134:メドーズセーフティ-3
≪W1、捨てられた畑のセーフティーエリアを発見。転移可能拠点として登録しました≫
「ようやくね」
『ようやくでチュ』
私は草原のセーフティーエリアの登録を済ませた。
草原のセーフティーエリアは周囲に嫌悪感を感じる白い柱があるのは変わらずだったが、それ以外には特徴らしい特徴が無い、足首の高さぐらいの丈の低い草が生え広がっているだけの草原だった。
遮蔽物の一つもなく、敢えて視線を遮るものと言えば行商人の布ぐらいか。
「災難だったわね。タル」
「あら、ザリア」
と、此処でザリアが近づいてくる。
後ろに居るのはいつものメンバー……ではないか、ブラクロ、シロホワ、ロックオの三人は居るが、オクトヘードさんとオンガさんの二人は居ない。
そして代わりにとんがり帽子にローブ、杖を身に着けた男性が居る。
「まあ、確かに災難だったわね。あまりにも人数が多くて、経験値皆無だと言われているPKでレベルが上がったくらいだし」
「いったい何人倒したのよ……」
「んー……20人くらいかしらね。今もそこに一人転がしてあるし」
私が指差す先には、地面に倒れ悶えているプレイヤーが居る。
受けた状態異常は毒(132)と沈黙(11)。
重症化した毒によって身動きも取れなければ、沈黙によってうめき声を上げる事も出来ない。
まあ、放置すれば勝手に死ぬだろう。
「最初の三人は事情が分かったらあっさり引いてくれた上に、自発的に詫びまで渡してくれたんだけど、その後の連中からは駄目だったわね。会話すら成立しなかったから、始末する他なかったわ」
「具体的な方法としては?」
「孤立した奴に沈黙と毒を食らわせた上で草むらに隠して毒殺。軽い沈黙をかけてからの不意打ちで、フレイルによる頭部粉砕あるいは頸部へのナイフ攻撃。バクチクの実を持っている奴には遠距離から火を点けて派手に爆散してもらったりもしたわね」
「……」
「と言うか、どいつもこいつも同じような戦術ばかりで、未知の欠片もない戦いが続いたから、私の戦い方を変えるぐらいしか楽しむ方法が無かったのよね」
「そ、そう……」
なお、最初の三人が掲示板で私の見解を流してくれたのか、セーフティーエリアに近づくほどに敵の数は少なくなった。
それでも相応の数は居たので、草むらと霧に隠れて迂回するぐらい手は打つ必要があったが。
戦って楽しそうな相手も居なかったし。
「相変わらずエッグいなぁ」
「……」
「流石ですね」
「これがトッププレイヤー……」
ブラクロは感心、ロックオは無表情、シロホワは微妙に遠い目、見知らぬプレイヤーは……何だろう、憧れ? そう言う感じの表情を浮かべている。
「ザリア。そっちの彼は? 私は知らないのだけど」
その表情が少し気になったので、私は彼について聞いてみる。
ほぼ間違いなく、以前ザリアが言っていたイベント後に『CNP』を始めたブラクロのリアルの友人が中身だろうが、『CNP』の彼がどんなプレイヤーなのかは知らないし、知っておいてもよいだろう。
「自己紹介は自分でさせておきましょうか」
「あ、自分の名前はカゼノマと言います。呪術使い志望のプレイヤーです」
「呪術使い志望?」
カゼノマと名乗った彼はそう言うととんがり帽子を脱いで、一礼する。
彼の異形は……よく見れば彼の目は瞳孔が縦に裂けていて、爬虫類のそれになっている。
目の形が変わっているだけの可能性もあるが、きっとそれだけではないのだろう。
「志望と言う事はもしかして……」
「呪術の習得を目指している段階。方法自体は見つけたようだから、後は条件を満たすだけのようよ」
「へぇ、それは楽しみね」
私以外の呪術使い。
どんな呪術を使えるようになるのか、今から楽しみである。
「ちなみにザリアは? リアルで少し教えたのだし、成果が欲しいのですけど……」
「タルのおかげで一応習得したわ。ギャラリーが多いこの場で見せる気はないけど」
「なるほど」
で、ザリアに至っては呪術を習得したらしい。
と、ここで私の耳元にザリアは口を近づけてくる。
「ちなみにシロホワも呪術習得済み。掲示板にも上げているわ」
「へぇ……」
そしてシロホワも習得済みか。
よく見れば、シロホワの持っている剣には明らかに戦いには必要なさそうな鈴が付いているし、確かに何かありそうだ。
「今後は呪術を使えるプレイヤーが少しずつ増えていきそうね。色々と楽しくなりそうだわ」
「タルが楽しそうで何よりだわ」
ザリアは微妙に呆れた顔をしつつ口を開く。
「それでタル。どうする?」
「どうするって……ああ、機会があればと言う奴ね」
さて、私とザリアは以前、リアルで同じエリアに居たら一緒に活動するか考えようと言う話をしている。
その件だろう。
「そうね……ザリアの現在の状況は?」
「例の結界の素材回収と並行して、カゼノマの呪術習得と私たち全体の底上げね」
「オンガさんとオクトヘードさんは?」
「私もだけど、リアル都合で合う時と合わない時があるだけの話」
「現在攻略中のダンジョンの類は?」
「ないけど、これから適当に一つ潜ってみようかと言う話にはなっているわね」
私はザリアの状況を確認する。
うん、これなら大丈夫そうか。
「それじゃあ、同行させてもらってもいいかしら」
「私は問題なし。他の皆は……」
「勿論問題ないぞ。タルなら大歓迎だ」
と言う訳で、私はザリアたちと共にセーフティーエリアの外に出た。
私が毒を与えたPKは……ああ、いつの間にか死んでたか。
まあ、どうでもいい話である。
06/05誤字訂正