168:現実世界にて-7
「残念だけど、私と樽笊さんが組むことは無くなったみたいね」
「そのようですね。まあ、戦力配分の事を考えたら、妥当な判断だと思いますけど」
金曜日、『CNP』の公式サイトが更新。
10日後に迫った、7月の第二日曜日開催予定の第二回公式イベント、『呪術師が導く呪詛の宴』の詳細が明らかになった。
と言う訳で、大学の食堂で私は財満さんと次のイベントについて話をする。
「そうね。基本が前回のイベントから変わりないから、戦力バランスは考えて当然だと思うわ」
基本ルールは前回と変わらず。
予選は残り一組になるまでのバトルロイヤルで、本戦は二対二のトーナメントだ。
交流マップやアイテム交換についても前回と同様なので、そちらでの賑わいも見込まれるだろう。
「それでも樽笊さんと組めたら、楽しそうだし、楽そうだったとは思わずにはいられないわ」
「まあ、掲示板でも引く手あまたではありますね」
勿論、前回からの変更点はあるし、ペアを組むときのルールもある。
財満さんが少し残念そうにしているのは、このルールが原因だった。
と言うのもだ。
「私もスクナと組めれば楽だったんですけどね」
「誰も勝てないから、それは止めて」
イベントでのペアが発表されるのは、予選開始五分前、準備のための空間に飛ばされた時。
ペアを組む相手は、各プレイヤーの戦術面と性格面の両方を考慮して、出来るだけ平均的になるようにAIがランダムで選出。
前回のイベントで本戦に出場したプレイヤー同士が組むことは無い。
と言うルールが発表されたのだ。
これはつまり、イベント開始直前まで誰と組むかは分からないと言う事。
相方との相性は最低限は保証されているが、中々に厄介である。
「まあ、マントデアと組めれば優勝は堅いかもしれませんね」
「それも勝てないから来ませんように。可能性はあるけど、来ませんように……」
なお、敗退はペアの二人共が戦闘不能になった際に、敗退と判定される。
それと、フレンドリーファイヤはいつも通り有効。
との事なので、相方の実力によっては、相方は捨て駒として扱い、一人で戦う事を考えてもいいのかもしれない。
私はやらないが。
「でも、実のところ10日間もあれば、今から『CNP』を始めたプレイヤーでも、それなりには戦えるようになりますよね」
「そうね。多少の無茶はする事になるでしょうけど、十分戦えるようにはなると思うわ。レベルよりもプレイヤースキルのが重要なゲームだし」
さて、先程も言ったように、前回からの変更点もある。
具体的には芋砂対策、予選の長引き防止策だ。
まず、一定時間ごとに、周囲のプレイヤーの位置が、異形度と周囲の呪詛濃度関係なしに分かるようになるらしい。
これによって、人数が減るまで、人目に付かない場所でまったりしているわけにはいかなくなった。
「つまり、今現在、無名のプレイヤーであっても、それだけでがっかりする必要は無い。そうとも言えるわけですね。少なくともある程度の相性の良さは保証されているわけですし」
「樽笊さん、何か狙っているわね……」
また、この仕様がある事によって、待ち伏せをする際には工夫が必要になったし、他プレイヤーを追いかけるのも楽になったと言えるだろう。
私にとっては……まあ、逆利用するだけなので、問題は無いか。
「そうですね。少し狙っています。なにをするかは秘密ですが」
「不安しか感じないわ……」
なお、この居場所が分かる時間だが、対象となるプレイヤーがその場から動いていない時間が長ければ長いほど、他のプレイヤーに居場所が伝わる時間も長くなるらしい。
「たぶん大丈夫ですよ。私と同じ予選ブロックになる確率なんてたかが知れていますし、本戦は仕様上、私にとって不利ですから」
「その不利を覆して、3位入賞なのは何処の邪眼妖精だったかしらね……」
「さあ? どこのでしょう?」
ちなみに、徐々に狭くなっていく戦闘フィールドやサプライズについては、変わらず存在する。
新仕様と合わさって、次のイベントの予選は短期決戦になる可能性が高そうだ。
「そう言えば樽笊さんはこの間の攻略を欠席していたようだけど、何かあったの?」
「この間の攻略……ああ、境界の奴ですね。アレは単純に行けなかったんですよ。やる事が溜まり過ぎていて」
「そうだったの。まあ、それなら仕方が無いわね」
えーと、イベントの追加仕様や変更点についてはこれくらいか。
まあ、やる事は前回からさほど変わりない。
敵は全員倒す、それだけだ。
「ええ、そしてまだまだ溜まっているんですよね。呪術の習得、装備品の更新、未知の探索という感じで」
「呪術と探索はともかく、装備については他プレイヤーを頼れないの?」
「ウチの拠点は立地が悪すぎるんです。あんな辺鄙な所まで来るプレイヤーなんて居ないですよ」
「下は大いに賑わっていると聞いたけど?」
「下は、そうですね」
さて、折角なので掲示板を確認。
うーん、特にこれと言った話はないかな。
「まあ、正直な話として、私はエンジョイ勢です。なので、自分のペースで進めるだけです」
「ソウネー。エンジョイ勢デハ、アルワネー」
さて、そろそろ午後の講義である。
私は席を立つと、財満さんと一緒に講義室に向かった。