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159:アフターカロエ-3

『目でチュか』

「目よ」

 『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムンの目は若干水分は抜けたが、ほぼそのままである。

 で、この目だが……人の頭並のサイズはあるが、人の目によく似ている。

 となればだ。


「せいっ!」

 私はナイフをカロエ・シマイルナムンの目に突き立てて、解体。

 水晶体を取り出す。


『レンズでチュね』

「ええそうよ。ネット情報曰くタンパク質と水分で出来ているらしいわ。とは言え、『カース』の目だから、見た目は同じでも中身は全くの別物である可能性が高いけど」

 形は一般的なレンズに近い。

 手触りは……なんだろう、硬めのゼラチンのようなもの? よく分からない。

 とりあえず使い物にはなりそうだ。


「『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

『あ、焼いておくんでチュね』

「念のためにね」

 水晶体以外は使い道があるか怪しいので、焼いて灰にしておく。

 心臓の灰の残りと混ぜるのは……止めておいた方がいいか。

 まだ量は十分に残っているし、心臓の灰は質が良い物らしいから、混ぜない方がいいだろう。


「じゃ、本日二度目のぬりぬりタイムね」

『また塗るんでチュか』

「今度は薄く薄く、向こうが透けるぐらいの気持ちでね」

 私は心臓の灰に混ぜている毒液の量を少しだけ増やして、気持ち塗りやすくすると、水晶体へと塗っていく。


「バーナー……よりは『灼熱の邪眼・1』を距離を離して撃ち込む感じかしらね」

『地味に技術力を使っているでチュねぇ』

「そうかしら?」

『そうでチュよ』

 私は水晶体に『灼熱の邪眼・1』を当てるのではなく、少し離れた場所の空気に熱を発生させて、絵具を乾かす。

 これは水晶体がタンパク質と言う基本的に火に弱い物質である可能性が高いからだ。

 勿論そうでない可能性もあるが……カロエ・シマイルナムンは火炎耐性を持っていなかったし、直接の加熱は止めておいた方が無難だろう。


『イベントの時に熊ですの口の中を狙って毒液を生成した事と言い、何もない場所へ狙いをつけるのは技術がいる事だと思うでチュよ』

「うーん、やり方を分かっていれば、そんなに難しい事じゃないんだけどね」

『やり方でチュか』

 今の水晶体の色合いは……予定通り薄く緑色がかかっている感じか。

 うん、まだ重ね塗りしよう。


「折角13個の目があるのよ? おまけに両手両足の甲と言う、本来の場所からだいぶ離れた場所に付いている目もある。だったら、視線同士が交わる場所として、空中を指定するのはそんなに難しい話じゃないわ。『鑑定のルーペ』で空気を鑑定できる以上、空気を対象に取れるのは分かっているわけだし」

『そう言うものでチュかぁ』

「そう言うものよ」

 私は歯の時と同じように慎重に重ね塗りをしていく。

 出来る事ならば、私の邪眼と同じように相手の鑑定耐性とでも言うべきものを抜ける様な代物が出来上がってくれるといいのだが……そもそも鑑定耐性なんてものがあるのかも分からないし、高望みはしないでおこう。

