<< 前へ次へ >>  更新
136/728

136:レッドハーブパーク-2

「うわぁ……」

「むせ返るような臭いだな」

「……」

「こういう地獄が仏教にあったような……」

 私とザリアは他のメンバーを連れて、『赤い葉の薬草園』の第二階層に入った。

 第二階層は基本的な植生については第一階層と変わりない。

 だが、空は何処となく曇り空で、植物の一部は葉そのものの色ではなく付着した血によって赤くなっている植物もある。


「そう言えばザリア。『CNP』の天気ってどうなの? 私は晴れしか遭遇してないけど」

「一部のダンジョンや沼や森で局所的に雨が降ったと言う話は聞いたことがあるわね。でも、草原やビル街では聞いたことがないわ。んー、場所ごとに確率は変わるけど、ランダムなんじゃないかしら」

「なるほど」

 つまり、私が雨の類に遭遇していないのは運がいいのもあるが、そもそも雨が降らない場所にばかり行っている可能性もある、と。


「タル。近くにモンスターの姿はあるかしら」

「そうね……居たわ。三時方向に灰色の毛皮の犬っぽいのが居る。距離は30メートルくらいかしら」

「お、本当だ。確かに居るな」

 さて、『赤い葉の薬草園』の攻略を進めて行こう。

 とりあえず私は赤い葉の植物を踏み倒しながら進んでいる犬っぽい生物を見つけた。

 他のモンスターの姿は見えない。


「自分が釣ります」

「あら、カゼノマ。もしかして……」

「ええ、習得出来ました」

 カゼノマが一歩前に出て、杖を構える。

 どうやら呪術を習得したらしい。

 では、他のプレイヤーの呪術がどんな物か、見せてもらうとしよう。


「風よ。礫となって、我が敵を叩け。エアシュート!」

 カゼノマが両手で杖を持ち、垂直に構える。

 そして詠唱キーと思しき言葉を紡いでから杖を振り下ろす。

 すると振り下ろされる杖の先端の動きに合わせるように、大量の呪詛を纏った空気の弾丸が犬の方へとバラけつつ飛んでいき、散弾のような空気の塊が当たった衝撃で犬は大きくたたらを踏む。


「地味ですね」

「地味ね」

「……」

「まあ、なんと言うか、派手さは無いわね」

「言うなよ。本人も分かっているんだからよ」

「うぐっ……」

 犬に与えたダメージは……100から200くらいか?

 攻撃を受けた犬はこちらに向かって真っすぐに突っ込んできている。


「私が対処するわ」

 対してこちらはザリアが前に出て、カゼノマが退く。

 ザリアは腰の剣……いや、レイピアを抜くと、顔の前にまで持ち手を持ってきて、まるで祈りか何かを捧げる様な姿を見せる。


「我が敵を貫け……」

「バウバウッ!」

 犬が赤い葉の植物を押し倒しながら駆け寄り、ザリアに向かって跳びかかる。

 その犬を前にザリアは慌てることなく剣を持った方の手を引き……


「ピアッシング!」

「!?」

 周囲の空気の呪詛を巻き込みつつ繰り出された、目にも止まらぬ速さの突きによって、飛び掛かる犬の頭を正確に刺し貫いて仕留める。

 そして次の瞬間。


「は?」

「ん?」

「ひえっ」

「……」

「おーう」

「ええっ……」

 犬の全身から勢いよく血が噴き出して爆散。

 辺り一帯が血の匂いに包まれた。


「……。ザリア。一応確認。今のピアッシングとやらはザリアの呪術よね」

「ええそうよ。周囲の呪詛を一時的に体や武器に取り込んで、火力を跳ね上げているの」

「爆散は違うのよね」

「違うわね。私のピアッシングは無駄のない攻撃を目指してる。爆散なんて現象は起きない……はずよ。うん、そのはず」

「なるほど。まだ使い慣れてないのね」

「習得してからまだ数日なのよ。そこは勘弁して」

 気が付けば犬は牙を数本残して風化してしまった。

 なので、牙を回収して、適当に分配する。


「となると……」

 その間に私は犬が通ってきた道を確認。

 何か妙な物が無いかと探ってみるが、あるのは赤い葉の植物だけ。

 第一階層にあったものと見比べても、特にこれと言った違和感はない。

 詳しく見ても、花の形、葉の形、模様、香り、とりあえず地上に出ている部分では差は見られない。

 勿論、手で触れて葉の裏や花の中まで見てみたが、これと言った違和感はない。


「鑑定……っつ!?」

「タル!?」

 なので鑑定に頼ろうとしたら……『鑑定のルーペ』のコストを支払った瞬間、右手から大量の血が噴き出し、HPが200近く削られた。


「ああなるほど……こう言う事なのね。実に厄介だわ」

「実に厄介って……」

 私は鑑定結果をザリアたちにも見せる。



△△△△△

出血毒草 レベル1

HP:28/54

▽▽▽▽▽



「出血……」

「出血、出血……掲示板には上がっていない状態異常みたいです」

「まさかと思うが……」

「うわ、第一階層は薬草だらけだったのに、第二階層は毒草だらけって事かよ」

「触れただけで、ダメージを受ける状態異常になるって悪質な草ですね……」

 第一階層に生えている薬草と全く同じ見た目の毒草とは、実に厄介な代物である。

 しかも出血と言う状態異常はシロホワの言うとおりなら、詳細不明の状態異常だ。

 極めて厄介である。


「とりあえず一株回収しておくわ。『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「ブレないわね。タル……」

 まあ、なんにせよ、とりあえず回収である。

 ついでに鑑定もしておこう。



△△△△△

出血毒草

レベル:5

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:4


赤い葉を持った毒草。

触れた者に出血と言う状態異常を与える呪いを帯びているが、見た目では分からない。

全身に呪詛による毒が回っている。

▽▽▽▽▽



「で、ここからどうする?」

「そうね……一度話をしましょうか。この先に進むなら、情報の整理は必須。対策アイテムの作成もしておくべきね。そこまでして進む価値があるかどうかも含めて、話をするべきだと思うわ。緊急事態が発生したと思ったら、直ぐに第一階層に逃げましょう」

「分かったわ」

 私は出血毒草を毛皮袋に収納する。

 上手くいけば、これから出血の邪眼を作れるかもしれない。


「じゃあ、とりあえずは出血の状態異常についてだけど……タル。回復したら、悪いけどもう一度出血毒草に触ってもらっていいかしら。シロホワは回復を」

「分かったわ」

「分かりました」

 さて、退屈だった第一階層と違って、面白くなりそうである。

<< 前へ次へ >>目次  更新