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149:アンダーサクリベス-5

本日は話の都合で一話のみの更新となります。

また、今回は別キャラ視点となっています。

「それでは只今より儀式を始めたいと思います」

 リアル時間20時。

 ゲーム内正午。

 私はサクリベスの神殿前に友人であるブラクロたちと一緒にやってきていた。


「さて、掲示板じゃ色々と書かれていたが何が起きるんだろうな」

「……」

「まあ、戦闘準備はしっかりと整えてきましたから、何とかはなると思いますよ」

「そうですね。見た感じ私たち以外にも戦うための準備を整えている人は居るようですし、戦闘になっても何とかはなるかと」

「何も起こらないに越したことはねえけどな」

「そうだな。だが、ただ終わっても面白くはないだろう」

「ええそうね。とりあえず、気を付けて臨みましょうか」

 神殿の入り口には二人の少女、聖女様たちが立っている。

 聖女様がハルワとアムルで二人居たと言うのには驚かされた。

 しかし、言われてみると納得のできる点もあり、今は周りのプレイヤーたちも含めてみんなイベントを楽しみにしている。


「ん? あれは……カーキファングだな」

「ああ、駄犬さんですね」

 聖女様たちによる儀式が始まった。

 私たちが集めた素材を用いて、不思議な言語で歌い、結界を生み出すための道具を作り上げていく。

 周囲は暖かい光に満ち溢れ、とても幻想的な光景だった。


「ーーーーー♪」

「アムル!?」

 そして、聖女の片方、アムルが何かをした。

 それが何だったのかは、私には分からなかった。

 だが、ハルワの驚き方からして、想定外の動きだったのは間違いなかった。


「何をする気だ貴様ああぁぁ!」

「「「っ!?」」」

 同時に衛視の一人が聖女様たちに向かって剣を振り上げながら駆け出すのが見えた。

 その姿はサクリベスの住民ではあり得ないような異形の化け物であり、剣には明らかな殺意が籠っていた。

 しかし、密集しすぎていた私たちが動く事は叶わなかった。


「ガウアッ!」

「ぬぐおっ!?」

 けれど、衛視だった男の剣が聖女様たちに達するよりも早く、舞台袖に控えていたカーキ色の犬の姿をしたプレイヤー……カーキファングが暴漢の腕を噛み千切って、戦闘能力を奪う。


「ふんっ!」

「な、何故私しか……」

 続けて群衆から飛び出したスクナが槍を伸ばし、衛視だった男の胸を貫いて、完全に始末した。

 二人ともまるでこうなる事が分かっているかのような動きだった。


「アムル、貴方まさか……」

「ハルワ姉さま。今こそ、その時です。道も確保されているはずです」

 そして、襲撃があった事など気にした様子もなく、アムルが私たちの方を向く。

 それから堂々とした様子で言い放った。


「呪人の皆様! このサクリベスの地下には『カース』と呼ばれる化け物が居ます! 今から私とハルワ姉さまは『カース』を弱らせるための結界を張ります! ですから、どうか貴方たちの手で『カース』を討ち果たしてください!! 入口は神殿の奥です!!」

「本気なのね……アムル」

「「「!?」」」

 『カース』、掲示板で出ていた生ける呪い……そんなものがサクリベスの地下に!?

 衛視たちはどうしたらいいのか分からない様子で戸惑っている。

 住民たちは信じられない物を見る様な目を聖女様たちに向けている。

 プレイヤーたちは……やる気を漲らせている。


「なるほど。こう来たか。こりゃあレイドボスじゃなくてレギオンボスだな」

「腕が鳴るわね」

 私たちは聖女様が示した神殿の奥に向かって駆け出し始める。

 私たち以外のプレイヤーたちも、続々と神殿の奥へと向かい始める。

 先頭を行くのはスクナと見知らぬ男性プレイヤーで、先程の衛視と同じような異形の化け物を的確に打ち倒しながら奥へと進んでいく。

 私たちは集団としては四番目くらいか。


「これは……誰かが先に来ているかもしれませんね」

「どういう事?」

「今通った道に隔壁が見えました。今の状況なら隔壁は降りていて当然のはず。それが降りていないと言う事は……」

「なるほど。聖女様の協力者が内部に居ると言う事ですね」

 カゼノマが言う隔壁があった通路を抜けたところで、道は『CNP』で普段目にするような物ではなく、現実の病院や研究施設にありそうなものに変わり、それに合わせるように道が分岐し始めた。

 なので私たちはスクナと別れて、先程の異形の男によく似た敵を打ち倒しながら奥へと進み始める。

 ただ、出現する敵は、まるで生まれたてのようで、戦い方さえ知っていればレベル一桁台のプレイヤーでも問題なく倒せそうな相手ばかりだ。


「……」

「『カース』を弱らせる結界とやらだな」

「私たちには効果がないようだ」

 そうやって駆けていると、背後から白い光が通路の壁を這うように追いかけて来て、瞬く間に私たちを追い抜いていく。

 私たちに影響はなかったが、恐らくはこれが聖女様による『カース』を弱らせる結界とやらなのだろう。


「この先は……生産区画とやらだな」

「おいおいマジか」

「覚悟を決めろと言う事でしょうね」

 私たちの前に生産区画と言う場所に繋がる扉が現れ、ブラクロが手をかざす。

 すると私たちの前に半透明の画面が現れた。


≪警告:この先では状況によって、現在のアバターでのプレイが続行不可能になる可能性があります。それでも構わないと言うのであれば、同意書へのサインをお願いします≫


「キャラロストも有り得ると言う事か」

「『カース』と言う存在がどれだけ危険なのかがよく分かるな」

「でもここで退くなんて選択肢は無いわ」

 私たちは次々に同意書へのサインをしていく。

 そして全員がサインをしたところで一度頷き合い、扉をくぐる。


≪超大型ボス『加工の海月呪』カロエ・シマイルナムンとの共同戦闘を開始します。現在の参加人数は112人です≫


「これは……」

「ヒュウ……」

「……」

「慎重に戦いましょう」

「いや、それ以前に突っ込みたいところがあるんだが……」

「なるほど。彼女が協力者か」

 扉をくぐった先は祭壇のような場所だった。

 そしてまず見えたのは、イベントで見た巨大海月そっくりのモンスター。

 人の腕が連なって出来た触手に、さまざまな色合いの人の目が輝く傘、傘の内側に垣間見える無数の人の歯、これほどまでに近いのに碌に姿が見えない程に濃い呪詛の霧。

 私が姿を見るのは初めてだが、確かにこれは『カース』だ。

 呪いそのものだ。


「な……」

 ただ、海月が居るのは、正面のガラスのような透明な壁の向こう側で、こちら側には透明な壁に開いた穴から一本の触手が出ているだけだった。

 どうやらまずはこの触手を倒さなければいけないらしい。

 で、それはいいのだけど……


「何やってんのよ!? タル!?」

 何故か透明な壁の向こう側では、虹色の邪眼を全身に持った妖精のような姿のプレイヤー、私のリアルの知人でもあるタルが、縦横無尽に飛び回って攻撃を避けながら、大量の豆を貪り食っていた。

 訳が分からないとは、正にこの事である。

06/17 誤字訂正

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