14:メイクケトル-2
「もぐもぐ……」
≪称号『暴飲暴食・1』を獲得しました≫
セーフティーエリアに戻った私は、まず毒噛みネズミの死体の解体を行った。
ほぼ全てのHPを毒の効果によって削ったおかげか、風化現象の発生は皆無。
毛皮、骨、内臓等々が丸ごと取れた。
で、肉を満腹度が一杯になっても食い続けていた結果、称号を得た。
△△△△△
『暴飲暴食・1』
効果:満腹度を直接低下させる攻撃に耐性を得る(微小)
条件:満腹度がMAXの状態で一定量以上食べる
プニプニ? プニプニ?
▽▽▽▽▽
「フレーバーテキストは気にしない事にしましょう」
私はわき腹を軽く摘まむ。
うん、大丈夫だ。
アバターらしいプニプニはあるが、あってはいけないプニプニはない。
そして効果も悪くない。
今までに得た称号同様、他のプレイヤーに見えるようにしたりはしないが。
「さて、加工開始ね」
最初に毒噛みネズミの前歯を錐状に削って、今後の為の工具を作り出す。
そして、毒噛みネズミの骨から、丁度いい大きさのものを選ぶと、骨を削ってサイズや大きさを目的の形に整え、一つは今作った工具で穴を開け、ケーブルを通す。
「これでヤカンの穴を塞いでっと」
私が回収した金属製のヤカンには二つの穴が開いている。
一つは注ぎ口と言うの名の穴。
もう一つはヤカンの中身がスムーズに出るように、蓋に付けられた小さな穴だ。
この内、小さな穴はぴったり合うように削った骨で完全に塞いでしまう。
これで呪いによって蓋が動かない事もあり、上の口から中身が出ることは無い。
「うん、いい感じ」
注ぎ口の方にも骨の栓を嵌める。
ただし、こちらは取り外し可能にしておき、予め通しておいたケーブルでヤカンの持ち手とも繋いでおく。
「では、回復の水に漬けましてっと」
私はセーフティーエリアの隅に置かれている回復の水が湧き出る器の前に移動する。
器をこの場から移動する事は出来ないし、持つことも出来ない。
しかし、器の深さは十分にあり、広さも十分にある。
なので私は注ぎ口を上にした状態で、加工したヤカンを回復の水に漬ける。
ボコボコと何度か空気の塊を吐き出しつつヤカンは回復の水を飲み込み続け、中身が緑色の液体で満たされたところで取り出す。
「じゃあ、後はこれを呪うだけね」
呪怨台にヤカンを乗せる。
するとこれまでと同じように周囲の呪詛……赤と黒と紫が入り混じった霧がヤカンへと集まっていく。
「使いまわせる回復アイテム、使いまわせる回復アイテム、使いまわせる回復アイテム、使いまわせる回復アイテム、使いまわせる回復アイテム……」
私は霧に包まれたヤカンに向けて祈り、呟き、呪う。
毛皮袋の時と同じように13の目で睨み続け、私の望む方向に変化するように呪う。
「よし、出来た」
やがて一度光が発せられ、霧がなくなる。
「さて、どうなったかしらね」
私はヤカンを手に取ると、『鑑定のルーペ』を手に取る。
△△△△△
ポーションケトル
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
回復の水が入った金属製のヤカン。
中身を注ぐか飲むかして使用する。
容量はHPにして2500ポイント分あり、回復の水が湧き出している場所に近づくと自動補給される。
毒噛みネズミの骨を基にした栓を外さない限り、中身が出てくることは無い。
注意:10分以内に同一対象のHPを501以上回復させると、回復したHP量に応じた毒を付与する。
▽▽▽▽▽
「よし、大成功。これでHPの回復については、今後は大丈夫ね」
素晴らしい出来である。
説明通りに中身は自動で補給されているようだし、上下左右に振っても中身が漏れることは無い。
デメリットは……私なら『毒を食らわば皿まで・1』があるし、経口摂取でなら大丈夫か。
それにしても、この便利さと作り易さを考えると……袋のインベントリ化と同じで、難易度が調整されているアイテムなのかもしれない。
「じゃあ次ね」
私は毒噛みネズミの毛皮を広げる。
首元の傷と解体時に切り広げた部分を除けば、一切の傷も風化もない綺麗な毛皮だ。
ちなみに毒噛みネズミの毛皮の色は、コケやカビのように見える深緑色が斑に混ざった灰色で、色についてはあまり綺麗な物とは言えない。
「まずは胸元で……」
毒噛みネズミの毛皮を羽織った私は、背中の翅や鎖骨の間の目の働きを邪魔しないように毛皮の位置を調整していく。
そして、胸元やわき腹の部分で毛皮同士を重ね合わせ、錐で穴を開けると共にケーブルで結んでいく。
位置調整は……正直に言って大変だった。
鎖骨の間にある目が厄介だった。
何とかはしたが。
で、最後に腰部分で多少きつめにケーブルを巻き付けて、簡単には動かないようにした。
なお、このケーブルは毒噛みネズミの毛皮袋とポーションケトルを提げるための物でもある。
「まだ呪っていないから、ボロ布は消えないみたいね」
見た目としては……背中が大きく開かれたワンピース?
うん、毛皮そのままである事とは関係なしに、現実の私ではとても着る気になれないデザインである。
こちらでは虫の翅の都合上、こういうデザインにせざるを得ないが。
「じゃ、とっとと呪いましょうか」
私は一度毛皮を脱ぐと、呪怨台の上に乗せる。
するといつも通りに霧が集まり始める。
「丈夫な防具になるように、丈夫な防具になるように……」
防具に求める念は分かり易い物だ。
鉄の剣で切り裂かれるのは仕方が無いが、石の刃程度で簡単に裂かれるのは勘弁してほしい。
巨大な岩に押しつぶされるのは仕方が無いが、小石程度がぶつかったぐらいの衝撃は防いでほしい。
勢いを付けて噛みつかれたなら突き破られても仕方が無いが、ゆっくりと甘噛みされたぐらいなら穴も開かずに元に戻ってほしい。
そう言う普通の防具に求める物が少しだけよくなるように願う。
「よし、出来上がった」
私は無事に出来上がったそれを鑑定する。
△△△△△
毒噛みネズミの毛皮服
レベル:3
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:3
毒噛みネズミの毛皮をそのまま利用して作成されたワンピース。
微弱ながら物理耐性、電撃耐性、毒耐性を有しており、外部からのこれらの力に強くなる。
注意:着用中火炎耐性が低下する(小)
▽▽▽▽▽
「あ、優秀」
普通に優秀だったので、私はそれを直ぐに身に着ける。
火炎耐性が低下するとか言っているが、そんなのを気にするのは火炎攻撃を使う敵が現れてからで十分である。
「消えたわね」
そして、毒噛みネズミの毛皮服を着用すると同時に、それまで私の恥部を隠し続けてきた壊れないボロ布装備が何処かへ消滅。
ステータス欄からも消え去る。
きっと、この服を脱ぐと、また何処からともなく現れるのだろうけど。
「時間は……そろそろいい頃かしらね」
これでキリもいい所だろう。
私はそう判断すると、ログアウトした。
さて、明日からは『ネズミの塔』の本格探査と行こうか。