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184:タルウィフェタ-2

「多少は意識を逸らしても大丈夫なようになってきたわね」

『でチュねー』

 煮込み始めてから3時間。

 鍋の煮込みはまだまだ足りないが、私から少し離れた空中に、大気中の呪詛を集めて球体にし続けることは出来るようになった。

 始めてから最初の1時間くらいは僅かにでも意識を逸らしたら、それだけで呪詛の球体は霧散してしまっていたが、今では10秒くらいは意識を逸らしていても大丈夫なようになった。

 恐らくは慣れによって、無意識に近い状態でも大気中の呪詛を操れるようになってきた証拠だろう。


「形も変えられる」

『でっチュねー』

 呪詛の球体が私の意志に応じて変形。

 涙滴型、紡錘形、立方体、正八面体、次々に姿を変えていく。

 複雑な形にすることは出来ないが、それは必要性が生じてからで十分だろう。

 なお、当たり前と言えば当たり前だが、呪詛の塊を維持するのは、簡素かつ球形に近い形の方が維持をしやすい。

 そう考えると、球形、涙滴型、紡錘形が扱うときの基本形になるだろうか。


「動かすことも……まあ、多少は出来るわね」

『ででんチュね、でんでんチュうね、でがんチュねー』

 球形に戻った呪詛の塊が私の周囲をゆっくりと回る。

 なお、呪詛の塊自身も回っているので、まるで私を恒星、呪詛の塊を惑星とするような感じになっている。

 動きを速めることは……まあ、ある程度はできる。

 目にも留まらぬとか、スクナの攻撃並の速さとかは、私の習熟度とイメージ力の問題なのかまだ出来ないが。


「濃度は呪詛濃度19まで。増やすことは容易で、減らすことは難しい……と言うよりは、自分の異形度に近づけるのは簡単で、離すのは難しい。こちらの方が正確かしら」

『チュッチュラチュッチュー、ざりちゅは、暇でチュ、やること、ないでチュ、チュッチュラチュッチュー、だから、刻むでチュ、たるうぃの意識を、刻むでチュ、チュ、チュウー』

 私の意志に応じて、呪詛の球体の密度が少しだけ上がる。

 なお、呪詛濃度20以上にするのは、成功してしまった場合が危険なので、今は控えている。

 ここはクカタチの物になるかもしれないダンジョンだし。

 ちなみに呪詛濃度10以下……『熱水の溜まる神殿』本来の呪詛濃度よりも低くしようとすると、容赦なくHPを持っていかれる。

 呪詛濃度不足よりはマシな消費スピードだが、どうしてもという時以外はやらないのが無難だろう。


「後は、数、距離、発生速度、発生させる場所の遠隔化なんかも課題かしらね」

『せめてツッコミくらいは欲しいでチュよ……』

 他の課題は……まあ、少しずつ解消していくとしよう。

 この感じならば、他の作業をするついでに習熟することは出来るだろうし、最終的な使い道を考えると、必要な時に、必要な場所へ、意識することも、予兆を生じさせることもなく、発生させられるようになるぐらいは必要だろう。

 その域に辿り着くのにどれほどの時間が必要なのかは、見当もつかないが。


「タルさーん」

「あら、クカタチ」

 と、ここでクカタチがやってきたので、私は呪詛の球体を霧散させて、声がした方に顔を向ける。


「は?」

『踊り食いでチュか?』

 クカタチが熱水の中から姿を現す。

 何故か胴体内部に、鱗やヒレが溶けかかって暴れ回る魚を収めた状態で。


「私やりました! 生け捕りです!! 踊り食いです!!」

「そ、そうね。確かに生け捕りだし、踊り食いだわ……」

 えーと、クカタチは何をしたいのだろうか……。

 たぶん呪術の習得に関わりのある事だとは思う。

 思うが……これからどうするのだろうか。


「これを消化しきれば、呪術を覚えられませんかね?」

「……」

 ああうん、やっぱり呪術習得を目指しての事ではあったか。

 ただ……。


「クカタチ、私の料理は出来上がった後に呪怨台で改めて呪い、呪術習得を出来るアイテムに変えるのよ。だから、モンスターの踊り食いで呪術を習得できるかは……ちょっと怪しいわね。仮に出来ても、相当の数をこなす必要があると思うわ」

「そ、そんな……!」

 流石にこれで習得するのは厳しいと思う。

 いやまあ、何十匹と同じように捕らえて、食らえば話は別かもしれないが。


「うーん、踊り食いに拘るのなら、せめてモンスターと一緒に飲み込めば呪術を習得出来る。というアイテムくらいは欲しいかもしれないわね」

「それってどうやれば作れますかね?」

「さあ? そういう思いを込めるのは必須だとは思うけど、具体的にどういうアイテムから作れるかは分からないわね。たぶん、クカタチ自身が思いついて作る必要があると思うわ」

「そうですか……」

 そうこうしている内にクカタチの体内に居た魚は死んだようで、動きを止めている。

 当たり前ではあるが、クカタチの体内は風化の呪い以外に満たされていて、風化の呪いが存在する外気にも触れていない。

 なので、死体はほぼ完全な状態で残ったようだ。

 まあ、直に消化されて消えてしまうだろうが。

 と、ここで一つ思いついた。


「そう言えば、『CNP』の世界では外気に接する形で死体を放置しておくとゾンビ化するらしいわね」

「ゾンビですか?」

「ええ。踊り食いに拘るのなら、いっそのこと今お腹の中にある魚の死体を呪って呪術習得用アイテムにした上でゾンビ化。それを食べてしまうというのもありじゃないかしら」

「なるほど……色んな手があるんですね……」

 私の提案にクカタチは思案顔をしている。


「まあ、やるなら自己責任ね。上手くいく保証は私からは出来ないから」

「分かりました。考えてみますね」

 そうしてクカタチは去っていった。

 さて、上手くいけばよいのだが……まあ、結果は直に出るだろう。


「さて、後3時間。じっくりと煮込まないとねー」

『本当に時間がかかるでチュねぇ……』

 私は煮込みと特訓を再開することにした。

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