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16:ベノムラッツ-1

「ログインっと」

 はい、『CNP』サービス開始二日目。

 休日なのをいいことに、朝の雑事を終わらせたら即ログインである。


「今日の目標は『ネズミの塔』の別階層の探索かな。掲示板を見た限りだと、ダンジョンの情報はほぼ無いし、自分で全部考えないと」

 二日目と言う事で、公式の掲示板は一応覗いてきた。

 ただ、私が知らなかった情報と言うと、異形度が高いと街に入れない事ぐらいか。

 うん、知ってても何の意味もない。

 今の私はダンジョンの外に出られない身の上だし。


「毛皮袋よし、ポーションケトルよし、トゥースナイフよし、毛皮服よし。じゃあ、行きましょうか」

 私はセーフティーエリアの外に出ると、右のオフィスを経由して、左右のオフィスに挟まれた複数の小部屋があるエリアに踏み込む。

 殆どの部屋は入口のドアが損壊していて、中には瓦礫や机の残骸が散らばっているだけ。

 見るところは無さそうだ。


「ヂュアアッ!」

「おっと」

 と、ここで小部屋の中から毒噛みネズミが前歯をむき出しにしつつ飛び出してきたので、私は素早く跳躍して攻撃を避ける。

 そして背中に跨ると手に持ったトゥースナイフで素早く首を切り裂く。


「ヂュアッ!?」

「はい、お終い」

 それだけで出血と毒によって毒噛みネズミのHPは激減していき、絶命。

 身体は風化して毒噛みネズミの前歯だけがその場に残る。

 こちらの消費は毒噛みネズミのトゥースナイフのコストであるHP5だけで、この程度ならば少しリラックスすれば簡単に回復する。


「うん、手慣れた物ね」

 もう毒噛みネズミ単体は敵にならない。

 そう断言していいだろう。


「よし、HPも回復」

 ちなみにHPはセーフティーエリアに入れば、回復の水が入っている器の効果で自動回復。

 セーフティーエリアの外でも、精神状態に応じて自然回復するようだ。

 なので、プレイヤーの精神性によっては戦闘中でも平然と他プレイヤーのリラックス状態並に回復する可能性もあると思うが……よほどの格下か慣れた相手でなければ私には無理だと思う。


「ん?」

 私は小部屋の一つに積み重なっている瓦礫に違和感を覚えた。

 その瓦礫はまるで坂道のようになっていて、しかも天井が抜けて上の階に行けるようになっている。

 これは……『ネズミの塔』の入口と同じパターンのようだ。


「第二階層と言うところね」

 私は突然呪詛濃度が下がってもいいように、出来るだけ姿勢を低くし、体調が悪くなれば自然と坂の下に向かって転がり落ちるようにしつつ、坂道を登っていく。


「ふむ……」

 そして第二階層の床が見えたところで左手を頭上に向かって伸ばし、左手の甲に付いている目で第二階層を探り始める。


「壁が殆どないのね」

 『ネズミの塔』第二階層は鉄筋とコンクリートがむき出しでボロボロの柱、凸凹した床、穴が開いた天井、大穴の開いた外壁ばかりで、第一階層で見られた小部屋やオフィスの備品と言ったものや部屋を仕切る壁のようなものは残骸含めて殆ど見られない。

 どうやら、ネズミによる食害がだいぶ進んでいるようだ。


「毒噛みネズミは10匹以上」

 そんな第二階層をうろついているのは10匹以上の毒噛みネズミ。

 単体なら問題は無いが、同時に2匹以上相手をするのは避けたいところ。

 まあ、第一階層の毒噛みネズミに協力して事に当たるという考えは見られなかったし、それぞれの警戒範囲が重なっているところに立ち入らなければ大丈夫か。


「階段は二か所」

 次の階層に繋がっていそうな登り階段は第二階層の両端に一本ずつ存在している。

 私が今居る階段と違って、しっかりとした階段だ。


「一匹ずつ始末していって、最後の一匹は毒だけで倒す。そんな感じでいいかしらね」

 私は第二階層を攻略する算段を付けると、一番近くに居る毒噛みネズミの位置を探る。

 そして、狙う相手を定めたら、相手がこちらに背中を向けたタイミングで階段から飛び出した。


「まずは……」

 空中浮遊と虫の翅によって地を蹴るのは最低限である私の移動に音は殆ど生じない。

 背中を向けている毒噛みネズミが私に気付いた様子は見られない。

 そうして私の手が毒噛みネズミの背中に触れようとした時だった。

 翅に付いている目が、私の背後に居る毒噛みネズミが私に向けて大きく口を開いている姿を捉えていた。


「ヂュアッ!」

「!?」

 背後の毒噛みネズミの口から深緑色の液体が放たれた。

 完全に攻撃の態勢に移っていた私にその液体を避ける余裕はなく、背中に直撃。

 ダメージは私のHPバーを2割削るほど。

 加えて毒(10)と言う表示も現れる。

 そして、それ以上の問題として……


「あぐっ!?」

「ヂュ!?」

 液体によって吹き飛ばされた私は、攻撃しようとしていた毒噛みネズミの眼前に落ちて転がってしまった。

 想定外の攻撃を受けた痛みと混乱によって、次の挙動が遅れた。

 敵地でそんな状態になった者の末路など決まり切っている。


「ヂュアッ!」

「しまっ……」

 攻撃しようとしていた毒噛みネズミの両手が私の頭を掴む。

 口が大きく開かれ、喉の奥が近づいてくる。

 毒噛みネズミの前歯は私の頭を粉砕し、私は死んだ。


「はい、と言う訳で死に戻り四回目ね……」

 で、気が付けばセーフティーエリアで天井を見上げていた。


「はぁ……ああうん、これは完全に油断だわ。と言うか、次の階層に移動するなんて、分かり易い切り替えポイントなんだから、もう少し警戒するべきだったわね……」

 既に背中を撃たれた衝撃も、人外の握力で頭を掴まれた感覚も、頭を噛み砕かれた感覚だって当然ない。

 なので、私は直ぐに反省会をする事にした。

 まあ、反省会と言っても、反省するべき点は分かり切っている。

 次の階層と言う、ゲームの常識的に敵が強くなるポイントにおいて、敵の情報を大して探ることなく突っ込んだことだ。


「毒を吐き出せるようになったネズミか……さて、どうしたものかしらね」

 見た目は毒噛みネズミとほぼ同一。

 だが毒噛みネズミよりも広い範囲を警戒していて、攻撃の範囲もスピードも速い難敵の出現に私は考え込むほかなかった。

03/01誤字訂正

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