167:ミニマムツリー-6
「さて、どういうアイテムかしらね」
『呪い樹の洞塔』が燃え尽きてしまった以上、此処から『ダマーヴァンド』に帰るには、別のダンジョンを見つけてそこのセーフティエリアを活用するか、森か沼のセーフティエリアにまで移動するかの二択となる。
で、そこに移動するまでの間にどう加工するかを考えるために、私は回収したアイテムの鑑定をした。
△△△△△
『呪い樹の洞塔』の炭珠
レベル:12
耐久度:100/100
干渉力:105
浸食率:100/100
異形度:10
『呪い樹の洞塔』・カスドージュケタワの目の一つが焼けて、炭になったもの。
宝石のような輝きを持っている。
焼いた炎に込められていた呪いによって、強い怨みを抱いているようだ。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『呪い樹の洞塔』の炭枝
レベル:10
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:7
『呪い樹の洞塔』・カスドージュケタワの枝の一つが焼けて、炭になったもの。
非常にもろく、慎重に扱う必要がある。
焼いた炎に込められた呪いが刻みつけられている。
▽▽▽▽▽
「あの黒い炎は、やっぱり普通の炎ではないみたいね」
『炭珠がざりちゅたちの事を睨んでいる感じがあるでチュねぇ……』
鑑定完了。
では移動開始である。
目標は……近くの別のダンジョンを探した方が早そうか。
「でも、宝石のような物なら、真鍮の輪がまだ一つ余っているから、そこに填めてもいいかもしれないわね」
『まあ、釣り合いは取れそうでチュよね』
えーと、炭が宝石になったものと言うと……ジェット、黒玉が近いのかな? パワーストーンとしては魔よけや旅の加護か。
『呪い樹の洞塔』の炭珠にも、それに類似するような力を求めるのが良さそうかな。
「炭枝はどうしようかしら」
『違和感を感じたから、回収したんでチュよね』
私は襲ってくるモンスターたちを適当にあしらいながら、北東方向に向かって移動し続ける。
すると少しずつ標高が上がってきて、遠くの方に雪山らしき、白い物を被った山が見え始めて来ていた。
「ええそうよ。それと鑑定結果からして黒い炎の力の一端を秘めている気はするけど、流石にここから邪眼に繋げるのは厳しそうなのよね」
『たぶん残りカスみたいな物でチュからねぇ』
炭枝から黒い炎の力を引き出せれば、『灼熱の邪眼・1』もだが、他の邪眼もパワーアップできそうな気はする。
ただ、あの外の黒が、現状の私に扱える物かと言われれば……NOと言う他ないか。
そもそもアレが何なのかもよく分かっていないし、どうやったら十分な量を回収できるのかという見当もつかないのだから。
「あ、ザリチュ。一応確認だけど、あの外の黒って、『ダマーヴァンド』の例の場所とは無縁よね」
『無縁でチュね。どちらも黒でチュが、全然別物でチュよ。ダンジョン崩壊のアレとは少し近い気もするでチュが……別物でチュね』
「分かったわ」
うーん、それにしてもダンジョンが見つからない。
ここは沼と森の境界で、立地の都合上、プレイヤーたちが来るのは稀な場所のはず。
それなのにダンジョンが一つも見つからないとは……困った。
そうして私が悩み始めた瞬間だった。
「む……」
『チュ!?』
急に私の周囲に冷気が漂い始める。
空から白いものが舞い散り始める。
不穏な気配と共に、周囲の呪詛濃度が高まっていく。
「あ、これ駄目だわ」
『諦めるの早いでチュよ!?』
そして次の瞬間には視界がホワイトアウトするレベルで吹雪が吹き始め、私のHPと満腹度が恐ろしい勢いで減り始めた。
手足と翅が凍り付き、空中浮遊の呪いがあるのに氷の重さで地面に触れてしまっている。
息が白いとか、髪の毛が凍り始めたとか、そう言うのがどうでも良くなるレベルの冷気だ。
うん、無理。
これはもうどうしようもない。
どこでフラグを立ててしまったのかは分からないが、これはアレだ。
「だってエリア境界の強制死に戻りだもの。どうしようもないわ」
ストラスさんたちが西の草原の先に行くために乗り越えなければいけなかった現象と同一の奴だ。
「ま、帰る手間が……省けたわ……」
『それは確かにそうでチュけど……』
と言う訳で、私はあっさり死に戻り。
『ダマーヴァンド』のセーフティーエリアに戻された。
『で、死に戻ったでチュけど、あの吹雪を突破する気は?』
「現状無いわね。アレを超えたら雪山で、寒い場所なのは分かり切ってるし。どう考えても私には合わないわ」
戻ってきた私は自分の状態を一通り確認。
うん、何も問題は起きていない。
「と言うか、普通のエリアの境界を超えるなら、個人的には南の境界を超えたいわね。あの烏が住んでいる場所だし、『ダマーヴァンド』からも近いしで」
『格好的には……合っているようで合っていないでチュね』
「まあ、そっちも行くなら行くで、火炎耐性をどうにしかしてからでしょうね」
とりあえず回収物である炭珠と炭枝はマイルームに保管。
明日から加工を始めるとしよう。
「うーん、ちょっと時間が余っているわね。折角だし『ダマーヴァンド』の中を一通り見て回りましょうか」
私はリアルの時刻を確認。
後、ゲーム内で二時間くらいは過ごしても問題なさそうだったので、『ダマーヴァンド』の中を見て回っていく。
「呪詛の流出入は問題なし。広場は問題なし。仮称アジ・ダハーカも問題なし。毒ネズミたちにも異常は見られず。植物の生育状況は出血毒草が増えているけど、おおむね問題なし……」
まあ、基本的には問題はなさそう……でもないか。
『いや、薬草は全滅でチュね』
「と言うか、無毒な生物は全滅と言った方が正しいと思うわ」
問題1、気が付いたら薬草が全滅していたようだ。
また、毒にも薬にもならない植物にしても、味が微妙な白豆と赤いのを取り除くのが難しい小麦以外は、いつの間にかなくなっていた。
気が付けば毒草だらけで、キノコについても同様である。
「木が生えてる」
『『呪い樹の洞塔』に似ているでチュねぇ』
問題2、第四階層の天井が無い場所に、葉に触れた生物に小人状態を付与する効果がある木が一本生えていた。
毒ネズミたちはこの木の危険性を理解しているらしく、齧られる事がない木は第五階層の天井よりも梢を高くして、立派に生育している。
たぶん、私の邪眼術習得の影響だろう。
「下が騒がしいわね」
『垂れ肉華シダの花の匂いがするでチュねぇ』
問題3、いつの間にか『ダマーヴァンド』の外壁は隙間なく垂れ肉華シダの苔に覆われていた。
そしてビル下に向かって伸びた蔓先で咲く花の匂いを利用した狩りが、行われているようだ。
いやまあ、別に悪い事ではないが。
「なんか、結構変化しているわね」
『でチュねぇ』
うーん、『呪い樹の洞塔』で手に入れた素材の処理が終わったら、改めて『ダマーヴァンド』とその周囲の探索をしてみてもいいのかもしれない。
色々と見つかりそうだ。
そんな事を考えつつ、私はログアウトしたのだった。
07/01文章改稿