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162:ミニマムツリー-3

「よし、取れたわね」

 『呪い樹の洞塔』第二階層で私がまず向かったのは真正面、ダンジョンの中と外の境界にもなっていそうな、緑色の葉っぱがある枝先だ。

 『呪い樹の洞塔』である樹はとても大きく、枝も私が元のサイズでも座れるくらい太い。

 しかし、それでも枝先は小人状態でも横になって歩かなければ落ちてしまうぐらいには細く、私は慎重に枝先に移動して、質の良さそうな葉っぱをナイフで切り取って回収する。


「さて、鑑定ね」

 そうして回収した葉っぱに私は『鑑定のルーペ』を向ける。



△△△△△

小人の樹の葉

レベル:10

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:5


触れた者を小人に変えてしまう力を持った『呪い樹の洞塔』の葉っぱ。

その力は本体から離れても衰えない。

▽▽▽▽▽



「うん、よろしい。邪眼の材料になりそうね」

『小人は状態異常でチュか?』

「状態異常よ。私だって効果が薄いだけで、デメリットが無いわけじゃないし」

 私は小人の樹の葉を何枚か毛皮袋に収めていく。

 加工の際にも小人の状態異常を受けるので、加工の難易度は高そうだが、上手くいけば色々と面白い事が出来そうだ。


『チュッ? メッセージでチュよ。たるうぃ』

「あら、誰から?」

 何枚か葉っぱを取ったおかげで、木の外が見える。

 が、何処までも真っ暗闇の虚空が続いているだけだ。

 迂闊に飛び立てば……まあ、良くて死に戻りか。

 下と違って横はワザとでないとそこまで離れられない気がするし、その分だけペナルティが重そうな気がする。


『送り主はストラス。内容は……』

 私はある程度太い枝にまで移動したところで、ストラスさんからのメッセージをザリチュに尋ねる。

 その内容は……簡単に言ってしまえば、攻略お誘いだ。

 なんでも西の草原の先に進む方法に見当がついたが、それを実現するためには戦力が必要との事で、私にメッセージを送ってきたらしい。


「うーん……」

『お、珍しく悩むんでチュね』

「だって、未知が待っているのは間違いないもの。そりゃあ悩むわよ」

 なお、このメッセージは他にもマントデア、カーキファング、スクナと言った実力がある事で有名なプレイヤーにはだいたい送られているとのこと。

 うーん、悩ましい。

 とても悩ましい。


「残念だけど、今回はお断りね」

『理由は?』

「私が貯め込んでいるタスクが多すぎて処理し切れてない。これ以上タスクを増やしたら、どれもこれも中途半端になって、未知を楽しめないわ。だから、悔しいけれど今回は諦めるしかないわ」

 それでも私は結論を出した。

 私が一人しかおらず、プレイできる時間が限られている以上、今回は諦める他ない。

 悔しいが、この悔しさは私しか見る事が出来ない未知の取得によって埋め合わせるとしよう。


『メッセージ送ったでチュ。たるうぃ』

「ありがとう。ザリチュ」

 とりあえず参加できない事と、成功を祈っている事と、可能なら事の顛末についてはメッセージで送ってもらうか、掲示板に挙げて欲しいと言う要望をまとめた物を、私はストラスさんに送り返した。

 そのメッセージの返事は……無難な内容と掲示板のアドレスか。

 うん、上手くいくことを祈っておこう。


「あ、こう言うのも居るのね」

 さて、探索再開である。

 私は枝から枝へと飛び移るようにして、『呪い樹の洞塔』第二階層を探っていく。

 勿論、凧飛び蜘蛛が襲ってくるが、凧飛び蜘蛛については『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』で簡単に焼き殺せるので問題はない。

 で、探索すること暫く。

 私は新たなモンスターを発見した。


『傍目には枝に集っているようにしか見えないでチュね』

「そうね」

 とりあえず『鑑定のルーペ』を向けた。



△△△△△

小人ナラフシ レベル6

HP:1,545/2,052

有効:灼熱

耐性:なし

▽▽▽▽▽



「セブシャアアァァァァ!」

「「「キチチチチ……」」」

 私たちの前ではモンスター同士の戦いが繰り広げられている。

 具体的には一匹の巨大ナナフシと数匹の凧飛び蜘蛛が戦っている。

 体長が50センチはありそうな巨大ナナフシこと小人ナラフシは、細い足を振り回して凧飛び蜘蛛を切り裂き、叩き伏せている。

 凧飛び蜘蛛たちは数の利と自分たちの特性を生かすように小人ナラフシの周囲を飛び回り、糸で動きを束縛すると共に、隙を見て小人ナラフシに飛び掛かり、噛みついている。

 恐らくだが、小人ナラフシは小人状態に耐性を持っていると共に『呪い樹の洞塔』の葉っぱを齧る害虫で、凧飛び蜘蛛が『呪い樹の洞塔』を守る益虫なのだろう、『呪い樹の洞塔』視点の話になるが。

 うん、なんとなくだが、そんな気がする。


「『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

「セブシャア!?」

「「「キチチッ!?」」」

『漁夫の利でチュねー』

 まあ、私はまとめて焼き払うのだが。

 どっちもモンスターで、私の姿を見つけたら襲い掛かってくるだろうし。


「素材は……やっぱり焼くと微妙そうね。まあ、次辺りで適当に回収しておきましょうか」

『でチュね』

 小人ナラフシは対小人の素材、凧飛び蜘蛛は飛行関係の素材になる気がするが……まあ、後で適当に回収すればいいか。

 私にとっての優先度は低そうだ。


「おっ、結界扉ね」

『今日は此処まででチュかね?』

「そうね。それでいいと思うわ」

 その後も探索を続けた私は、ログアウト時間少し前になったところで、結界扉と第三階層に繋がりそうな樹の中に続く洞を見つけた。

 では、今日はこれまでにしておくとしよう。

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