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161:ミニマムツリー-2

「ふうん」

 通路を抜けた先は、縦横無尽に枝が伸び、無数の葉によって日の光が遮られた、とても広いドームのような空間だった。

 なお、足場となる枝の下は無限に真っ暗闇の虚空が続き、地面が見えない。

 元の樹の大きさを考えると、今の私のサイズを鑑みても、あり得ない光景だ。


『空間が捻じ曲がってるでチュね』

「ええ、呪限無ではないようだけど、明らかに異空間になっているわ」

 まあ、『ダマーヴァンド』の第三階層や、これまでに探索した他のダンジョンを考えたら、これくらいは普通と言えるだろう。


「で、ようやく敵ね」

『でチュねー』

 さて、仮にここを『呪い樹の洞塔』第二階層としておこう。

 第一階層にモンスターは居なかったが、第二階層では普通にモンスターが出現するようだ。


「「「キチチチ……」」」

 一見すればただの蜘蛛。

 ただし、糸を編んで作った凧によって、巧みに空を飛ぶ蜘蛛であり、よく見ればお尻の部分には巻き上げ機のような構造が呪いによって生じている。

 なお、体長は20センチほどだが、限界まで小人化した状態なら、体感2メートルになる大蜘蛛である。

 鑑定結果は……



△△△△△

凧飛び蜘蛛 レベル5

HP:725/725

有効:灼熱

耐性:毒

▽▽▽▽▽



 こんな感じである。


「キチ、キチチチチ!」

「はい、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

「キチアッ!?」

 とりあえず私に向かってきた凧飛び蜘蛛に『灼熱の邪眼・1』を斉射。

 凧飛び蜘蛛の全身は燃え上がって、黒焦げになり、燃え切ったところで枝の上に落ちた。

 そして、凧飛び蜘蛛の体は枝が持つ小人化の力によって、あっと言う間に縮んで、見えなくなってしまった。


「小人への耐性は無いのね」

『だから空を飛んで、枝に着地しない生活になっているんでチュかね』

「かもしれないわね」

 なお、現在の私はきちんと小人のスタック値を90以上を維持しているので、10分の1サイズである。

 きっとこのサイズで普通のプレイヤーが凧飛び蜘蛛と戦うとなったら、体感2メートルはあるのに自由自在に飛び回るその力と、弱体化している自分たちの近接戦闘能力の相乗効果によって、苦戦を強いられるのだろうが……。


「とりあえず、私との相性は良いわね」

『でチュねー』

 私は一般的なRPGで言うならマジックユーザー。

 小人で不利になる事があるとしたら、耐久方面ぐらいだが、そんなのは今更。

 とりあえず『呪い樹の洞塔』は色んな意味で私にとって相性が良さそうだ。


「あ、折角だし称号を一つ取っておきましょうか」

『チュ?』

「『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』」

 で、折角ついでに私は遠くの方で浮いている凧飛び蜘蛛に向けて『出血の邪眼・1』を何度も打ち込んでいく。

 白豆と赤豆、両方を抱えて交互に食べて満腹度を回復させながら、凧飛び蜘蛛に出血の状態異常を貯めていく。

 一発につき出血(11)、一斉射で出血(143)。

 自然回復分やスタック値が高まるにつれて数字が上がりづらくなる仕様もあるが、これを8回ほど繰り返して、1,000を超える出血を付ける。

 称号獲得条件は不明だが、まあ、これだけ付ければ大丈夫だろう。


「じゃ、『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』」

 私は指を鳴らして、『気絶の邪眼・1』を発動、鎖骨の間の目がレモン色の輝きを発する。

 そして、レモン色の輝きを受けた凧飛び蜘蛛は固定値として与えられる気絶(1)と電撃属性の1ダメージを受けた。

 その1ダメージをトリガーとして出血の状態異常が効果を発揮し……


「「「ーーーーー!?」」」

「は?」

『チュア!?』

 凧飛び蜘蛛は爆発四散。

 周囲に体を構成していたパーツが勢いよく飛び散ると、近くに居た他の凧飛び蜘蛛の凧を引きちぎって落下させる事もあれば、体を貫いて絶命させることもあった。

 そして、恐ろしいことに、爆風が届くと共に、私のいる場所の近くの枝にまで爆発した凧飛び蜘蛛のパーツは超高速で飛来、鋭い牙が枝に深々と突き刺さり、小人の状態異常によって見えなくなっていく姿が見えた。


≪称号『出血使い』を獲得しました≫

「……」

『……』

「「「ーーーーー!?」」」

 正に阿鼻叫喚の地獄。

 凧飛び蜘蛛たちは正に蜘蛛の子を散らすように慌てて何処かに飛び去っていき、辺りは静寂に包まれることになった。


「えーと、称号の効果はっと」

『スルーでチュか!?』

「いやまあ、もう終わった事だし。とりあえず、今試してよかったと思うわ。これ、ザリアたちが居る時にやっていたら大惨事だわ……」

 とりあえず私は自分のステータスを確認しておく。



△△△△△

『蛮勇の呪い人』・タル レベル14

HP:1,129/1,130

満腹度:78/110

干渉力:113

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・2』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『大飯食らい・1』


呪術・邪眼術:

毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』、『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』、『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』、『出血の邪眼・1(タルウィブリド)


所持アイテム:

毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、真鍮の輪、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.


所有ダンジョン

『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール設置


呪怨台

呪怨台弐式・呪術の枝

▽▽▽▽▽


△△△△△

『出血使い』

効果:出血の付与確率上昇(微小)

条件:出血(500)以上を与え、出血によるダメージで生物を殺害する。


私の出血の力を見るがいい。

▽▽▽▽▽



「あ、うん。コピペ称号ゲットー」

『……』

 たぶんだが、アレが出血の状態異常の重症化なのだろう。

 原理としては、大量の血を噴出させる圧力に体が耐え切れなくなって、爆発四散するとか、そんな感じだろうか。

 使い道が無いわけではないが、気を付けないと自分と味方が巻き込まれるので、極めて危険である。


「今更だけど、『毒使い』と『出血使い』は他の状態異常とは微妙に取得条件が違うのね。『毒使い』と『毒の名手』も微妙に違うけど。取得難易度とかの都合かしら」

『ソーデチュネー』

「まあ、基本的には封印の方向で行きましょう」

『必要があったら使うんでチュか……』

「使うわ。有用なのは事実だから」

『たるうぃは本当にたるうぃでチュよ』

 とりあえず私は『呪い樹の洞塔』第二階層の探索を始めた。

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