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179:トイシュライン-4

「出血? そんな状態異常があったのか」

「そして重症化すると、症状が呈した時に爆弾のようになる、ですか。とんでもないですね」

「一番厄介なのは自覚症状がない事ね。気が付いたら手遅れなんてパターンも有り得るわ」

 私はブリキ人形とネズミたちへのトドメを終えると、素材の回収と鑑定を進めつつ、先程私がやった事の一端……出血の状態異常の重症化について話をした。

 ただし、私が『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』を持っている事は明言しないし、出血が効果を発揮する条件も明かしていない。

 あくまでも、出血と言う罹っている本人には認識できない状態異常がある事、発動すると多大なダメージを受ける事、重症化と判定される以上にスタック値が貯まった状態で発動すると爆発のような現象を伴う事、この三点だけだ。

 なお、ダエーワの裏切りと言うか策略については、状況からして語るまでもないので省く。


「その、タルさん。こんな重要な情報を話しちゃっていいんですか?」

「そうだな。今はPvP大会の直前と言っても差し支えない。それなのに、削除されたPV7にも出ていない邪眼の話をしてしまったら、大会に支障を生じるのではないか?」

「ああ、その事。それだったら問題ないわ。どうせ出血の状態異常はこの先何処かで知れ渡る情報だし、むしろ周知されていない状態が続く方が危険だから」

 まあ、マトチとドージなら、私がそう言う邪眼を持っている事も、起動条件も察しているだろうけど。

 だから無理に隠さず、二人経由で他プレイヤーたちに情報を渡して、警戒をしてもらうとしよう。

 私が今考えている使い方なら、出血の状態異常の存在が知られたところで大した問題はないのだし。


「それはまあ……そうでしょうけど」

「まあ、耐えられると思っていた一撃に耐えらないどころか、盾が吹き飛んだりしたら……な」

「そう言う事ね」

 と言う訳で、この話についてはこのくらいにしておこう。

 今はダエーワたちを葬った報酬の鑑定だ。

 特にダエーワから得られた毛皮と小さなブリキのバッジ、それと銃持ちブリキ人形の使っていた呪詛の弾丸を打ち出す銃。

 これらが気になる。


「んん?」

 が、毛皮とバッジは良かったが、銃の鑑定結果は微妙な物だった。



△△△△△

賢毒ネズミの毛皮

レベル:3

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:8


賢毒ネズミの毛皮。

持ち主の賢さを示すかのように、毛並みは綺麗に整えられている。

▽▽▽▽▽


△△△△△

ブリキの指揮官バッジ

レベル:10

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:10


ブリキで出来た小さなバッジ。

所有者はブリキ人形たちの指揮官として認識される。

▽▽▽▽▽


△△△△△

ブリキのおもちゃの銃

レベル:5

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:10


ブリキで出来たおもちゃの銃。

引き金を引くと、周囲の呪詛を弾丸に変えて発射、攻撃する事が出来る。

注意:引き金を引き切れるのは錆びたブリキの銃士のみ

注意:生物が引き金を引こうとすると壊れ、風化する。

注意:呪怨台に近づけると、風化する。

▽▽▽▽▽



「これは……使わせる気が無いですね」

「生物が引いても、呪怨台に近づけても壊れるのではどうしようもないな……」

「サクリベスにあるらしい呪いを解く施設も、たぶん結局は呪怨台だし、駄目そうよねぇ」

『遠距離攻撃がしたいなら、それ相応の苦労をしろって事でチュねー』

 この銃を基にスナイパーライフルのような物でも作れれば、色々と楽が出来る予感がしたのだが……流石にそう簡単には許してくれないか。


「しかも風化の仕方がこれってパーツも残す気が無いわね」

「徹底的ですねぇ」

「ふうむ……」

『完全に砂になったでチュねぇ』

 一応、銃は複数本回収できている。

 と言う訳で、私は試しに一本、銃の引き金を引いてみたのだが、引こうとした次の瞬間にはパーツごとに分解され、分解されたパーツはそのまま砂となって、欠片も残らなかった。

 『七つの大呪』の一つである風化の呪いを活用した情報抹消術の一種なのかもしれないが、実に徹底的である。


「ま、使えない物は仕方がないわ」

「そうだな」

「そうですね。で、この後は?」

「『足淀むおもちゃの祠』の核を探しましょう。指揮官バッジは核ではないようだし」

「分かりました」

「分かった」

 とりあえず回収は完了。

 私は改めて広場の中央に立って、全体を見る。

 ダンジョンの核はこれまでの経験からして、目に見えて分かるほどの呪いを纏っているはずなので、何かしらの方法で隠されていない限りは見て直ぐに分かるはずだ。

 マトチとドージの二人も、私に倣って捜索を始めてくれる。

 しかも私の目の死角になっている物陰を優先的に探してくれるので、非常にありがたい。


「ん?」

『チュ?』

「何の音でしょうか?」

「これは……」

 そうして探している時だった。

 何故か広間の入り口の方からキャタピラの駆動音のような物が聞こえてきた。

 その音に私が広間の入り口に注意を向け、マトチとドージも広間の入り口を見る。


「は?」

「あ?」

「へ?」

『あっ……そう言う事でチュか』

 私が注意を向けた時には、通路の奥からやってきた壁によって、広間の入り口は閉ざされていた。

 いや違う。

 入口にあるのは壁のようなものだ。

 その証拠に、中央には切れ目のような物が存在すると同時に、僅かだが広間の入り口から中へと踏み込んでいる。

 そして先程まで聞こえていた駆動音は止んでいた。

 つまり、先程までの駆動音はあの壁が何処からか移動する時に発していた物であり、あの壁はブリキ人形たちと同じように動くものと言う事だ。

 で、この状況であんな壁が来ると言う事は……


「ギゴゴ……」

 壁が中央の切れ目で割れて、六本の細い金属製の筒が出てきた。

 六本の筒は紐のような物で束ねられており、ゆっくりと回転を始めている。

 ああうん、極めて嫌な予感がする。


「ガガガガガッ!」

「やっぱりそう言う事よねぇ!!」

「ガトリングウウゥゥ!?」

「はあああっ!?」

『敵でチュー!!』

 そして、私の嫌な予感通りに六本の筒からの呪詛の弾丸乱れ撃ちが行われた。

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