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177:トイシュライン-2

「おっ、良いのがあったわね」

『本当でチュねぇ』

「チュ?」

 探索すること暫く。

 私は陳列棚に乗っていたそれを手に取ると、『鑑定のルーペ』を向ける。



△△△△△

おもちゃの望遠鏡

レベル:1

耐久度:42/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


子供向けの望遠鏡で、遠くのものが近くにあるように見える。

壊れかけのため、使用するには修理が必要。

▽▽▽▽▽



「うん、鑑定結果も問題なし。回収しておきましょう」

 修理は必須だが、見た感じ修理が必要な部位はレンズではなく筒の部分。

 ならば、修理の難易度は低いだろう。

 なお、このおもちゃの望遠鏡は単眼の伸縮式で、縮めると中指くらいの長さ、伸ばすと中指の先から手首くらいまで。

 手頃なサイズと言えるだろう。

 とりあえず毛皮袋に入れておく。


「望遠鏡。嫌な予感しかしない……」

「まあ、タルさんが使ったら……な」

「ま、私が使う以上はそう言う使い方も出来るでしょうね」

 だいぶ足が重くなってきたのか、肩で息をし始めるようになっているマトチとドージの二人が、私の手元にある望遠鏡を見て、感想を言う。

 ま、妥当な判断だろう。

 私だって視線を利用する呪術の使い手が望遠鏡を持っていたら、同じ使い方しか考えない。


「で、二人は大丈夫なの? かなりきつそうだけど」

「今のところは何とか」

「まだ大丈夫だ」

 さて、望遠鏡についてはこれくらいにしておくとして、今は『足淀むおもちゃの祠』にある仕掛けへの対処を考えるとしよう。


「状態異常の種類としては、脚部干渉力低下でいいのよね?」

「それで間違ってません。現状では脚部干渉力低下(3)で、太ももから先に何かがまとわりついて、重くなっている感じですね」

 出元はよく分からないが、『足淀むおもちゃの祠』には脚部干渉力低下と言う、干渉力低下の一種であろう状態異常を発生させる何かがある。

 この何かは特定のポイントを手前から奥に向かって進むときに増え、退くと減る。

 ただ、発生源が床にあるのは確かなようで、空中浮遊を持っている私には効果が発生していない。


「解除は出来そう?」

「活ッ! やはり駄目だな。私程度の呪術では出力が足りないのだろう」

「うーん、キツいですね」

 最大の問題は、状態異常であるにも関わらず状態異常回復を受け付けない事か。

 少なくともドージの浄化術では対処できないらしい。

 こうなると、ドージの浄化術の出力不足を嘆くよりは、こういうダンジョンの仕掛けなのだと割り切ってしまった方が早いか。

 ちなみに異形度1のドージは現在、呪詛濃度過多を防ぐための呪術を使用している。

 やはり浄化術は私にとっての天敵になり得そうだ。


「チュウチュウチュウ」

「『自分たちの時は、この辺まで来たら、マトモに歩くのも難しいぐらいだったでチュ』だそうよ」

「へー」

「レベル差……よりは体のサイズ差の方が大きいか?」

「まあ、そんな所でしょうね」

 ダエーワたちはマトモに歩くのも難しくなっていた、ねぇ。

 となるとそろそろかしら。


「ダエーワ。貴方たちが手に負えない事態と言うのはもうすぐ?」

「チュ」

 ダエーワは肯定の意思を表すように鳴く。

 なるほど、やはりそろそろか。


「うーん……」

「あー、僕たちはどうしてもゆっくり動くしかないんで、タルさんが先行して偵察してくるのはありだと思いますよ」

「……。そうだな。私たちが足を引っ張る訳にもいかない。そういう判断はありだと思う」

「じゃあ、そうさせてもらおうかしら」

 マトチとドージの二人は何かを察したように、私を先行させることを提案させる。

 実際、脚部干渉力低下状態だと、単純に動きづらくなるだけでなく、感触もだいぶ変わるようで、接近も逃走も一筋縄ではいかなくなるようだ。

 効果量としてはスタック値1につき干渉力が1下がる程度なのだろうが……やはり厄介そうだ。


「ダエーワ。案内して」

「チュ」

『分かった、だそうでチュ』

 私はマトチとドージを置いて、ダンジョンの奥に向かって移動を始める。

 『足淀むおもちゃの祠』の呪詛濃度は順調に高まっていて、現在の呪詛濃度は11か12。

 階層についても、第二階層には入っているだろう。


「ダンジョンボスが居ないのにダンジョンが維持されていると言う事は、『足淀むおもちゃの祠』には核となっている何かがあるって事よね」

『そうなるでチュねぇ』

「「「ギギギ……ガガガ……」」」

 私はブリキ人形たちを倒しつつ奥へと向かっていく。

 なお、ブリキ人形を倒すついでに少々実験もやってみているが……これは慣れるまでと言うか、自然にやれるようになるまでに少々時間がかかりそうだ。

 案外、操作が難しい。

 ある程度勘が鋭い奴なら、こんなあからさまな変化が生じたら警戒を通り越して対処をしてくるだろうし……まあ、この辺は実戦を積んで何とかするしかないか。

 幸いにして、そろそろその機会もありそうだし。


「ここは……元々はダンジョンのボスが居たところなのかしらね」

 やがて私は広場のような場所に出た。

 私が邪眼術の準備をしつつ先に進む。

 周囲には銃のような物を持ったブリキの人形が何十体と転がっていて、その後ろで何かが動いている物音もしている。

 これより奥へと向かう道も見当たらない。

 そうして私がダンジョンの核を探し出すべく広場の中央にまで移動した時だった。


「チュアアアァァァ!」

 ダエーワが素早く私から離れつつ鳴き声を上げた。

07/11誤字訂正

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