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130:アイアンバー-1

「……。失敗したわね」

『トンデモでチュねぇ……』

 水曜日。

 今日も戦利品の加工である。

 と言う訳で呪われた目玉入りのアンバーを加工し、真鍮の輪に付けようと私は考えた。


「まさかの展開ね」

『主の力量差でチュかねぇ』

「否定は出来ないわね。私とあの蜂じゃ実力差があるのは明確だから」

 で、まずは呪われた目玉入りのアンバーを毒液入りの器に投下。

 毒液に馴染ませようとした。

 が、しばらく放置した私の前に現れたのは、灰色の石の塊だった。

 どうやら呪われた……長い、目玉琥珀でいいか、目玉琥珀の効果で毒液が石化してしまったらしい。

 液体が石になるとは、恐ろしい力である。


「よっと。うん、本体は変わらずね」

『毒液を石化させただけって事でチュね』

 石の塊は適当に叩くと、それだけで簡単に割れ、割れた石は風化して消え去った。

 そして後には、回収した時と同じ姿の目玉琥珀だけが残った。


「んー、流水に漬けてみるか」

『石化に気を付けるでチュよ』

「言われなくても」

 私は目玉琥珀を垂れ肉華シダの蔓で縛り上げると、噴水から生じる毒液の流れに支流を設けて、常に新しい毒液が目玉琥珀と接触するようにした。

 なお、目玉琥珀を縛り上げている間に石化の状態異常が時折発生したため、作業にはだいぶ時間がかかった。


「……」

『本当にトンデモでチュねぇ』

 で、結論を言ってしまえば、何とも言い難い感じになった。

 毒液は石化しても、石化しきる前に次が来て、目玉琥珀の周囲が石に覆われることは無かった。

 が、目玉琥珀よりも下流では、流れに礫のような小石が混ざっている。

 毒液の外に出れば直ぐに風化してなくなるのだが……相当厳しい戦いを強いられているような気分だ。


「さて、どうしたものかしらね……」

 上手くいかないのは、目玉琥珀を手に入れた『蜂蜜滴る琥珀の森』の方が『ダマーヴァンド』よりも格上のダンジョンである事、それに琥珀の元になったであろう蜜のレベルが高い事もあるだろう。

 勿論、ザリチュが言っていたように、あの蜂と私とでは実力差が大きいと言うのもあるだろう。


『呪いに手を着けず加工は駄目でチュか?』

「今回に限っては駄目。流石に身に着けているだけで石化はリスクが高すぎるわ」

『まあ、そうでチュよねぇ』

 しかし、腕輪にする前に加工をするのは必須だ。

 流石に石化のリスクは無視するには危険すぎるので、完成品からは外さなければならない。

 だが今のままでは、呪っても上手くいかない可能性が高い。

 ならば……無理やりにでも目玉琥珀の呪いを捻じ伏せて、問題がないように変質させられる下地を先に作り上げる必要があるだろう。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』……っつ!?」

『チュッ!?』

 と言う訳で、とりあえず『毒の邪眼・1』を叩き込んでみた。

 すると反撃だと言わんばかりに、石化(13)と言う表示が現れ、左腕の肘から先が石に変わる。


「ふふっ、ふふふふふ、あははははっ!」

『あー……』

「いい度胸ね。いいわ。全力で屈服させてあげる……」

『スイッチ入ったでチュねぇ……』

 暫く待つ事で石化は治る。

 そして私は再び『毒の邪眼・1』を叩き込む。

 再度、石化の反撃が飛んでくる。

 今度は右腕だ。


「ええそうね。失念していたわ。アイテムの加工とはつまりアイテムとの戦い。ザリチュのように意志あるアイテムがある以上、敵対的なアイテムがある事も当然。いえ、それ以前に呪いのアイテムが所有者や傷つけようとする者に牙を剥くなどと言うのは極々一般的な事と言えるわ。『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』!」

 右足が石になる。

 呪術のクールタイムと、石化が治るのを待って、何度も何度も放っていく。

 不規則に、琥珀の中の目玉を狙うように、呪いをかけていく。


「ならば私はそれに全力で応える! アイテムとの戦いと言う未知なる戦いに興じる! 私の望むものを作り上げる事が出来れば私の勝利! そうでなければ私の敗北! さあ勝負と行きましょう! 『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』!!」

 私の目が橙色に輝き、石化の状態異常が返ってくる。

 だが、その数字は3と一気に少なくなった。


「あら、沈黙はお嫌い? なら次はこうしましょうか……『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』!」

 続けて『毒の邪眼・1』12発と同時に指を鳴らし、『毒の邪眼・1』を発動していない目で『気絶の邪眼・1』を撃ち込む。

 するとこれでも、反撃の石化はかなり抑えられた。


「ふふっ、ふふふふふ、安心しなさい。火は使わないわ。折角の素材を台無しにするわけにはいかないもの」

 私はHPを回復するための回復の水を飲み、満腹度を回復するために『ダマーヴァンド』に生育している豆を適当に食べる。

 だいたい白豆2に赤豆1で食べると、辛味がいい感じに中和されて、食べやすいか。

 今度、豆を入れる袋も含めて作って、マトモな携帯食料として採用しておこう。


「さて、どれだけ持ちこたえるか、楽しみにさせてもらうわ」

『たるうぃがたるうぃなのはいつもの事でチュねぇ……』

 と言う訳で、私は石化が治るまでの待ち時間で『ダマーヴァンド』の植物についてきちんと検分。

 これまでにあった毒草、毒キノコ、白と赤の豆と麦だけでなく、口に含むと痺れるような刺激を受ける花の蜜や、毒ではなく沈黙効果を有する草花とキノコを見つけた。

 後、薬草と普通のキノコはほとんど見かけない。

 明らかに私の習得呪術の影響を受けている。

 そして、それらの加工を行いつつ、目玉琥珀を呪術で呪い続けた。

 で、金曜日になって、ようやく終わる目途が見えてきたのだった。

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