215:2ndナイトメアバトル-5
「おっ、来たな」
「そのようだな」
対戦開始10秒前。
準決勝の舞台は遺跡の外と言うべき環境であり、苔が生えた石柱が等間隔で何本も生えている。
この石柱の太さなら、陰にきちんと隠れれば、私の邪眼術からギリギリ逃れる事も出来るだろう。
しかし、事前に組んだ戦術を考えると、私とライトリにとっては都合のいい環境と言えるか。
「さて、頑張りましょうか」
「そうですね。頑張りましょう」
ライトリが盾と槍を構え、私はフレイルを両手で持つとライトリの背後に立つ。
なんだか、フレイルを使うのは随分と久しぶりな気がする。
「では予定通りに」
「おうっ。任せておけ」
ドージは手に何も持たずに、適度に足を開いた構えを取る。
ブラクロは両手に短剣を持つと、少しだけ腰を落として、何時でも飛びかかれるように構える。
二人の位置はほぼ横並びで、どちらが先に仕掛けてくるかは読めそうにない。
特に特徴的な装備品の類はないが、道具袋に何かを仕込んでいる可能性はあるか。
さてカウントダウン3……2……1……
0
「退けっ!」
試合開始と同時にドージの周囲にある呪詛の霧が薄まる。
推定呪詛濃度は1、浄化術による呪詛濃度低下呪術だ。
「アオオォ……っ!?」
「撃たせないわよ」
合わせてブラクロが何かしらの呪術を使おうとしたので、『
「ふんっ!」
「狙いは私か!」
私たちから少し遅れて動き出したライトリがドージに向けて槍を突き出す。
ドージはそれを避けると、反撃の拳を打ち込もうとするが、ライトリはそれを盾で防ぐ。
そして、ライトリが纏う毒のオーラによって、ドージに毒が与えられ始める。
「そうかい! ならこっちも……」
「せいっ!」
「うおうっ!」
ドージを援護するべくブラクロが素早くライトリの側面に向かって駆け出し、鎧の隙間を狙って短剣を突き出そうとする。
が、それ先読みした私はフレイルを振り下ろして、ブラクロに回避行動を取らせる。
「邪魔すんな!」
「邪魔は基本よ!」
そして、私に狙いを変えて飛びかかってきたブラクロの攻撃をフレイルの持ち手の端、打撃部と繋がる側とは逆の方で受け止める。
私は空中浮遊持ちなので、踏ん張ると言うことは出来ない。
なので、それを逆利用し、前転するような重心になった状態でフレイルの端で攻撃を受けることで、私の体を回転させる。
すると必然的に私の持つフレイルも回転し……
「うぐおっ!?」
「狙い通り!」
ブラクロに蔦を絡ませ、打撃部がブラクロの顔を撃つ。
よし、この流れのまま一気に……とまで考えた時だった。
「ぬん!」
「っ!?」
ブラクロはフレイルのダメージに怯む事無く蹴りを放ち、私の腹に命中。
私は強制的に大きく吹き飛ばされる。
だがここまでで10秒だ。
私は『気絶の邪眼・1』のCTが残っている目を除いた12の目をブラクロに向けると、動作キーで『
吹き飛ばされている最中の反撃であり、隠密性の為に詠唱も周囲の呪詛への干渉も行っていない、予見など出来るはずもない攻撃であるが……。
「危なっ!」
「なっ!?」
ブラクロは何かを素早く地面に叩きつけると、広がった白い煙に姿を隠すことによって『毒の邪眼・1』を回避。
私の攻撃は異臭を放つ液体を空中で生じさせるだけに終わる。
ブラクロが使ったのは恐らく呪い除けの煙玉だが、まさか私の邪眼術の発動キャンセルが間に合わない程ギリギリかつ適切なタイミングで使われるとは思わなかった。
やはり強い。
「このま……」
「だったら……」
呪い除けの煙玉はドージにはほぼ効果なし、ライトリとブラクロにとっては大して問題はない。
私だけがピンポイントで視界を奪われている。
だから、煙の中でブラクロはドージと協力して、ライトリを始末しに動く。
ライトリと言えども、ブラクロとドージの二人を同時に相手することは不可能。
しかし、この煙の中ではCTの都合を抜きにしても、私は邪眼術による支援は出来ない。
ならばどうするか?
邪眼術以外の方法で支援すればいい。
「こうよ!」
「なっ!? わっ!? 剣!?」
「剣だと!?」
「……」
私は周囲の呪詛を剣の形に素早く圧縮。
そうして出来た13本の剣を、煙の展開と同時に兜を脱いで、頭部の発光する花を露わにしたライトリの周囲へと降らせる。
すると未知の攻撃に動揺したのだろう、ブラクロの声の位置はライトリの周囲から離れ、ドージの声も退いていく。
いい流れだ。
「一時退きます」
「分かったわ」
ライトリは兜を被り直し、盾をしまうと、私の方に駆けてきて、そのまま煙の外に出る。
そして
私もライトリの後に続いて、煙から離れていく。
ドージとブラクロの追撃は警戒するが、ほぼ来ないと確信しているので、問題はない。
仮に来ても、こちらの方が移動力は上であるし、片方だけが来るなら喜んでカモにするだけである。
「何とか成功ね」
「そうですね。際どい所でした」
ブラクロとドージは結局追ってこなかった。
だが、煙が晴れても二人の姿はなかった。
呪詛濃度低下呪術があっても、私相手に姿を晒すのが拙いのは確かであるためだろう、二人とも柱の陰に隠れているようだ。
「ドージへの毒は?」
「それなりに稼げました。私の被ダメージは軽微なので、判定は私の側に傾いているでしょう。タルさんのダメージは?」
「ただの蹴りだったから、そこまで酷くはないわ。フレイルは一回入ったし、ほぼ同じくらいじゃないかしら」
「つまり、全体的にはこちら有利と言う事ですね」
ライトリが盾を構え直し、私は適当な柱の上に移動して視界を確保しつつブラクロとドージのおおよその位置を把握。
さて、ここまでの戦闘のおかげで、判定まで持ち込めば、私たちの側に分があるようになった。
つまり、ブラクロとドージは嫌でも攻め込まなければならなくなった。
「牽制をするわ」
私は再び周囲の呪詛を固めて、13本の剣を出現させる。
この剣はただ呪詛を固めただけの代物なので、見た目がどれほど禍々しくとも、実は殺傷能力はない。
が、ブラクロの視点ではそんなことは分からない。
そして、ドージの視点では、『足淀むおもちゃの祠』で呪詛を利用した遠距離武器を知っているだけに警戒せざるを得ないだろう。
なので、ギリギリ避けられる程度に狙いを緩めて放てば、二人は避けるしかないだろう。
「お願い」
「任せなさい」
そうして私は剣を放つことで二人を足止めし、ライトリは次のための仕掛けを施し始めた。