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191:メイクアイテムズ-2

「さて、今日は食料の調達ね」

『ずっと豆を煎る地道な作業になりそうでチュねぇ』

 木曜日のログインである。

 食料の調達は満腹度を消費する呪術を使用するにあたって必須なので、間違っても手は抜けない。

 え? 予選でプレイヤーを倒した時に手に入るアイテムによる補給? あれはランダムなので、期待しないし、してはいけない。


「安心しなさい。後半はそうだけど、先にやる事があるわ。上手くいけば、今後の食糧事情が大幅に改善されるわ」

『……。なぜでチュかねぇ。酷く、そう、とても酷く嫌な予感がするでチュよ』

「心配しなくても危険な事にはならないはずよ。たぶん」

『あ、ダメな奴で確定したでチュねえああああぁぁぁぁぁ!?』

 とりあえず失礼なことを抜かしているザリチュは左手でつばを抓っておく。

 で、右手で『ダマーヴァンド』の内部構造をちょっと操作。

 第三階層に、普通の生物については第二階層の天井の穴からしか入れないスペースを新たに作成しておく。


「えーと、回収するアイテムは『ダマーヴァンド』の白豆と赤豆、垂れ肉華シダの葉、カロエ・シマイルナムンの灰も使いましょうか。それに毒液も汲んできてっと」

 私は必要な物を集めると、セーフティーエリアに戻って作業を開始する。

 あ、折角なので、録画もしておこうか。

 呪術ではないけれど、誰かの何かの参考にはなるかもしれない。


「えーと、とりあえず全部を混ぜ合わせていきましょうか」

「『本当に何をするきでチュか? ってザリチュが喋る時に口の制御権だけ渡すとかまた奇怪なことを……』」

 あ、どうせだしザリチュも喋らせておこう。

 ザリチュの質問がある方が、見ている人にも分かりやすい。


「やることは簡単に言ってしまえば、品種改良ね」

「『品種改良?』」

「白豆単体だと満腹度は回復するけど味は微妙。赤豆単体だと味は辛いし、満腹度の回復は微妙。だから今まではこの二つを一緒に食べることで、味を調えつつ満腹度を回復していたわ。でも、これだと手間とか、咄嗟の時とかに困るのよね。だから、品種改良でこの二つの豆を一緒にしようと思うの」

 私は潰し終わった材料をよく練って、一つにまとめていく。

 ついでに周囲の呪詛を操る事で練り込んでいく。

 そうして十分に練ったら、丸めていく。


「『そんな事出来るんでチュか? と言うか、品種改良ってこんな方法でやるものではないでチュよね』」

「さあ? 出来るかなんて分からないわ。むしろ、分からないからこそやると言ってもいいわね。上手くいけば大儲け、失敗しても情報は出る。どう転んでも美味しいわね」

「『いつものたるうぃでチュねぇ……』」

「まあ、勝算はそれなりにあるわ。植物の生命力の強さに、呪詛、素材の性質、『CNP』のシステム、そう言った物を合わせて考えれば、上手くいく可能性はあると思うの」

 出来上がったのは、赤と白とほぼ黒の深緑が入り混ざった手のひら大の球体。

 うん、ちょっと大きい。

 と言うわけで、球体を摘み取って、私の手の爪と同じかそれより少し大きいくらいの球体を作っていく。


「さて、ここから先は少し録画を切るわね」

 で、呪怨台の前に移動したところで録画を切った。


『まさかとは思うんでチュが、此処から呪いによって復活させる気でチュか?』

「その気でチュよー。ま、ゾンビが生み出される世界なら、不可能じゃないでしょ。『七つの大呪』には反魂と再誕なんて言う、復活に関係しそうな呪いが二つもあるんだから」

『録画を切ったのもそれが理由でチュか』

「『七つの大呪』は迂闊に出せないからね」

 私は呪怨台に作り上げた球体を乗せる。

 すると直ぐに赤と黒と紫の霧が集まってくるので、私は集まってくる霧に干渉して、反魂と再誕が表に出てくるように念じておく。

 上手くいくかは分からないが、やらないよりはマシだろう。


「新たな種となって復活しなさい。呪いを糧として芽吹きなさい。命の理に従って増えて増えて、けれど魔物にはならず植物として増えなさい」

 その上で私はどんな植物になってほしいかを口にしていく。

 豆の中へと流し込んでいく。


「毒に負けない体を。呪いに負けない体を。そして出来れば美味しく沢山実りなさい」

『繁殖するでチュよー。大繁殖するでチュよー。強いものが生き残るが自然の理でチュよー』

 少しずつ霧の流入量が増えていく。

 それに合わせていくつかの球体が震えだし、まるで耐えきれないと言わんばかりに球体が割れていく。

 そして風化し、粉は呪いと共に他の球体へ流れ込んでいく。


「出来たわね」

 やがて霧が晴れると、そこには一粒の豆だけが残っていた。

 見た目は赤と白と黒の三色が斑模様に入っている豆だ。

 摘まみ上げてみると、一粒の豆とは思えない程に重い。

 私は録画を再開した上で、『鑑定のルーペ』を向ける。


「たぶん成功したわ」

 鑑定結果はこうなっていた。



△△△△△

『ダマーヴァンド』の斑豆

レベル:15

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:16


『ダマーヴァンド』で生み出された赤、白、黒の斑模様を持った豆。

生で食べると低確率で毒、灼熱、沈黙の状態異常を受ける。

味は良く、食べると満腹度も大きく回復する。

注意:『ダマーヴァンド』または『ダマーヴァンド』と類似した環境でしか生育しません。

▽▽▽▽▽



「ま、悪くはないわね」

 私は先ほど作った隔離スペースの地面に斑豆を埋める。

 すると斑豆は直ぐに芽を出し……次の瞬間には隔離スペースは斑豆で埋め尽くされていた。

 そして、第二階層にも混ざり始めている。

 他の植物を駆逐することはないようだが、恐ろしい早さである。


「『いや、繁殖が早いにもほどがあると思うんでチュが……』」

「えーと。あ、DCを持っていかれてる。もしかしたら、これまでの植物もこんな感じに発生と同時に増殖していたのかも。まあ、直ぐに収穫できる分には悪くないか」

 私は斑豆を収穫、煎っていく。

 これでイベント中の食糧も、その後も食事に困ることはなさそうだ。


『ちなみに動画の公開は何時にするでチュ?』

「んー……まあ、特に隠したいものは使っていないし、今公開しちゃうわ」

 で、最後に煎る事で食べても状態異常を受けなくなった豆を見せた後、私はアイテム作成スレとやらに斑豆の情報を流した。

07/24誤字訂正

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