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20:タルウィベーノ-3

「再ログインっと」

 昼食を済ませて『CNP』にログイン。

 今日のプレイ時間の残りは……ゲーム内で半日くらいか。


「さて行きますか」

 私は直ぐにセーフティーエリアの外に出て、第一階層と第二階層の境目まで移動。

 そして第二階層の様子に変わりが無いことと、毒吐きネズミが何処に居るのかを右手の目だけ出す事で確かめる。


「すうぅ……はあぁ……」

 『毒の魔眼・1』を発動する意志を私は持つ。

 すると13の目、全てに円状のゲージが表示されて、少しずつ減り始める。

 そうしてゲージが残り僅かになったタイミングで跳躍。


「「「ヂュアッ!?」」」

 当然、第二階層に躍り出た私の姿をネズミたちは直ぐに捉える。

 けれど、ネズミたちが動き出すよりも私の方が早い。


「『毒の魔眼・1(タルウィベーノ)』」

「ヂュッ……」

 私の13の目全てが深緑色の輝きを発する。

 そして、私に向けて一早く口を開いていた毒吐きネズミが倒れ……痙攣を始める。

 表示されたのは毒(112)。

 ならば200秒もすれば死ぬだろう。


「「「ヂュアアアアァァァァッ!!」」」

「一度引いてっと」

 だが、その死をしっかりと見届ける暇はない。

 私は虫の翅を全力で動かして、自分の体を坂道にまで下げる。

 それから空中浮遊によって地面との接触で減速する事も傷を負う事もなく、私は坂道の下まで移動。

 そのまま部屋の外にまで移動。

 直ぐに坂道からは見えない、壁の陰に隠れる。


「「「ヂュッ!?」」」

「ふうん、やっぱり追ってこないの」

 私を追いかけようとした毒噛みネズミたちは坂の途中で、毒を打ち込もうとした毒吐きネズミたちは穴の縁で止まり、それ以上追ってくることは無い。

 まるで、これ以上先に進んではいけないと誰かに命じられているように。

 その様子を見た私はポーションケトルの中身を少しだけ飲んで、HPを回復する。

 そして5秒待機してクールタイム終了。


「じゃ、一匹ずつ、順番に、全滅するまで、繰り返しましょうか」

 続けて10秒のチャージタイム開始。

 残り0.5秒ほどのタイミングで壁の陰から飛び出て……


「『毒の魔眼・1(タルウィベーノ)』」

「ヂュッ……!?」

 穴の縁に居る毒吐きネズミに毒を与える。

 今度は毒(122)。

 中々の数字である。

 そして、飛び出した勢いで向かいの壁の陰に隠れる。


「130にならないのは、13の目が別々に呪術による毒状態の付与を試みているから。でしょうね」

 それから私は地道に二律背反のような状態となり、逃げる事も追うことも出来なくなったネズミたちに毒状態を付与していく。

 その中で少し気になったのは与えられる毒の量についてだ。

 私の『毒の魔眼・1』は『ネズミの塔』の呪詛濃度なら、最大で毒(130)を与えられるはずである。

 しかし、今のところ与えた毒は最大でも120代前半。

 これは重ね掛けの性質によって、上手くいっていない場合があるからだろう。

 まあ、100を超える毒を与えれば、ネズミたちは耐えられないから、大した問題ではないか。


「ヂュウッ……」

「「「ヂュアアアッ!!」」」

「ん? へぇ……」

 と、ここで毒によって一匹の毒吐きネズミが倒れる。

 そして倒れた毒吐きネズミは……他の毒噛みネズミによって容赦なくその身を食われて、骨も残らず食われてしまう。

 どうやらネズミたちにとっては仲間であっても死体になってしまえば餌でしかないらしい。

 その癖、逃げる事も追う事も出来なくなって、坂道で凍り付いている今の状況は滑稽でしかないが。


「じゃあ、少しだけ倒す順番を考えましょう」

 毒吐きネズミから得られる素材には興味がある。

 なので私は毒噛みネズミから順番に毒殺していくことにした。


「ヂュウッ……」

 そうして休憩とポーションケトルによる回復を挟みつつ、『毒の魔眼・1』による攻撃を仕掛け続ける事数分。

 最後の毒吐きネズミが毒(112)によって身動きも取れずにHPを削り取られるだけの状態となり、さらに数分経ったところで全てのネズミが毒殺され、風化しない死体になった。


「じゃ、折角だし回収回収っと……あ、四匹が限界か」

 どうやら毒噛みネズミの毛皮袋の容量限界は、ネズミの死体四匹分と言うところであるらしい。

 毒吐きネズミの死体二つに、毒噛みネズミの死体二つを入れたところで、これ以上は入らないという表示が出てしまった。


「第二階層は……特に見るところはなさそうね」

 最初に訪れた時点で分かっていたことだが、第二階層はネズミたちの食害が進み過ぎていて、殆ど何もない。

 二種類のネズミが協力しつつ敵を迎撃するには適した場所なのかもしれないが、私にとっては素材が手に入らない残念な場所になりそうだ。

 だから早々に二つある登り階段を上って第三階層へ移動するべきなのだが……


「ん?」

 私の目は外壁が崩れた場所から見える、ビルの外の道路だった場所で何かが動くのを捉えた。

 呪詛濃度の都合上、ビルの外に出る事は出来ない。

 しかし、ビルの外に何があるのかくらいは見る事が出来る。


「何が動いたのかなっと」

 私はビルの外壁が崩れた場所へと近づいていく。

 呪詛濃度は……とりあえず床の縁から1メートルと少しくらいは大丈夫そうなのを確認。

 私はしっかりと動いた何かを観察するために床の縁に腰かける。


「人……間……?」

 動いて見えたのは、6人組の人間たち(?)だった。

 疑問形なのは、『CNP』の仕様上、リアルに居る様な人間が殆ど居ない上に、プレイヤー、NPC、モンスターの見分けがつかないからだ。

 後、単純に距離があって、細かい姿までは見えないと言うのもある。

 とりあえず、6人の人型生物は協力関係にあって、この辺りの探索を行っている、此処までは確実でいいだろう。


「……。少しだけ試してみよっかな」

 私の口が弧を描く。

 いやうん、別に私は積極的にPKをしたり、PvPを仕掛けたりする気はない。

 気はないが、欲が無いわけでもない。

 そして、『CNP』はセーフティーエリア以外は常に命の危険がある世界であり、何時何処でどう仕掛けようが別段咎められる世界ではない。

 加えて、今の私は邪眼術について少し試したい事があった。

 だから試すことにした。

 決して私がダンジョンの外に出れないやつあたりだとか、PT機能もなしに仲良くやれている事への妬みだとかではない。

 これは試せる機会があれば試しておかないといけない事項なのだ。


「チャージ開始」

 そうして、私の意志に応じる形で、13の目の視界に円状のゲージが表示され、減り始めた。

明日(2019/03/02)からは基本一日一話12時更新となります。

ストックが貯まったら、また一気に放出するかもしれませんが。

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