 まあ、鑑定に対するカウンターはあるので、それ対策はあってもいいのかもしれないが。


『しかし、雑談ばかりでチュね』

「目と手は作業に向けるしかないし、退屈を紛らわせる手段が口と耳を使った物になるのは割と自然な事だと思うけど?」

『外のセーフティーエリアで作業をしようと言う気は?』

「ない。馬鹿は何処にでも湧くから、確実に邪魔されるわ。集中もしづらいし、絶対に止めておくべきね」

 そろそろいい感じか。

 向こうの風景はきちんと見えているが、深緑色のフィルターがかかったようなレンズになった。


『で、これをどうやってルーペに組み込むでチュ?』

「そうねぇ……」

 さて、今更な話だが、『鑑定のルーペ』は一切の加工を受け付けない特殊なアイテムである。

 呪怨台で呪う事は勿論のこと、分解したり、傷つけたりは出来ないし、レンズに色を付ける事すらも不可能な厄介なアイテムである。

 となると、現状では強化の方法が無さそうにも思える。

 だがしかしだ。


「さっきの呪怨台からして、たぶん条件さえ満たせば、勝手にやってくれると思うわよ」

 裏を返せば、それだけシステムによって強固に守られていると言う事。

 ならば、勝手な強化をさせないためのシステムが組み込まれている可能性は高い。


『勝手にでチュか』

 と言う訳で、私はマイルームからセーフティーエリアに移動し、呪怨台弐式・呪術の枝の前に立つ。

 そして、水晶体と『鑑定のルーペ』を呪怨台の上で接触させてみた。


「ビンゴ」

『チュアッ!? 目がー! 目がー!』

 接触面から深緑色の閃光が発せられた。

 水晶体が砕け散って宙に幾何学模様を描き、『鑑定のルーペ』から付属の紐が消えて幾何学模様の中心で浮かぶ。

 大量の呪詛を周囲から呼び寄せて吸い込んでいき、水晶体の幾何学模様もそれに引き摺られるようにして『鑑定のルーペ』に呑み込まれていく。


「ふふふっ、面白いわねぇ。本当に面白い」

 やはり呪怨台と同じで、『鑑定のルーペ』も自動アップデートだった。

 それは運営の都合もあるが、呪怨台と同じく、『鑑定のルーペ』の裏にも何かヤバい事柄があるからではないだろうか。

 ああ、正しく未知だ。

 未知が隠れている。

 まだまだ力が及ばないのは確かだが、きっと何時かは手を出せるようになる。

 私は今からそれが楽しみで仕方が無い。


「出来上がりね」

『みたいでチュね……』

 やがて反応は収まり、『鑑定のルーペ』は私の胸元に帰ってくる。

 紐が自動生成され、私の首に再び掛かった。


「ちょっとデザインが変わったわね」

『みたいでチュね』

 これまでの『鑑定のルーペ』はデザインが無いのがデザインと言うと言う感じだった。

 しかし、アップデートされた『鑑定のルーペ』は、縁に私の翅によく似たデザインの小さな翅が三枚付いていて、見方によってはおしゃれなネックレスと思えるようなデザインになっていた。


「効果の方はっと」

 私は『鑑定のルーペ』を自分、ダンジョンの壁、室内の垂れ肉華シダへと順に向けてみる。



△△△△△

『蛮勇の呪い人』・タル レベル14

HP:1,129/1,130

満腹度:78/110

干渉力:113

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・2』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『大飯食らい・1』


呪術・邪眼術:

毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』、『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』、『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』、『出血の邪眼・1(タルウィブリド)


所持アイテム:

毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、真鍮の輪、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.


所有ダンジョン

『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール設置


呪怨台

呪怨台弐式・呪術の枝

▽▽▽▽▽


△△△△△

『ダマーヴァンド』の壁


レベル:1

耐久度:∞/∞

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:9


ダンジョン『ダマーヴァンド』の壁。

▽▽▽▽▽


△△△△△

垂れ肉華シダ レベル1

HP:41/41

有効:灼熱

耐性:気絶、沈黙

▽▽▽▽▽



「生物を鑑定した際に状態異常への耐性が表示されるようになった。と言うところかしら」

 変化は垂れ肉華シダの鑑定結果に出た。

 どうやら、今後は状態異常を使い易くなるようだ。

 ただ、表示される状態異常は恐らくだが、私が習得している邪眼術に関わりがある状態異常だけだろう。

 この世に存在している状態異常の中で、垂れ肉華シダと言う普通の植物に近い植物に有効な状態異常が灼熱しかないと言うのは、ちょっと無理がある。

 後、地味に私のステータスに呪怨台の項目が追加されてる。

 こっちは変化があったからか。


「うん、とりあえず使い勝手はよくなったみたいだし、問題はなさそうね」

『でチュね』

「じゃ、今日はこれまでね」

『分かったでチュ』

 さて、地道に作業を続けていたら、何時の間にやらログアウト予定時刻である。

 と言う訳で、私は私自身と『ダマーヴァンド』に問題がないことを確かめると、ログアウトしたのだった。

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