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194:メイクアイテムズ-3

「これでよし、と」

 さて、金曜日と土曜日の二日間。

 私はザリアの求めたアイテムの収穫作業と加工作業を『ダマーヴァンド』で行った。

 ザリアからも準備は出来ていると言わんばかりに、私が求めた二つのアイテムを持っているスクショが送られてきたので、お互いに準備万端と言っていいだろう。


「登録も問題なし」

 イベントへの参加登録も済んでいる。

 これでイベントまでに、絶対にやらなければならない事は完了したと言ってもいいだろう。

 なお、何か面白いものが交換できるかもしれないと言うことで、収穫作業中に見つけた面白いものを含め、交換会にも多少だがアイテムは出している。

 絶対に欲しいのはザリアが持ってきてくれるが、未知のアイテムが来る楽しみはまた別にあるのだし。


「じゃ、残るは……」

『『邪眼術士』の称号周りについてでチュかね』

「まあ、そうなるわね」

 と言うわけで、残るは『邪眼術士』の称号取得に伴って出来るようになった、私が編み出した邪眼術を他人に習得させる方法が明確になるという話についての検証である。


「えーと……まずは習得させる対象を選ぶのね。あ、近くに居ないとできない。じゃあ、適当な子毒ネズミを拾ってきましょうか」

『検証なのだし、ざりちゅでもいいんでチュよ?』

「検証だからこそよ。子毒ネズミの方が一般的でしょ」

 私は適当に子毒ネズミを一匹、手製の籠の中に入れる形で拾ってくる。

 見た目は他の個体と変わりなし、中身も……たぶん変わりないだろう。

 で、半透明の画面を表示させて検証スタートだ。

 なお、邪眼術を習得させる対象は割と何でもありなようで、私、ザリチュだけでなく、周囲の植物たちから、床に天井、空間そのものまでありのようだった。

 うん、習得させた場合の想像がつかないので、やるなら仕様を十分に理解してからやるとしよう。


「チューチュー」

「はいはい、大人しくしてなさいよー」

 私は煎った白豆を子毒ネズミに与えつつ、この子毒ネズミを対象に次の項目に進む。


「……」

『あ、これは……』

 で、少し弄っただけで沈黙した。

 これ、完全にエンドコンテンツである。


「かなり複雑だとは思っていたけど、想像以上にヤバいわね……」

『基本ルールは明確でチュけど、その先がヤバいでチュね……』

 呪術を習得する場合の基本ルールは、強力な呪術を習得したいのであれば、相応のリスクとコストを支払う事、これだ。

 この点については極めて明確で、感覚的にも分かり易いと言うか、納得がいく。


「んー、干渉力が高い。CTが短い。基本的な威力が高い。なんて言うのは分かりやすい強さね。でもそれだけじゃなくて、付加価値、隠密性、扱い易さなんかも強力さの度合いに関わってくるわね」

『効果を高めれば高めるほど、と言うことでチュね』

 私は色々と弄ってみるが、どうやら、私が習得しているオリジナル以上に強力な物にすることは出来ないようだった。

 オリジナルを超えたければ、自分で何とかしろと言う事だろう。

 イグニティチがマトチに自分の意志で呪術を使うように促したのは、この辺が理由の一つとしてありそうだ。


「さて、問題はコストだけど……」

 問題はコストについてだ。


『複数の項目に分かれているでチュね』

「そうね。でも、言われてみれば納得ね」

 コストは大きく分ければまず二つに分かれる。

 つまりは使用する時のコストと、習得する時のコストだ。

 使用する時のコストはHP、満腹度、特定アイテムの消費、触媒の有無など。

 これはリスクと言い換えてもいいかもしれないし、それならばCTの長さもここに含まれるかもしれない。


「うーん……」

「チューチュー」

『試練の厳しさの項目の上限がおかしいことになっているでチュね。当たり前でチュけど』

 習得する時のコストは、習得までに要する時間の長さ、アイテムの質、習得の際に生じる試練の厳しさ、習得失敗時のペナルティなどなど、色々とある。

 で、この項目なのだが……かなりファジー(曖昧)なようだ。

 最初の習得させる対象を選ぶ項目並みに何でもありな感じになっている。


「ちょっと確認」

『チュ?』

 さて、ここで嫌な予感がしたので、私は習得対象者を適当に切り替えてみる。

 すると、当然のように、同じ呪術を習得させようと思っても、習得対象者ごとにコストやリスクが大きく変わっていく。

 どうやら、個人ごとの資質まで存在しているらしい。


「だいたい分かったわ」

 さて、これで当たり前のことが明確に見えてきた。


「要するに、希少かつ適切な素材を、大量に集めて、きちんと処理して、時間をかけて習得するようにすれば、だいたいの呪術はほぼノーリスクで習得。ローコストで使用可能になるのね」

『まあ、そうなるでチュね』

「で、敢えてハイリスクな条件を付けて、ハイコストな呪術を習得すれば、その分だけ凶悪な呪術も作り出せる」

『でチュねぇ』

「条件はだいぶ厳しくなりそうだけど、ノーリスクな呪術も夢ではない、と」

『理論上は出来るでチュね』

 やはり、強力な呪術を習得したいのであれば、相応のリスクとコストを支払う事、であるらしい。

 抜け道などと言うものはなく、バランスを考えて無理なくやるのが正解と言うことだ。


「うーん、邪眼術を覚えた毒ネズミ軍団とか夢はあるけど、作るのは相当大変そうねぇ……」

『あ、やっぱり考えていたでチュか』

「そりゃあね。自宅警備員あるいは私を支援する存在が居れば、色々と出来る事は増えそうだし」

 とりあえず、この先に話を進めるならば、じっくりと腰を据えてやる必要がありそうである。


「あ、この方法はやっぱり無理そうね」

『そりゃあ、明らかに無理があるでチュからね』

 なお、『蜂蜜滴る琥珀の森』の蜂や、推定アーリマンのトカゲがやったような、呪術を誰かに強制習得させる方法だが、私も一応は出来るようだった。

 ただし、相手に十分な素養がある事や、実力差や受け入れる態勢があることなど、色々と満たすべき条件があり、それを満たしてもなお、相応のリスクを負うことになるようだったが。


「とりあえずはこんなところかしらね。邪眼ネズミ軍団の計画は、最低限人里離れた土地に『ダマーヴァンド』を移してからにしましょうか」

『分かったでチュ』

 さて、明日からはいよいよイベントである。

 私の知らないものがどれだけ見れるか、楽しみにさせてもらうとしよう。

07/27誤字訂正

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