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132:メドーズセーフティ-1

「では出発!」

『行くでチュー!』

 土曜日。

 私は午前中から『CNP』にログインすると、必要な物を持った上で『ダマーヴァンド』から飛び出す。

 向かうは北西の方角、サクリベス西のエリアである。


「で、あっさり到着ね」

『まあ、苦戦するような相手も居ないでチュしね』

 で、移動する事2時間ほど。

 周囲の地形はビル街から、私の腰程度の高さの草が生えた草原へと変化していく。

 なお、ここに来るまでの道中で称号を一つ回収している。



△△△△△

『沈黙使い』

効果:沈黙の付与確率上昇(微増)

条件:沈黙(100)以上を与え、沈黙の効果が残っている間に生物を殺害する。


私の沈黙の力を見るがいい。

▽▽▽▽▽



「コピペ称号は出来るだけ集めておきたいわね」

『便利でチュからね』

 回収はとても簡単だった。

 なにせ『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』を連発して、沈黙のスタック値を100以上にすれば、窒息状態に陥る。

 そうなれば沈黙を維持しつつ放置すれば、多少は暴れられるが、直ぐに酸欠状態によって大人しくなるのだから。

 素材の回収効率も毒殺より多少悪い程度で、相手や状況は選ぶが、これはこれで便利そうである。


「と、こっちのエリアの鑑定もしておかないと」

 私は目の前の空気に向かって鑑定を行う。



△△△△△

W1 捨てられた畑


かつての文明を支え続けた無数の田畑。

しかし、今となっては数多の呪いを育み送り出すファームでしかない。


呪詛濃度:5

▽▽▽▽▽


≪W1 捨てられた畑を認識しました≫



「……。名前適当じゃない?」

『ざりちゅに言われても困るでチュ』

 良く周囲を見渡してみれば……いや、見渡しても分からないな。

 時折、目印あるいは境界になりそうな石や木はあるが、基本的には何処までも草原が続いているだけだ。


「ダンジョンは……岩や木の中にあるのでなければ、ミステリーサークルみたいなものに入る感じみたいね」

 私は草を掻き分けつつ、草原のセーフティーエリアを目指して移動する。

 なお、此処のように丈が長めの草が茂っている場所だと、空中浮遊の効果を利用したスケート移動は効率が悪いため、地道に移動するしかない。


『ダンジョンに入って中間地点は確保しておかないでチュ?』

「その辺は大丈夫よ。どうにもお仕置きモンスターの都合でPKは仕掛けづらいみたいだから」

 私が『ダマーヴァンド』に籠ってアイテムの加工をしている間に草原のお仕置きモンスターの出現条件はおおよそ特定されたらしい。

 その内容は、レベル5以上のプレイヤーが、自分よりレベルが低いプレイヤーにPKを仕掛ける事で、他に細かい条件があるかもしれないが、これでほぼ決定のようだ。

 で、これを満たすと何処からともなく道草大怪狼と言う巨大な狼が現れて、道草を食うかのように攻撃を仕掛けたプレイヤーを惨殺して消え去るらしい。

 なお、PKKになるように動いているならセーフである。


『いや、それだとたるうぃが安心していい理由にはならないと思うでチュよ……』

「そう?」

『たるうぃよりレベルが高いプレイヤーがどれだけ居るかは知らないでチュけど、基本的にはみんなたるうぃよりレベルが低いと思うんでチュ。で、たるうぃはよく知られているから、うっかりも有り得ないでチュから』

「だとしても襲う理由が無いと思うし、心配のし過ぎじゃない?」

 草原のお仕置きモンスターがこのような仕様になっているのは、きっと草原が本当に始めたばかりのプレイヤーにとって重要な場所であり、そこで格下狩りをするような輩を見逃す気はないと言う運営からのお達しだろう。

 いずれはお仕置きモンスターを狩るために逆にPKが現れそうな気もするが……そうなったら、そうなったで、別の罠がきっと発動するのだろう。


『だといいんでチュけどねぇ……』

 話を戻して私が襲われる心配だが……まあ、可能性は0ではないか。

 ビル街のセーフティーエリアで会った虫脚の男のような一方的な怨みを抱く者が居る可能性はあるし、ただの戦闘狂に遭遇する場合もある。

 経験値やアイテムはまず手に入らないが、数字以外の経験は手に入る。

 ストレス発散の屑は……草原だとお仕置きモンスターの都合でないか。

 うん、ザリチュの言うとおり、可能性自体はあるか。


「ぬおおおっ!」

「ん?」

 と、これも噂をすれば影の一種になるのだろうか。

 剣を持ち、革鎧を着た獣耳の男が私の方へと雄たけびを上げながら突っ込んで来る。

 まさかのPKである。


『後ろにも居るでチュよ』

「タル……っと」

「っつ!?」

「気付かれていたか!」

 そして一人ではなく二人だった。

 背後の草むらに隠れたまま、髪の毛が草のようになっている男が剣を私に向かって振っていた。

 なので、私は地面を蹴って、草髪の男の頭の上に移動し、そこから頭を蹴って両方から距離を取る。


「クソッ、失敗したか」

「流石は上位プレイヤー、実力が段違いだな」

 二人は直ぐに武器を構える。

 で、私は二人の視線が私の後方に向いたことから、半歩分だけ下がる。


「っつ!?」

「三人目も居たのね」

「なっ!?」

「マジか!?」

 すると直後に私の左腕を浅く切る軌道で矢が飛んでいき、緑透輝石の足輪の効果によって射手に毒が入る。

 これで毒のエフェクトのおかげで位置が把握できた。


「さて、少し質問なのだけど、一体どういう理由でPKを仕掛けてきたのかしら。教えてくれると嬉しいわ」

『チューッチュッチュッチュウ、お話しタイムって奴でチュね』

「「「……っつ!?」」」

 では、話をするとしよう。

 PKをするメリットが皆無な『CNP』でPKをするのだから、それなりの未知を提供してもらいたいところである。

 私は満面の笑顔を浮かべた。

06/03誤字訂正

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