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198:2ndナイトメアプリペア-4

「はぁ……確認が取れたわ。とりあえず家の中に入って」

「分かったわ」

 ザリアとクカタチが姉妹かもしれないと言う話になった直後。

 ザリアはクカタチを連れて、適当な家の中に入った。

 そして、ゲーム内時間でおおよそ10分ほど経ったところで、ザリアが家の外に出てきた。

 たぶんだが、一度ログアウトするなどして、確認をとったのだろう。


「えーと、それでは改めまして。クカタチと言います。お姉ちゃん……ザリアの妹です」

「間違いないのか?」

「間違いないわ。リアルでも確認済み」

 家の中に私たち全員が入ったところで、クカタチが私たちに向けて頭を下げつつ名乗る。

 クカタチの外見は藍色の髪の毛に湯気が出ている肌で、少し色っぽい。

 色っぽいが、クカタチの普段……熱湯スライムの姿を考えると、迂闊に触ったら物理的に火傷するだろう。

 装備品はほぼ初期装備で、ボロ布で出来た上下服に『鑑定のルーペ』の他は、小瓶のような物が付いたネックレスを除くと、後は最低限の必需品としてポーション瓶、インベントリの袋、解体用と思しきナイフを身に着けているくらいだ。

 恐らくだが、あの小瓶が呪詛濃度維持アイテムなのだろう。


「しかし、すごい偶然ね」

「そうね。私もそう思うわ」

「それは私もだって……お姉ちゃんがVRMMOをやっていたのは知っていたけど、まさかそれが『CNP』で、おまけに初のイベントで戸惑っていたところに声をかけたのがお姉ちゃんのPTメンバーだなんて、早々ないよ」

「ザリアとクカタチちゃんは、お互いがやっているゲームについてリアルの家で話したりしなかったのか?」

「ないわよ。どういうゲームをしたって個人の自由なんだし。『CNP』は家でワイワイ騒ぐって感じのゲームでもないし」

「そうですね。『CNP』はそういうゲームじゃないと思います」

 ブラクロの疑問にザリアとクカタチが同じような表情を浮かべつつ、同じように手を振る。

 ああうん、確かに姉妹だ。

 無意識の行動が似てる。


「え、でも……」

「兄に告げますけど、ちょっと黙りましょうか。妹である私が巻き込まれる予感がしたので」

「えっ、あっ。えー……」

 シロホワの言葉と共にロックオとカゼノマの二人がブラクロを引きずって後ろの方に移動させる。

 まあ、いつものブラクロのノリだと、だいたいここから配慮に欠けた発言とまではいかなくとも、微妙な発言をするだろうし、妥当な判断だろう。


「それでクカタチ。タルさんとも知り合いだったようですけど、そちらについてはどのような縁で?」

「えーと、ですね」

 シロホワが流れを引き継ぎ、質問の内容にクカタチが私の方を向く。

 何処まで話していいか迷っていると言うところか。

 じゃあ、私から話そう。


「簡単に言ってしまえば、クカタチは私と同じでダンジョンスタートだったの。で、偶々クカタチのダンジョンを私が訪ねて、そこで同じ高異形度と言う縁もあったから、少しだけ助言をしてあげたのよ」

「えーと、助言と言うよりは相談とか指導、後は応援と言った方が正しいかもしれないです。タルさんに色々と教えてもらえていなかったら、返品可能期限が来る前に『CNP』を辞めていたかもしれないですし」

 私の言葉にクカタチが補足し、その内容に何人かが胡乱気な瞳を私に向ける。

 あ、ブラクロが口を開く。


「タルの相談、指導、応援って嫌な予感しかしないんだけど、大丈夫なのか? 変な事教わってないか?」

「変な事? いえ、とても丁寧にマメに私のメッセージに応えてくれましたよ? 少し厳しめだったですけど、最初に会った時に教えてもらった通りだったのは、少し進めたら直ぐに分かりましたし」

「だったらいいんだけど、おかしいと思ったら、ザリアとか、もしよければ俺とかに相談してくれても大丈夫だからな」

 私としては変な事を教えたつもりはない。

 そもそも、殆どの事柄は、普通にゲームを進めたら、そのうち嫌でも分かる事である。

 ぶっちゃけて言えば、クカタチが恩義を感じるようなレベルの指導なんて、呪術の習得方法についての助言くらいではなかろうか。


「ありがとうございます。ブラクロさん」

 あ、クカタチがブラクロの手を包み込むように両手で握った。

 普通なら可愛らしい少女から信頼されている事を表わす良いシーンなのだけど……


「アツゥイ!?」

「あ、すみません。私、呪いの関係で体温が今でも50度近くあるみたいで……」

 ブラクロは見事に包まれた手を火傷して、耐えきれずに叫んでいた。


「兄ぇ……」

「はぁ……」

「これだからブラクロは……」

「ま、こうなるよな」

「まあ、予想通りでしょう」

「はい、知ってた」

「まあ、ブラクロだからいいか」

「えーと……」

「みんな酷くね!?」

 まあ、クカタチの呪いはそう言うものだから、耐える心構えなり準備するなりを怠ったブラクロが悪いことにしておこう。

 実際の過失割合はクカタチの方が大きいけれど。


「で、クカタチ。貴方はイベントには参加するの?」

「勿論するよ。呪詛濃度不足対策の装備も作ってあるから、そこは大丈夫よ」

「へー、クカタチも参加するの。どんな戦いを見せてくれるか楽しみね」

「あ、あははっ、お、お手柔らかにー。タルさん」

 クカタチもイベント参加か。

 うん、習得した呪術がいかなるものかも含めて、楽しみだ。


「さて、それじゃ改めて言う事でもないけれど、全員全力でやりあい、楽しみましょう。誰と誰が組もうが、誰と誰が戦おうがね。でなければ、つまらないもの」

 そうしてザリアの言葉と共に、この場に居る全員が頷いた。

 イベント開始はもう間もなくである。

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