140:レッドハーブパーク-5
「結局のところ、第二階層で一番怖いのは出血の状態異常がいつの間にか溜まっている、という点なんだよな」
「そうね。だから定期的に出血の状態異常を回復するアイテムで解消しておく必要があるわ」
私たちは縦一列になって、『赤い葉の薬草園』第二階層を進んでいく。
並びとしては前から順に盾役であるロックオ、指揮官であるザリア、回復役であるシロホワ、遠距離攻撃持ちのカゼノマ、同じく遠距離攻撃持ちである私、その気になればどこへでも駆けて行けるブラクロとなる。
私とブラクロが後方警戒の役目も負っていて、バランスが取れたいいPTであるとは言えるだろう。
「HPを消費する呪術やアイテムの使用でも出血は発動する。これも厄介な点だと思います」
「そうですね。沈黙や気絶と言った状態異常でも呪術の発動は妨げる事が出来ますが、出血の阻害能力はそれに匹敵すると思います。場合によっては呪術発動と同時に出血発動で即死なんて事もあるかも」
「……厄介な話だ」
実際の進み方としては、ロックオが進路上にある赤い葉の植物を排除。
一定間隔でザリアがロックオを鑑定して状態を確認し、必要ならシロホワの呪術かアイテムで回復しつつ先に進むと言う感じである。
なお、ザリア曰く、ロックオが適切に処理してくれているおかげで、私たちには出血の状態異常は一切溜まっていないとの事だった。
おかげで私は対策アイテムを作り忘れたが、何とかなっている。
「出血対策。今後は必須かもしれないわね。自分にかかっているのをダメージを負わずに確認する方法も含めて」
「そうね。必要かもしれないわ」
それにしても今更な話だが、この『赤い葉の薬草園』の構成は中々に嫌らしいことになっている。
なにせ第一階層では影も形もなかった出血と言う状態異常が、第一階層と見た目がまるで変らない植物によって引き起こされるのだから。
場合によっては、何が起きたのかも分からないままに死に戻りを食らいかねないぐらいである。
だが、所詮は最初のエリアにあるダンジョンと言うべきか、他に嫌らしい点は見られない。
「バウバウッ!」
「またただの犬か」
「はいはい、『
私たちに向かってきた犬が火に包まれ、直後に全身から夥しい量の血を吹き出して弾け飛ぶ。
とまあ、こんな感じで、第二階層に現れるモンスターの内、犬の方はこの環境に適応していないのか、出血の状態異常を貯め込んでいて、軽く一当てすれば大抵は死ぬ。
第二階層で最初に遭遇した奴はむしろ珍しい個体だったらしい。
異形っぽい要素も見た目には無いし、もしかしたら戦闘用ではなく、生み出して適当に移動させた後に死ぬ事でダンジョンにとっては働いたことになる程度のモンスターなのかもしれない。
「ーーーーー!」
「む、植物の方か」
「我が敵を貫け。ピアッシング!」
もう片方の第一階層にも居た植物のモンスターについても、戦闘能力は大したことが無いので、ロックオが攻撃を防ぎ、ザリアが反撃で一刺しすれば終わってしまう。
こちらは単純に弱い。
今となっては驚きすらない。
「もぐもぐ。うーん、退屈ねぇ……」
「タル視点だとそうかもしれないけど、私たち視点だと、霧の中から何時敵が襲い掛かってくるか分からなくて、結構気を使うわよ?」
私は消費した満腹度を回復するために、『ダマーヴァンド』産の豆を頬張って齧る。
「方向は間違っていないんですよね?」
「ええ、確実に呪詛濃度が高い方に向かっているわ。もう少しで目印になりそうな岩も見えてくるはず」
なお、この豆をザリアに勧めてみたところ、何か嫌な予感がするからと拒否された。
その後ブラクロが求めてきたので、赤豆だけを渡して、ちょっとからかったのは此処だけの話である。
「霧が濃くて分からんな……」
「濃いと言っても、第三階層に入って、ようやく呪詛濃度11ってところだと思うわよ?」
「あ、ちょっと近いです。また呪詛濃度過多が……」
「おっと失礼、もう少し離れるわね」
呪詛濃度過多とは、自分の異形度より呪詛濃度が11以上高い場所に入ると起きる状態異常であるらしい。
効果としては呪詛濃度と異形度の差に応じる形で、軽い不快感、酩酊感が発生。
それに加えて、一分ごとに最大HPに依存した量のダメージを受けるらしい。
私の周囲の呪詛濃度は装備品によって15以上に高まっているので、異形度2しかないカゼノマだとダメージを受けてしまうようだった。
「うーん、こうなってくると、今後の活動の為に自分の周囲の呪詛濃度を調整する装備品と、高濃度の呪詛の霧の中でも視界を確保できるような装備品の入手は急務かもしれないわね」
「必要だと思うわ。場合によっては呪詛濃度15以上ある場所だって今後立ち入る可能性はあるでしょうし」
ザリアの言うような装備の確保は、普通のプレイヤーならいずれは必須だろう。
話には出さないが、いずれ行くであろう呪限無の呪詛濃度が20以上なのが確定しているのだし。
運営としても何処かで手に入れるのは想定の範囲内だろう。
「でもそうなると……」
「ボスかそれに準ずる相手を倒す事は必要になるだろうな。タルの装備品はそう言うものだし」
「ま、そうなるでしょうね」
そうこうしている内に目標に出来そうな岩が見えてくる。
その岩の周囲はよく見れば広場のようになっていて、おまけにセーフティーエリアの入り口である結界扉も付いていた。
「噂をすれば影かしらね」
「かもしれないわね」
「明らかにヤバいですね」
「ま、このメンバーなら何とかなるなる」
「兄ぇ……そうやっていつも調子に乗るんだから……」
「はぁ……」
で、おまけにその岩の横には金属製のアーチがあって、アーチの向こう側は遠くから見ても血だらけな夜の薬草園と巨大な何かが蠢く様子が見えた。
どうやら『赤い葉の薬草園』の第三階層は、突入と同時にボス戦になるようだ。
私たちはセーフティーエリアでしっかりと休んだ上に、作戦を立ててから挑むことにした。