


『続いてエントランス側、サボテンちゃんことザリア、熱湯スライムことクカタチ!』

「サボテンちゃん? お姉ちゃん、サボテンちゃんってのは……」

「気が付いたらあだ名として定着していただけで、私が名乗ったわけじゃないわ」

 うんまあ、掲示板だとサボテンちゃんで通じるからね、ザリアは。

 クカタチも熱湯スライムは的を射ていると思う。

 かっこいいあだ名が欲しいなら……まあ、後で掲示板で求めてみればいいのではなかろうか。


『両者とも実力がある事はこれまでの戦いで大いに示されております。ですので、決勝でも外野の目など気にせず、徹底的に勝ちを狙いに行ってほしいのが運営の意志となります』

「へぇ……」

「……」

「ひえっ」

「タル。その顔はアウト」

 運営の言葉に私は思わず笑みを浮かべてしまう。

 何故か全員ドン引きしているが、今の言葉で嬉しがらない方がおかしいだろう。

 だって運営直々に、どんな卑怯な手を使っても構わないから勝ちに行け、そう言われたようなものであるし。


『それではカウントダウンを開始いたします』

 カウントダウンが始まった。

 ならばもう言葉で語る事はない。

 10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……


 0


『決勝スタート!』

「ほいっと」

「せいっ」

「む……」

「ふうん」

 決勝の開始と同時にクカタチとザリアが動く。

 ただし、私とライトリの予想とは少し違う形で。

 まずクカタチが体の中から白色の球体を射出して、ザリアの細剣に当てた。

 呪詛払いの煙玉であったであろうそれは大量の白煙を生み出して、私とクカタチの視界を制限する。

 それと同時にザリアの左手から針が投げられ、開幕と同時に突撃を開始していたライトリの鎧の隙間を縫う形で針が突き刺さり、そこでライトリの姿は煙に紛れて見えなくなった。


「開幕煙玉ね……」

『ザリアはエントランスの方に逃げたでチュ。クカタチは不明でチュね』

 私は目玉琥珀の腕輪と呪詛への干渉によって周囲の呪詛濃度を上げつつ、煙の範囲外にまで後退。

 壇上に上がる。

 ライトリは最初の突撃が避けられたと判断した時点で、開いている扉から体育館の外……校庭のようになっている場所に離脱。

 ザリアはライトリの方に向かうだろうし、この分だと1対1が二つになりそうか?


「クカタチの位置は分かっているわ」

『どういう事でチュ?』

 あ、クカタチがライトリに向かっている可能性はない。

 と言うのも、私は私が支配している空気中の呪詛に干渉される気配を感じ取っている。

 今の状況で空気中の呪詛への干渉が出来る相手なんて、決まり切っている。

 だから、その動きを見ればクカタチが何処にいるかは分かる。


「ーーー!」

「甘いわよ」

 私は干渉しているものの位置が真下に来て、勢いよく動いたタイミングで横に飛ぶ。

 直後、これまでの戦いで何度かクカタチが見せていたように、私の脚元から大量の熱水が噴出、更にはその場にあるものを絡み取ろうとするような動きを見せた。

 動かないでいればどうなっていたかは考えるまでもないだろうが、動いたおかげでダメージは僅かで済んでいる。

 そして、クカタチのこの攻撃は反撃のチャンスでもある。

 だから私はクカタチの周囲の呪詛濃度を高めつつ、動作キーによって『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』『恐怖の邪眼・3(タルウィテラー)』をそれぞれ4発ずつ撃ち込んだのだが……。


「む……」

『切り離しでチュか』

 クカタチは床上に出てきていた部分を自切することによって、私の攻撃を回避。

 私の邪眼術による生成物はただ床上に広がり、霧散していった。

 ノーコストの回避方法ではないだろうが、いい判断だ。


「ふふっ、面白くなってきたわね……」

『ここで笑うのがたるうぃでチュよねぇ……』

 私はザリチュを被り直して、思わず微笑む。

 クカタチは床下で蠢いて、私の隙を窺っている

 ライトリとザリアは、ザリアが私の視界に入らないように注意しつつ、遠距離攻撃で応戦し合っているようだが、二人ともその気になれば遠距離攻撃でこちらに介入することも出来るだろう。


「こんな楽しい戦いなのに笑わないとかありえないもの」

 私は次の一手として、体育館の外に向かって駆け始めた。

08/21誤字訂正

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