181:トイシュライン-6
「ガガガガガ!」
「『
壁兵士のガトリング攻撃に合わせて、私は『灼熱の邪眼・1』をダンジョンの核になっているネジめがけて放つ。
勿論、ガトリングの銃弾に灼熱を吸われないように注意しつつだ。
効果は……やはり薄いか。
「破っ!」
接近することでガトリングの攻撃範囲から逃れたドージが、ガトリングの銃身へ横から掌底を叩き込む。
ドージの攻撃によってガトリングの銃身は大きくブレたが、攻撃そのものが止まることはない。
壁部分ならまだしも、ガトリング部分も堅いとなると、ドージは火力役としては期待できなさそうか。
「いづれ炎よ。イグニッション!」
ドージに少し遅れて、マトチも攻撃を仕掛ける。
が、攻撃のタイミングが遅かったのか、既に壁兵士はガトリングを引っ込めていたため、攻撃は壁の表面を少し焦がす程度に終わった。
直撃すれば私とドージの攻撃よりは期待できそうなのだが……厳しいか。
「オオオ゛オ゛オ゛……」
「またガスが!」
「面倒な……」
壁兵士が壁を持ち上げて、その下から触手とガスを出してくる。
そのため、マトチもドージも急いで逃げる。
「鑑定っと」
最初からガスの範囲外にいる私は今更ながらに壁兵士の鑑定をしてみた。
△△△△△
錆びたブリキの壁兵士 レベル10
HP:9,525/10,425
有効:なし
耐性:毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、小人
▽▽▽▽▽
『たるうぃの天敵でチュね。これは』
「知 っ て た。知ってたけど、どの邪眼もやっぱり厳しいか……」
「まあ、ゴーレム系は状態異常に強いのは定番か」
「毒とか沈黙とかは対生物って感じですもんね」
うん、これはひどい。
熊ですもそうだったが、やはり非生物系と私の邪眼は相性が悪い。
「てか、タルさんが鑑定したら、僕の『鑑定のルーペ』で見えてたHPバーが見えなくなったんですけど」
「うわっ、今知りたくはなかったわね。その仕様……」
「強化された『鑑定のルーペ』は効果と役割に合わせて、誰が使うかを決めた方がいいという事か。せっかくだから私も……相手の異形度は16か」
「ガガガガガ!」
壁兵士が再びガトリングを放ってくる。
私たちはそれを避けつつ、隙を窺って話せるタイミングで対策を話し合うことにする。
とりあえず相手の異形度は16なのね。
「タルさん! 何か奥の手とか、隠し玉とか無いんですか!?」
「壁兵士に有効な奥の手はないわねぇ。まあ、一応一通りやってみましょうか。『
私は壁兵士に目一つだけ使って状態異常を入れていくが……毒(1)、沈黙(1)、出血(3)か。
うーん、邪眼の耐性貫通込みでこれとなると、実質無効化されているようなものか。
やはり『灼熱の邪眼・1』で地道に攻めるしかなさそうだ。
可能なら、敵のヘイトを集めて避けタンクを務めてもいいが……厳しいか。
「ドージは?」
「私の隠し玉は……一つあるが、この状況で使うのは厳しいな」
「分かった。じゃ、マトチの干渉力低下の回復中心でお願い」
「そうだな。そうするのが一番か」
ドージにはヒーラーになってもらおう。
使えない隠し玉と干渉力低下の回復ならば、危険な干渉力低下の方が優先だ。
で、こうなればだ。
「マトチさんはどうだ? イグニッション以外の呪術はないのか?」
「う……ある事にはありますが……」
メインアタッカーはマトチに任せるしかない。
任せるしかないが……マトチの顔色は微妙なものだ。
「使えば破門されます。師匠から自由に使うことの許可を得られていないので」
「それは……」
「じゃあ、使わせるわけにはいかないわね。地道に攻めましょう」
ああ、思い出してみれば、マトチの師匠であるイグニティチはそんな事を言っていたか。
じゃあ駄目だ。
「タルさ……」
『あっさりでチュね。たるうぃ。どうしてでチュか?』
「事前の協議もなく、他人に取り返しのつかないリスクを負わせるのは私のプレイスタイルじゃないわ。勝てないと決まったわけでもなし。使えないなら使わずに勝つだけよ」
