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207:2ndナイトメアヒート-8

「んー……」

 さて、どうやって相手を崩そうか。

 既に二回も攻撃をしくじっている以上、三度目の攻撃は確実に成功させたい……と言うのが一般的な心理だろう。

 が、この際だ。

 次の攻撃も、その次の攻撃も失敗する前提で組み立ててしまおう。

 どうせ相手は待ちの体勢だし、残りのペア数が5で、簡易砦の中にプレイヤーが6人居る以上は、簡易砦の外に居るプレイヤーは多くても2人まで。

 だったら気長に、焦らず、確実に始末するとしよう。


「ま、この攻撃なら、何をやっているのかバレたところで、問題にはならないか。むしろ、今後のメインの進行を考えると、こう言うのが出来ると言うのは知られておいた方がいいぐらいかも」

「は?」

「とりあえず、集中するから、ライトリは周囲の警戒をお願い」

「……。まあ、分かりました」

 私は全ての目を簡易砦へと向ける。

 そして、呪い樹の炭珠の足環の効果によって影響を受けている、予選マップの大気中の呪詛を意識する。


「……」

「……」

 うん、全てではないが、ある程度以上は掌握した。

 なので私は掌握した呪詛を簡易砦を中心とする形でゆっくりと集めていく。


「霧が濃く……」

「『呪詛を集めているんでチュよ』」

「呪詛を?」

 私が狙うのは呪詛濃度過多によるダメージ。

 呪詛濃度過多は周囲の呪詛濃度が、自分の異形度よりも11以上高いと発生し、ダメージを受ける状態異常であり、これを防ぐには呪詛纏いの包帯服のような呪詛濃度を調節できる装備やドージの使っていた浄化術などが必要になる。

 さて、簡易砦のプレイヤーたちはこれに対処できるだろうか?

 ぶっちゃけ、無理だろう。


「『さっき熊ですが出てきたでチュよね。アレはたるうぃとの相性もあるでチュが、熊ですよりも異形度が高いメンバーが簡易砦の中に居らず、外に出ても相手を発見できない可能性が高いから、熊ですが出てきたともとれるでチュ』」

「そうですね。異形度6以上のプレイヤーは絶対数が少ないですし、その可能性は高いでしょう」

 掲示板を見る限りでは、現状では呪詛濃度を調整する装備品は、高異形度プレイヤーの為にあるものであって、低異形度プレイヤーには必要ないという認識だ。

 おまけに呪詛濃度過多のダメージと行動阻害がそこまで大きくない事と、呪詛濃度が極めて高い空間が現状ではほとんど存在しない事も、それに拍車をかけている。

 彼らにやれることがあるとすれば、異常が発生したこの場から逃げ出すぐらいだ。


「『しかし、集中しているでチュねぇ。ざりちゅが普通にたるうぃの口を使えるとは、驚きでチュよ』」

 が、逃げることは出来ない。

 簡易砦そのものを動かすのであれば、呪詛を集めている範囲をそのままスライドさせるだけ。

 プレイヤーが個人で逃げ出すならば、強力になった邪眼を叩き込むだけ。

 当然、留まり続けるのは死ぬだけだ。


「『呪詛濃度は……14くらいまで来たでチュかねぇ』」

「14!?」

「『そろそろ呪詛濃度過多で苦しみ始めるころでチュねぇ。チュッチュッチュッ』」

 ああでも、簡易砦に居るプレイヤーたちには、そもそも私に何かをされているとすら思っていないかもしれない。

 『CNP』の大気中に存在している呪詛が生物の意志に呼応し、操作が可能であるという事実はまだ一般的な知識ではないのだから。

 まあ、私がやることに変わりはない。

 簡易砦を中心に呪詛を集めていき、濃度を高めていく。

 目標呪詛濃度は……19、熊ですであっても呪詛濃度過多になるであろう濃度だ。


「『15……16……今更逃げ出すのは無理でチュねぇ』」

 簡易砦からプレイヤーが一人逃げ出す。

 私はそれを動作キーによる『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』で狙い撃って、毒殺。

 ペアの残数が4になる。

 こうなると残り5人で3組、簡易砦の中に居るプレイヤーで枠が埋まりそうだ。


「ん?」

 そうして簡易砦の周囲の呪詛濃度が目測で19になった時だった。

 私は一瞬違和感を感じた。

 その次の瞬間だった。


「っつ!?」

「タルさん!?」

 私の全身の皮膚が裂けて血が噴き出し、HPが9割近く持っていかれた。

 同時に……


『ーーーーー!!』

「『カ……カースでチュ! カースが現れたでチュ!!』ごほっ、げほっ……」

≪サプラアアァァイズ! 巨大生物が現れました!! プレイヤーの数が一定数を下回るか、一定量以上のダメージを与えれば、巨大生物は帰っていきます≫

≪称号『期せずして呪限無の門を開くもの』を獲得しました≫

 簡易砦のすぐ近くの地面から、巨大な蟹が這い出てきた。

 ああうん、これはやらかした。

 考えてみれば、この予選マップはカースの出現が確約されている領域だ。

 そんな領域で、呪詛濃度19……恐らくは呪限無一歩手前の呪詛濃度にまで高めたら、そりゃあカースの一匹や二匹くらいは出てくるだろう。

 しかも、呪詛濃度19の範囲は巨体のカースでも出てこれる程度には広かったし、私は集めるだけで強く制御をしていたわけでもなかったしで、出てくる要素が十分揃ってる。


「タルさん」

「逃げましょう。まあ、逃げるまでもなく終わる気がするけど」

『ーーーーー!!』

 ライトリが私に回復の水をかけつつ、後退を始める。

 一方で蟹のカースは……大暴れしている。

 体高10メートル程ある体のサイズに見合った、巨大な金属製の杭のような脚で簡易砦を一踏みで破壊した。

 左の小さな鋏は口になっているようで、捕まえたプレイヤーを噛み砕いた上で、体の一部をショットガンのように放っているのが見えた。

 口からは黄色い泡が何十個と飛び出て、周囲を漂い、地面やプレイヤーに触れると弾け、触れた物を溶かす。

 背中に生えている無数の棘からは何十と言う火線が空に向かって放たれ、何秒か経つと遠くの方から爆音が響き渡る。

 そして右の巨大な鋏は、周囲の呪詛を集めると、鋏の間に隠された砲身が紫色の光を放つようになり……やがて轟音と共に紫色の光線が進路上にあるものを全て消し飛ばしていった。


「とんでもないですね」

「カロエ・シマイルナムンってやっぱりカースとしては雑魚だったのかもしれないわね」

『一人軍隊蟹ってところでチュかねぇ』

≪バトルロイヤルに勝利しました! タル様。ライトリカブト様。予選突破おめでとうございます!≫

 当然と言うべきか、そんな化け物が間近に表れた簡易砦の面々は容易く一蹴された。

 で、私たちは若干遠い目をしつつ、予選を勝ち抜いたのだった。

08/09誤字訂正

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