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148:アンダーサクリベス-4

本日二話目です

「……。聖女アムルが思っている以上にあの海月、頭が良さそうね」

 聖女アムルの依頼を受けた私は、聖浄区画の第一層に向かいつつ、掲示板に書き込みをした。

 と言っても、これから戦いが起きる事を臭わせる程度のものだが。

 だがそれでも、複数回の書き込みによって、ある程度掲示板は賑わったようだし、布石としては十分だろう。

 それと、一部にはメッセージも送っておいた。

 こちらは確かな効果を上げてくれるだろう。


『所詮は糞聖女の濁り切った目で調べて判断した情報でチュからね。間違っているのは当然でチュよ』

「まあ、私も素直に信じる気は最初からなかったけどね」

 で、第一層で安全そうな場所を見つけた私は、そこから始末するべき相手の観察をしていたのだが……うん、想像以上に厄介そうだ。


「だいたい10人に1人と言うところかしら」

『絶対に始末しないと駄目なのはそうでチュね』

 身を潜めて観察している私の視界には、三人の男が映っている。

 一人目は普通の男で、金属が部分的に使われた鎧を身に着け、剣を腰に提げ、周囲の警戒をしつつ、頭を時折下げながら話をしている

 二人目は額に入れ墨がある男で、聖女アムルが言うところの『カース』に与する者であり、装備からして階級的に差はなさそうだが、一人だけ偉そうな態度をしている。

 そして三人目だが……こいつが問題だ。


「上手い手よね。虐げられる側に紛れ込む事で、全体を負の方へと傾けているんだから」

『でチュねぇ』

 三人目は青白い肌をしている上に、顔が酸でも浴びせられたかのように崩れかかっていて、目の数も2つではなく4つ。

 おまけに両手の薬指と小指は人のそれではなく海月の触手のようになっていて、完全な異形だ。

 だが、他の二人は三人目が異形の化け物であると気づいた様子もなく、普通に会話をしている。


「うーん、3つくらいの目で見ると、普通の人間に見えるから、相手の異形度依存かしら」

 まず間違いなく、他の二人には三人目が化け物であると分からないのだろう。

 でなければ、即座に始末されるはずだ。

 そして、入れ墨の男と違って、恐らく異形の男は海月の『カース』と直接関わりがあって、絶対に放置できない相手でもあると思う。


「さて、どう始末しましょうか」

『たるうぃの遠距離攻撃は呪詛濃度依存ばかりでチュからねぇ』

「ええ、それが問題なのよね……」

 さて、第一層を一通り見て回った結果、入れ墨が5人、異形が3人ほど確認できた。

 これらは絶対に始末するべき相手だ。

 対して普通の人間も20人程度確認した。

 こちらは始末しなくてもよい相手だが、聖女様が説得しなければ職務を忠実にこなそうとするだろうし、隔壁とやらを操作する部屋に居る人間については、最低限でも無力化をする必要はあるか。


「とりあえず沈黙は入れるとして……」

 対するこちらの攻撃手段は……聖浄区画の呪詛濃度が0なせいで貧弱極まりない。

 『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』に至っては使わない方がマシのレベルだろう。

 まあ、ゼロ距離戦闘になれば、普段通りに戦うことも出来るし、そういう方向で行くしかないか。


「ま、やりましょうか」

 幸いにして、私が始末する対象は聖浄区画と言う安全が保障されているように思える場所に居るためか、油断しきっている。

 なので私は三人がこちらに対して背を向けたところで身を潜めていた場所から飛び出す。


「まったく、今日は我らがか……っ!?」

「ど……っ!?」

「なにっ……っ!?」

 動作キーで『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』を発動。

 三人それぞれに沈黙(4)を与える。

 これで40秒間、三人は助けを呼ぶ事は出来ないし、断末魔の声を上げられる事もない。


「!?」

「一人」

「「……!?」」

 その状態でまずは異形の男の首をフレイルで粉砕して殺す。


「!?」

「二人」

「ーーー……」

 続けて額に入れ墨のある男に組み付き、ナイフで首を素早く掻っ切って、始末する。


「喋らないように。喋れば殺すわ」

 そして瞳の焦点がブレ始めた三人目を組み伏せ、うつ伏せにして、私の姿が見えないようにした上で、耳元で囁く。


「そしてよく見なさい。アレは人間?」

「ーーー!?」

 組み伏せた相手がある程度落ち着いたところで私は異形の男の死体を見せる。

 死んだことで偽装が剥がれたのか、私の目で見えるのと同じ姿が彼の目でも見えるようになっている。

 で、普通の人間だと思っていた相手が異形の化け物だったのだから、激しく動揺する。

 だから私は軽く『沈黙の邪眼・1』を撃って、沈黙を延長させておく。

 さて、呪詛濃度過多によるダメージもこのままだと発生してしまうし、抑えるのはこれぐらいにしておこう。


「貴方はただ黙って、全てを見逃せばいい。私はサクリベスの害になるものを排除しに来ただけ。害にならないものには関与しないわ」

 私は少し離れると、毛皮袋から毒ネズミの毛皮を取り出して、私の体を覆い隠す。

 そして、二人の死体を回収。

 飛び散った血も、私の体が纏っている呪詛の霧に含まれる風化の呪いによって分解、痕跡を消す。


「では、ご機嫌よう」

 私はいつの間にか失禁していた男性の前から姿を消すと、次の相手を狩りに行く。

 そうして、聖女様の儀式が始まる前に、第一層から海月の『カース』の手の者を排除する事に成功した。

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