破門などという明らかに取り返しのつかないリスクを負わせるわけにはいかない。
バレなければと考えるかもしれないが、イグニティチ程の呪術師ならば、弟子が勝手に呪術を使ったかどうかなど直ぐに分かるだろうし。
それにまだ試していないこともある。
「プッシュウウウウゥゥゥウ!」
「少し試してみましょうか」
私は壁兵士の伸びるシールドバッシュとでも言うべき攻撃を避けつつ、少しだけ意識を周囲の呪詛へと割く。
ダエーワの攻撃を避けるべく『
ただし、今回は集めるのではなく、退ける。
私の周囲からではなく、壁兵士の周囲からだ。
「ギゴ!?」
「ぐっ……ゴバァ!?」
『たるうぃは無茶をするでチュねぇ』
「「!?」」
効果はすぐに出た。
壁兵士の動きが目に見えて悪くなる。
シールドバッシュの為に伸ばした壁が戻るのも目に見えて遅く、弱々しくなる。
そして、効果が出た代償だと言わんばかりに、私は吐血。
200近いHPが一気に持っていかれる。
「無茶を……する!」
「プギッ!?」
幸いにして、ドージもマトチも私が吐血し、動揺しても、やるべき事はやってくれるプレイヤーだった。
ドージは壁兵士と壁を繋いでいた触手に素早く近づくと、手刀で触手で切断。
壁兵士はその身を守っていた壁を失った。
「ここで退くぐらいなら……焼き焦がせ炎よ! フレイムボール!!」
「!?」
盾を失った壁兵士にマトチが接近。
右手にイグニッションよりも大きな火球を生み出し、生み出され、投じられた火球は壁兵士の左半身を包み込み、勢いよく焼いていく。
「あはっ! 追加してあげるわ!! 『
「ーーーーー!?」
その炎を見た私は反射的に退けていた呪詛を壁兵士めがけて集める。
集めて、マトチの生み出した炎の薪とし、そこに『灼熱の邪眼・1』も撃ち込んで、さらに火勢を増す。
もはや炎の勢いは生み出した当人である私たちにも止められない程で、壁兵士の金属の体は溶け出し、海月の部分は燃え尽きていく。
「オオオ゛オ゛オ゛……」
「本当に……無茶をする!!」
壁兵士が最後の足掻きと言わんばかりに、壁を勢い良く伸ばし、脚部干渉力低下を招くガスをまき散らし、ガトリングで燃え盛る弾丸を乱れ打つ。
だが、その行動は1秒も続かなかった。
ガスを弾きながら接近したドージの掌底が壁兵士の胸に突き刺さって、壁兵士の体は弾け飛んでいた。
「アアア゛……」
「まあ、勝てば官軍というやつか」
「ですね」
「ま、それについては否定しないわ」
『全員、無茶していると思うでちゅよ』
≪タルのレベルが16に上がった≫
≪称号『呪いを扱う者』、『呪いを指揮する者』を獲得しました≫
そうして私たちは勝利した。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル16
HP:526/1,150
満腹度:42/110
干渉力:115
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・2』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『大飯食らい・1』、『呪いを指揮する者』
呪術・邪眼術:
『
所持アイテム:
毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、呪い樹の炭珠の足環、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
▽▽▽▽▽
△△△△△
『呪いを指揮する者』
効果:大気中の呪詛を操れる
条件:特定干渉者の存在する大気中の呪詛を一定量以上操る
誰の呪いであろうとも関係はない。私は操って見せる。
▽▽▽▽▽
「ん?」
『上の条件を直ぐに満たしたせいで、即座に上書きされたようでチュね』
「ああなるほど」
さて、ダンジョンの崩壊を止めたら、得る物を得るとしよう。
『呪いを扱う者』のフレーバーテキスト、読んでみたかった……。