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139:レッドハーブパーク-4

「そう言えばザリア」

「何かしらタル」

 予定通りにログインした私は『赤い葉の薬草園』の入り口でザリアたちと合流。

 第二階層に向かって移動を始めた。

 で、その道中でちょっと気になった事があったので、私はザリアに問いかける事にした。


「ザリアの呪術。アレはピアッシングと言う名称でいいの?」

「ええそうだけど。それがどうしたの?」

「いや、カゼノマとシロホワの二人もだったけど、なんで呪術の名称の前に『我が敵を貫け』と言っていたのかなと。後、ポーズを取っている理由も察しはつくけど、謎だし」

「ああ、その事ね……」

 私の言葉にザリアは少し悩ましそうな顔をする。

 うん、なんでこんな事を聞いたかと言えば、私以外の呪術を使っているプレイヤーの情報が欲しいからだ。

 『邪眼術士』の称号取得に伴って、私は他のプレイヤーなどに邪眼術を教える事が楽になった。

 だが、私は他のプレイヤーの呪術の詳細を知らない。

 現状では邪眼術を広める気はないが、これを知らないままだと、いざ邪眼術を広めたいと思った時に困ると思ったのだ。

 と言う訳で、情報収集である。


「理由はよく分からないけど、習得の時に気が付いたら発動キーの一部として設定されていたのよ。『我が敵を貫け』の部分も、構えについてもね。だから、あのポーズも前口上もせざるを得ないのよね」

「自分もそうですね。エアシュートの習得方法が習得方法なので、勝手に付いてきたんだと思っていますが」

「私もです。色々と試行錯誤をしている間に付いて来てました」

「ふうん? 妙な話ね」

 まあ、情報収集と言っても、リアルの知り合いであるザリアたちから一方的に利益を得る気はないので、こちらからも相応に情報は出すが。


「私の呪術については最初から詠唱キー、動作キーは別々に設定できたし、自由に再設定可能になっているわよ?」

「「「!?」」」

 私の言葉にザリアたちが一斉にこちらを向く。

 うん、反応からしてやはり私の方が異常な事のようだ。


「異形度の差かしらね」

「うーん、効果の高さや習得難易度の影響もあるんじゃないかしら」

「うっ、あの汚物ですか……」

「シロホワ? 当人を前に汚物呼ばわりはどうかと……」

「飲んだだけで吐き気を催すんだから、汚物扱いは妥当だと思うわよ?」

「タルさんが認めるんですか……」

 さて原因は何だろうか?

 正直に言って、私とザリアたちとではあまりにも違う部分が多すぎる。

 それら全てが関わっている可能性もあるし、一部しか関わっていない可能性もある。

 見極めるのは……検証班に放り投げる方が妥当か。


「単純にオリジナリティとかの問題じゃねえの? カゼノマのエアシュートみたいな呪術を使っている敵の報告はあるけど、タルの邪眼みたいな呪術を使っている敵の報告はまだないみたいだし」

「……」

「ああ、熟練度が一定値以上になると、色々と制限が外れるとかそういう奴の類型ね。確かにありそうだわ」

 オリジナリティについては当然必要だろう。

 以前掲示板を覗いた時に、師匠から教わった呪術では動作キーや詠唱キーを弄る事が出来ないと言う感じの話を聞いた覚えがある。

 熟練度については……表示されていないし、気にしない方がいいだろう。


「そう言えば私は最初から自分の呪術を邪眼術と命名して絞っていたわね。なら、その影響はあるのかも。あ、ザリアたちの呪術は……」

「邪眼術? どういう事?」

「え? 初習得と一緒にあったでしょ? 自分の使う呪術の総称をどうするかって話。あれで私は邪眼術と命名したんだけど」

 で、私が自分の呪術を邪眼術と命名している事を話した時だった。


「ん?」

「「「……」」」

 ザリアたちが先程以上に止まっていた。

 と言うか、完全に歩みを止めている。

 どういうことだろうか?


「ザリア。私の呪術は全体の名称として邪眼術と言う。オーケイ?」

「オーケイよ、タル。私の呪術はただの呪術。そんな総称をどうするかなんて話はなかったわ。オーバー」

「私、邪眼術と名称したことによって、名称に相応しい呪術なら簡単に覚えられるようになっているみたいだし、他にもメリットがあるっぽいのよね。オーバー」

「今、自分のステータス画面を確認したけど、やっぱり私の呪術はただの呪術になっているわね。オーバー……あ、スクショを一部切り取って渡すわ」

「ああ、確かに呪術としか表示されていないわね。えーと、私も同じ感じに送るわね」

「確かに呪術・邪眼術になっているわね」

 あ、うん、なんか本格的にヤバくなってきた。

 もうこれ『赤い葉の薬草園』第二階層を攻略するどころじゃないかもしれない。

 明らかに、早急に検証して確かめておかないといけない案件が生じ始めてる。


「「「……」」」

 どうやら、誰も気が付いていない、未知としか言いようのないシステムが呪術には潜んでいたようだ。

 思わずザリアたちは一斉に黙り、私は首を傾けた勢いで縦回転をして天地が逆さまの状態になる。


「タル。邪眼術と命名したメリットは?」

「名称に相応しい呪術の習得難易度低下。それとたぶんだけど、効果上昇も含んでいるわ」

「デメリットは?」

「メリットの逆。名称に相応しくない呪術は扱いが難しくなる。ちなみに改名はリアル時間で一ヶ月経つ必要あり」

「……。所謂、二次職とかそんなノリだと思う?」

「……。なんとも言い難いわね。でも専門化と言うか、特化しているのは確かね」

 問題はどうしてこんな差が生じているかだ。

 一番ありそうで、実はないのは異形度の差に起因する形だろう。

 色々と不便な高異形度への優遇措置にしても、ここまでのは何か違う気がする。

 たぶん、現時点のザリアたちでも、自分の呪術の総称を付ける方法はあるはずなのだから。

 とりあえず体の向きは戻しておく。


「掲示板に挙げたら、どう足掻いてもタル経由の情報だってバレるわよねぇ」

「バレますね」

「バレると思います」

「バレるな」

「……」

 掲示板で情報を求めるのは、現状の表に出ているプレイヤーの中で、私が呪術の最先端を行っているのが周知の事実である以上、確実に私に迷惑をかけようとする奴が居る事だろう。

 ザリアたちはそれを嫌がっているようなので、これ以上情報を集められないようだ。


「んー、とりあえず、私の方で掲示板に書き込んでおくわ。どうせ今日の探索が終わったらまた暫く『ダマーヴァンド』に籠る気もするし、この件に関しては私も情報を知りたいから」

「ごめんなさいタル。今度リアルで何か奢るわ」

「じゃあ、月曜日に食堂でアイスクリームの一つでもお願い。一番安いのでいいから。これで貸し借りなしにしておきましょう」

「分かったわ。それならバニラの奴ね」

 なので私の方で書き込んでおくとしよう。

 上手くいけば、呪術の未知なる部分に一気に突っ込めるかもしれないし、楽しみである。


「よしっ、そう言う事なら、俺らは気合いを入れて第二階層を突破してみせようか!」

「だな」

「……」

 さて、男性陣がやる気を出しているのは置いておいて、『赤い葉の薬草園』第二階層である。

 いったい何があるだろうか。

06/10誤字訂正

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