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201:2ndナイトメアヒート-2

「私の手札と言うか、習得している呪術についてはこんな感じね」

 私はライトリカブトに現在習得している邪眼術の一覧と、その性能をまとめた画像を送る。

 隠し事はなし、『禁忌・虹色の狂眼(ゲイザリマン)』含めて、全て見せてしまう。

 プロゲーマーである彼女ならば、イベント中は『光華団』の仲間やファンに対しても私の能力は秘匿してくれるだろう。


「多い。それに……」

「『禁忌・虹色の狂眼(ゲイザリマン)』については予選では期待しないで。使うなら本戦よ。それと『恐怖の邪眼・3(タルウィテラー)』はレベル不足で、性能的には他のと大して差はないわ」

「そういう事ではないのだけど……とりあえず、どの呪術を何時使うかはお互いの判断に任せる方針で。カロエ・シマイルナムンでの『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』からして、私が指示するよりもタルさん自身に使ってもらった方が適切」

「分かったわ」

 ライトリカブトは何故か遠い目をしているが、この場で何も言わないと言うことは放置しておいても問題ない話と言う事か。

 とりあえず私の判断で邪眼術は使ってよい、と。


「それと、こっちが私の呪術」

「どれどれ……『毒の(ベノム)投槍・1(ジャベリン)』と『解毒の香り(アンチドーテ)・1(アロマ)』ね」

 ライトリカブトの呪術は『毒の投槍・1』と『解毒の香り・1』。

 『毒の投槍・1』は毒のゲルで作られた槍を手の内に作り出す呪術で、それを投げたり、直接刺したりして使用、穂先が何かに触れると槍が破裂して、ダメージと固定値の毒を与えるようだ。

 使用者の投擲能力などが問われるが、シンプルで、コストも軽く、使いやすい呪術と言えそうだ。

 『解毒の香り・1』は自分の周囲に毒の状態異常のスタック値を減らす空間を作り出す。

 即時回復能力はないし、治せるのも毒限定だが、何かしらの理由で自分の毒を浴びてしまっても素早く治せるのは保険としては十分だろう。


「タルさんは問題のある装備品はある?」

「あ、待って。チャージが貯まったから、予選のための呪術を一つ使っておくわ。『小人の邪眼・1(タルウィミーニ)』」

 と、ここでチャージが完了したので、私は自分を対象に『小人の邪眼・1』を使用、目から白い光が放たれる。

 なお、使用直前に『ダマーヴァンド』から十分な量の呪詛を招き寄せ、装備品と意志の力でそれを圧縮することで、周囲の呪詛濃度を19まで引き上げてから使用したので、私には小人(247)の状態異常が入る。

 これで小人の仕様で、私の身長は10分の1になり、この状態は1,570秒間……26分ちょっと維持される。


「これでよし。さて、問題のある装備品だったけど、私は異形度の都合上、周囲の呪詛濃度を引き上げる装備品を幾つも持っているわ。だから、予選マップの呪詛濃度が6になるまでの間……開始2時間はかなり目立つわ」

「それへの対抗策として小人状態ですか」

「ええ、体のサイズが10分の1になれば、だいぶ目立たなくなるはずよ。小人状態自体、私にとってはメリットの方が大きい状態異常だから、可能なら予選終了までこのサイズで居させてもらうわ。あ、満腹度の補給をするわね」

「そうですね。周囲に敵が居ない、サプライズイベントが起きていないと言った状況で重ね掛けをして、維持してもらえるなら、小人のままでいいと思います」

 私は腰の専用袋から斑豆を取り出すと、一瞬手放す事によって斑豆を本来のサイズに戻す。

 そして、私の頭より大きい斑豆を食べる事で満腹度を回復させ始める。


「もぐもぐ。それでライトリカブトの装備品に問題は?」

「今更ですが、名前についてはライトリで構いません。長いので。装備品については……」

 ライトリカブト……いや、ライトリはどこからともなく大きな盾と、金属製の兜を出現させて装備させる。

 するとライトリの周囲に紫色のオーラが漂い始める。


「近寄った相手に毒を与える装備品ね」

「その通りです。私自身は毒耐性がありますし、毒にかかっても『解毒の香り(アンチドーテ)・1(アロマ)』で治せますので問題はありません」

「んー。これくらいなら大丈夫だと思うわ。私もライトリと同じで毒耐性装備は身に着けているから」

「そうですか。ならば、私が呪詛濃度過多にならないように注意してもらえるならば、タルさんは私の周りに居る形で」

「そうね。そうしましょうか」

 毒のレベルは数秒に一度、毒を1から3程度与えるぐらいか。

 このレベルだと相手によっては無視して挑みかかってくるだろう。

 だがしかしだ。


「総評するならライトリは毒タンクとでも言えばいいのかしらね?」

「それで良いです。私は敵の注意を引き付け、軽微の毒で嫌がらせをしつつ、仲間の盾になる。と言うのが普段の『光華団』での立ち回りですから」

 いざとなれば、攻撃は毒に任せて、自分は守りに徹する、などと言う動きも可能そうだ。

 タンクとしては実はかなり厄介な部類ではなかろうか。

 いわゆるヘイト稼ぎについては……たぶん、装備品の何処かに仕込んであるのだろう。


「私は遠距離から邪眼術を打ち込むタイプね。シンプルな魔法使い型ね」

「え?」

「え?」

 私のスタイルについては別段特に言う事はない。

 そう思っていたのだが、ライトリは何故か首を傾げた。


「前回のイベントやカロエ・シマイルナムンであれだけ接近戦をしていたのに?」

「いや、アレはあっちの方が勝てる見込みがあったからだから。必要がないなら、後方からの支援に徹するわよ」

「そうですか」

 危ない危ない。

 どうやら私とライトリの間には深刻な行き違いが一つあったようだ。

 これを正していなかったら、開幕、一緒に敵へ突撃なんてなっていたかもしれない。


「ああ、そう言えば、私の異形を教えてませんでした。私はトリカブトの花を頭から生やし、それを光らせてます。後は移動と踏ん張りの為に脚部に一つ、そこまで優れた物ではありませんが毒耐性で一つ、不老不死の呪いと合わせて異形度5です」

「私は見ての通りね。異形度19よ」

 体にかかっている呪いについては特に気にする必要はなし、と。

 前回の予選で見た高速移動は脚部にかかっている呪いのおかげのようなので、今回も期待させてもらおう。


「さて、後はどう立ち回るかだけど……ライトリ、プロゲーマーとして、撮れ高を稼ぐ必要とかは?」

「ご安心を。プロゲーマーたるもの、第一は勝利です。予選のような不確定要素が多い戦いにおいて魅せプをするのは舐めプと同義と言ってもいい。そして撮れ高は本戦で幾らでも稼げるでしょう。よって、タルさんが考えているであろう戦略で何ら問題はありません」

 ライトリはそう言うと、獰猛と言ってもいい笑みを浮かべる。

 よろしい、ならばお望み通りで行くとしよう。


「分かったわ。じゃ、序盤の乱戦を乗り越えたら、存分に狙撃して、一方的に始末していくとしましょうか」

「はい、それで行きましょう」

 そうして予選開始の時刻となり、私とライトリは予選第7ブロックに転移した。

10/22誤字訂正

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