209:2ndナイトメアトーク-1
「これでよし、と」
予選終了後。
交流マップに戻ってきた私は、とりあえず掲示板にカースの件について書き込んだ。
まあ、事故であってもカースを呼び出してしまったのは事実なので、それを危険視されてメンテナンス終了後に凸される事はあり得るだろうが……何もしないよりはマシだろう。
「えーと、ライトリはっと」
次にライトリと合流するべく、私は街中を移動し始める。
なお、今回のイベントでは、予選マップから交流マップに戻される際は、予選開始時に居た場所へ戻されるかランダムな場所に戻されるかを選べるようになっており、私は後者を選んだ。
で、ライトリの居場所だが……本戦前に打ち合わせする事の重要性は運営も理解しているようで、意識をすると私の目にだけ見える形で矢印が表示されたので、それを目印として移動する。
「タルだ……」
「カースを呼び出しってマジか」
「こっちだと普通のサイズなんだな」
幸いにして他プレイヤーが絡んでくる様子はない。
まあ、絡んできても一言挨拶をして終わり。
それ以上しつこくするならGMコールで対応するだけなのだが。
「随分とやりたい放題やっていたわね。元の世界に戻ったら覚悟しなさい。呪限無の化け物」
「ハルワ姉さま。当人を前にして言うのはどうかと思いますよ。あ、お久しぶりですね。落とし児タル。その糞ダサい上に不穏な気配を漂わせている帽子の代わりなら何時でも準備していますので、その気になったら何時でもお求めくださいね」
『チュアアアァァァ! クソビッチ聖女があああぁぁぁ! 悪夢でチュ! 今この時を以って、この夢はざりちゅにとって確かな悪夢となったでチュ! たるうぃ! こんな奴無視するでチュよ! 何を考えているか分かったものではないでチュからね』
「私は落とし児よ。それとアレは事故よ。ま、とりあえずは久しぶりと言っておきましょうか。聖女ハルワ、聖女アムル」
そんなことを思っていたら、プレイヤー的にはどう足掻いても無視できないコンビから声をかけられてしまった。
あー、うん、矢印の感じからしてライトリも私の方に向かってきているし、都合のいいことに二人がお茶を楽しんでいる丸テーブルには空いている座席が一つある。
これはライトリが着くまではこっちを優先するのもありか。
「そうね。折角だからカース召喚の件についてきちんと説明しておきましょうか。席に座らせてもらうわよ」
「説明ですって?」
「さっきの口ぶりからして、そこのモニターで予選は見ていたんでしょう? だから伝えるべきことは伝えておくだけよ」
とりあえず私は聖女ハルワと聖女アムルの二人にカースの召喚が事故だった事、元の世界ではやりたくても出来ないであろうことを伝えておく。
「やりたくても出来ないってどういう事よ」
「どうにも呪詛濃度の操作って自分の異形度から遠ざかる形で操作しようとすると、一気に難易度が高くなるようなのよね。今も呪詛濃度3以上の空間を作ろうとすると、一気に集まりづらくなるから」
そう言えば、何か称号を獲得していたか、今の内に確認しておこう。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル16
HP:1,150/1,150
満腹度:100/110
干渉力:115
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・2』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『大飯食らい・1』、『呪いを指揮する者』、『???との邂逅者』、『期せずして呪限無の門を開くもの』
呪術・邪眼術:
『
所持アイテム:
毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、呪い樹の炭珠の足環、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
▽▽▽▽▽
△△△△△
『期せずして呪限無の門を開くもの』
効果:呪限無に繋がる門の作成難易度低下(微小)
条件:意図せず呪限無に繋がる門を作成、開く
呪限無へ赴く方法は幾つも存在する。
だが、一から穴を穿ち、行こうとするのは常人ではなく狂人の行いである。
穿った穴の先に何があるかはよく考えた方がいい。
▽▽▽▽▽
「……」
「何よ、その顔は」
「いえ、何でもないわ」
あーうん、本編に戻ったら、チャレンジしてみるのもありか。
いい加減、一度くらいは行ってみるべきだろう。
まあ、最大限安全には配慮するが。
それと、聖女ハルワ達には呪詛濃度不足によってカースが出てきても碌に活動できないであろうことも伝えておく。
「全然安心できないわね」
「あら、どうしてかしら?」
「呪限無の化け物の言う事なんて信用できないのが一つ。もう一つは悪意ある何者かが、出てきたカースに必要な準備も整えてやる可能性が否定できないからよ。さっきの蟹が一時的にでも暴れられる状態で、サクリベスかその周囲で出現してみなさい。サクリベスなんて簡単に吹っ飛ぶわ」
「まあ、正しい判断ね。でも、こればかりはそっちで頑張ってとしか言えないわね。必要なら手助けの一つくらいはするかもしれないけど、それ以上は出来ないわ」
「自分が技術の発端で責任を感じたりはしないの」
「責任は感じるけど、技術なんて所詮は何時か何処かで誰かが見つけ出すものだし、技術そのものには善も悪もないわ。拙い使い方をする連中を見つけて抑えるのは私の役目じゃないわ」
なお、呪詛を集める技術の発端が私ではない事は言わないでおく。
この技術の出所であるイグニティチと聖女ハルワの関係性が分からないし、転び方の予想も付かないからだ。
ならば、私を睨ませておいた方がいい。
「ちっ、まあいいわ。言質は取ったわよ。サクリベスやその周囲で不穏な動きがあった時には手伝いなさいよ」
「報酬は?」
「出すに決まっているでしょうが! そんな厚顔無恥な振る舞いをする気はないわよ! ま、呪限無の化け物が自分から欲しくないっていうなら、話は別だけどね」
うーん、これは何かしらのフラグが立ったのか、折れたのか……いや、たぶんだけど立ったと思う。
まあ、要請があれば動こう。
どうやって要請するかは知らないが。
「タルさん」
「あら、ライトリ」
と、ここで予選マップで戦っていた時とほぼ同じ外見のライトリがやってきて、私に声をかける。
ライトリの視界に二人の聖女様は……入ってなさそうだ。
どうやら相変わらず高異形度にしか見えない仕様になっていたらしい。
「『光華団』の……まあ、そう言う夢だから仕方がないわね。精々見苦しく足掻けばいいわ」
「ふふふ、落とし児タル、『光華団』ライトリカブト、お二人の活躍を祈ってますね。それと、その帽子が灰になって他の植物の生育に役立つのも」
『そっちこそ養分になっちまえでチュ! カアアァァッ、ペッ!』
そして、話の終わりを悟ったように聖女ハルワと聖女アムルは去っていった。
「掲示板か何かを見ていたのですか?」
「ま、そんなところね。それじゃあ、いつ休憩するかと、本戦の打ち合わせをどうするか話しましょうか」
「そうですね。そうしましょうか」
では、お昼休みの間にやることをやるとしよう。