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178:トイシュライン-3

「「「ブリッキアアアァァァ!」」」

 銃を持ったブリキの人形が数体、素早く起き上がると、私に向かって銃を構える。


「「「ギギギ……ガガガ……!」」」

 入口から剣を持ったブリキの人形たちが広場へと突入して、私に向かってくる。


「「「チュアアアァァァ!」」」

 陳列棚の影から毒ネズミたちが飛び出して、毒吐きネズミは私に向かって口を開け、他の毒ネズミたちは射線を意識しつつ、ブリキ人形たちを盾にしながら向かってくる。


「チュッチュア!」

『やってしまうでチュ。だそうでチュよ』

 そして、ブリキ人形たちに指示を出す何か……恐らくは『足淀むおもちゃの祠』にとって重要なアイテムを保有しているダエーワは素早くブリキ人形とネズミたちの陰に隠れる。


「ふふっ」

 ああ……なんて素晴らしい動きだろうか。

 逃げる場所も隠れる場所もないこの広間に誘導しての攻撃。

 それもただの攻撃ではない。

 遠距離攻撃によって私をきっちり削った上で、近接攻撃でとどめを刺すと言う布陣。

 しかも失っても惜しくないブリキ人形たちを盾にして、仲間であるネズミたちは生きて帰そうとする賢さが見える。

 これは私を仕留めるためにきっちり考え抜いた策だ。

 私を始末するための策だ。


「ふふふふふ……」

 その証拠にだ。

 銃持ちのブリキ人形たちが銃の引き金を引き、呪詛の霧を固めたような弾丸を放つ。

 剣持ちのブリキ人形たちが剣に呪詛をまとって、切りかかってくる。

 毒吐きネズミが毒を降り注がせて、面での攻撃を狙ってくる。

 毒噛みネズミたちは射線を遮らないように、そして私が何かしてもいいように備えて構える。

 全く以って隙が無い。


「あはははははっ!」

 惜しむらくは所詮ネズミの浅知恵と言うところか。

 重要な情報も、必要な策と道具も、他にも色々と大切な物が幾つも欠けている。

 特に致命的なのは、ダエーワたちはプレイヤーが不老不死の呪いを持つために、殺し切るには相応の手段が必要と言う知識がない。

 これでは動機が何であれ、失敗は約束されていると断言していい。

 だが私は死んでも問題ないからと、殺されてやる気はない。

 全力で相手をして、返り討ちにしてやるとしよう。


「『小人の邪眼・1(タルウィミーニ)』」

 『CNP』の世界の呪詛は人々の感情に反応する。

 だから私は呪い樹の炭珠の足環の力で引き寄せている呪詛の量を増やす。

 目玉琥珀の腕輪によって『ダマーヴァンド』から呼び出している呪詛の量も増やす。

 そして、呪詛纏いの包帯服と赤魔宝石の腕輪で増やした呪詛を私の周囲に保って、呪詛濃度を上げる。

 その状態で、周囲に大量の光を漏らしつつ6つの目によって『小人の邪眼・1』を使えば?

 かかった状態異常は小人(114)、私の体は10分の1サイズにまで縮み、光が続く間に無数の攻撃を避けつつ天井まで舞い上がれば、姿も晦ませることが出来る。


「チュア!?」

『やったか!? だそうでチュよ』

「……」

 天井に移動した私は引き寄せた呪詛を『ダマーヴァンド』に送りつつ、広場の外にまで移動する。

 もちろん、この先の仕込みをしつつだ。


「はい、残念でした」

「チ……チュ……」

『ま……まさか……だそうでチュが?』

 そうして広場の入り口を塞ぐ形で、私は元のサイズに戻って全員の注目を集める。

 マトチとドージも異変を察したのか、重い足を必死に動かして、こっちに向かってきている。

 この先を考えると二人には見られない方が都合がいいのだが……仕方がない。


「そしてさようなら」

 私は指を鳴らして、『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』を発動。

 対象は毒ネズミたちの中でも特にガタイが良いと同時に、集団の中心付近に居る個体。

 その個体には天井を移動している間に、十分な量の出血を付与してある。

 そこにダメージが入ったのだから……


「チュ!?」

「「「!?」」」

 大爆発を起こすことになる。

 肉、骨、歯、それどころか皮、毛、血の一滴までもが弾丸と爆風になって周囲のものを殺傷する形で。


「チュ……チュゴ……」

『馬鹿なだそうでチュが?』

 ダエーワが瀕死の状態で私の足元に転がってくる。


「私に言わせれば甘いとしか言いようがないわね。でも愉快だったわ。貴方はきちんと策を練って、私を殺そうとした。ネズミの策で殺されそうになるなんて経験、そうはないわ」

 他の毒ネズミたちとブリキ人形たちは……殆どが即死、一部はまだ生きているが、瀕死と言う状態か。

 まあ、そちらへのトドメは後でいい。

 今はダエーワが優先だ。


「一応聞いておくわ。貴方の望みは?」

「チュゴ……」

『帰還す……チュねぇ。ああなるほど。たるうぃを殺して、ダンジョンの所有権を奪い取り、『ダマーヴァンド』に帰ることが目的だったと言う訳でチュか』

「そう、ならば死んで望みを叶えなさいな。『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

「チュ……ア……」

 私の目が紅色に輝く。

 ダエーワの周囲には呪詛が集められていて、その呪詛を燃料として、大量の熱が生じる。

 そしてダエーワはほんの僅かな毛皮と、小さなブリキのバッジを残して燃え尽きた。


「さて、帰還かしらね?」

「いや、色々と説明が欲しいのだが……」

「まあ、隠し玉なんで教える訳にはいかないでしょうけどね」

「あら、少しは説明するわよ」

 とりあえず拾えるものは拾っておくとしよう。

 色々と使えそうだ。

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