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154:カロエ・シマイルナムン-5

本日五話目です。


「「「勝ったぞおおおおぉぉぉ!!」」」

「「「いよっしゃあああぁぁぁ!!」」」

「「「終わったあああぁぁぁ!!」」」

「「「ーーーーー!!」」」

『凄い声量でチュね……』

「そうね……」

 プレイヤーたちの歓声によって生産区画内の空気が震える。

 ビリビリと皮膚が揺れる感覚は圧倒的と言う他ない。


「ま、とりあえず逃げましょうか」

『でチュねー』

 で、私は歓声が鳴り止むよりも早く生産区画の外に出ると、聖浄区画から脱出するべく移動を始めた。

 理由は……まあ、色々だ。


『あそこに居たらどうなっていたでチュかねぇ』

「碌な事にならなかったのは確かね。ああいう場だと、どうしても活躍したプレイヤーは騒ぎ立てられることになるわ」

 一つは知り合いでもないプレイヤーが大量に寄ってくるのが目に見えていたから。

 贔屓目に見てもカロエ・シマイルナムンとの戦いで私が果たした役割は大きいし、色々と見せもしたから、質問攻めくらいは有り得ただろう。

 私はそう言う面倒くささが勝るような事柄には関わりたくないので、とっとと逃げる。


「まあ、他プレイヤーが居なくても逃げ一択だけど」

『ああ、糞聖女が居るでチュもんね。アレと逃げ場がない場所で相対はしたくないでチュ』

「いや、単純に私の異形度の問題よ」

 もう一つは私の異形度の問題だ。

 例えカロエ・シマイルナムンを討った英雄と言えども、異形度19の存在が街の住民から受け入れられるとは思い難い。

 流石に疲れたし、此処からもう一騒動と言うのは勘弁してもらいたい。


「でもまあ、聖女アムルを警戒するのは正しいでしょうね。アレは利用できるものは何でも利用するし、利用し終わって害しかない状態になったら容赦なく処分するタイプでしょ」

『正解でチュよ、たるうぃ。アレは糞聖女の名に相応しい腐敗した精神性の持ち主でチュからね。ざりちゅたちを殺し、死体に根を張り、大輪の花が咲いたら、『ああなんて美しい花なのかしら』とか、足元の骨を踏み砕き、磨り潰しながら、平然と言うようなタイプの女でチュ。絶対に信頼しては駄目でチュよ』

「いや、私はそこまでは言ってないんだけど……」

 聖女たちは当然ながら警戒対象だ。

 ザリチュが言うほどでなくとも、注意して対処には当たるべきだろう。

 聖女ハルワにはまだ会えていないが……まあ、聖女アムルには会えたし、聖女ハルワについてはまた別の機会を狙うとしよう。


「あ、そう言えばカロエ・シマイルナムンが開けようとしてた呪限無の穴は大丈夫よね」

『大丈夫でチュよ。穴は固定化されていなかったでチュから、放っておけばその内勝手に閉じるでチュ』

「そう、なら安心ね」

『まあ、一万人くらいの人間があの場で集団自殺とかしたら、話は別でチュけどね』

「流石にそれが起きるとは思えないわねぇ」

 私は隔壁が下りなかった通路を駆けていく。

 ただ、プレイヤーだけでなくNPCの姿も見えてきたので、ネズミの毛皮を被って異形度を僅かにだが誤魔化しておく。

 まあ、この場で呪詛の霧を纏っている時点で、私が普通の存在でないことは明らかだが、一瞬とまどってくれれば、その間に声もかけられない距離にまで移動できるので、問題はないだろう。


「む……」

「っつ!?」

『チュアアァァ、ここで会っちゃうでチュかぁ』

 そうして地上に到達。

 神殿の中庭と思しき所まで来た時だった。

 豪勢な衣装を身に纏った、水色の髪に群青色の瞳を持った少女と私は遭遇した。

 そして直感した。


「聖女ハルワね」

 彼女は聖女アムルではなく、聖女ハルワ。


「夢で見た呪限無の化け物……!」

 私とは何処までも反りが合わない相手であると。


「タルよ。覚えておきなさい」

「お断りよ! 誰が呪限無の化け物の名前なんて覚えてやるものですか!」

 まあ、ザリチュと聖女アムルのやり取りと言うか、私だけが聞く羽目になった罵倒の応酬を考えれば、私と聖女ハルワの相性が良いはずが無い。

 後、イベントで会った聖女様は聖女ハルワだったようだ。

 双子と言えども微妙にある差異で、それぐらいは読み取れた。


「聖女様? 大きな声を上げられて……」

「クーン?」

「ハルワ姉さま?」

 と、人がやってくるか。

 聖女様は私の姿を見ても怒るだけだが、耐性のない人間が私を見るのは拙いだろう。


「失礼させてもらうわ。流石に今日はもう疲れたし。休ませて」

「な、待ちなさい!」

 私は地面を蹴ると、空中浮遊と虫の翅の力によって、手近な神殿の屋上にまで移動する。

 で、直ぐにそのまま逃げようと思ったのだが、その前に聖女ハルワが口を開いた。


「れ、礼だけは言ってあげるわ! 『カース』を倒すために協力してくれてありがとう! でもそれだけよ!」

「ツンデレ?」

『ツンデレでチュねぇ』

「ふざけないで! 誰がツンデレよ! この化け物がああぁぁ!!」

 お礼の言葉なのだが……ツンデレとしか思えない感じだった。

 とりあえず、私は誰かに姿を見咎められる前に神殿を脱出。

 そして素早くサクリベスのセーフティーエリアに潜り込むと、そこから『ダマーヴァンド』に転移した。


「ふぅ。大変だったけど、実入りは色々とあったわね」

『でチュねー』

「じゃ、ログアウトで」

『お疲れでチュー』

 そうして、後処理を終えると、私はログアウトした。

カロエ・シマイルナムン戦、一気に更新させていただきました。

明日からは一話更新に戻ります。

予めご了承ください。

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