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127:タルウィスタン-1

「さて、今日から暫くは手に入れたアイテムの整理と作成ね」

『色々手に入れたでチュからねぇ』

 月曜日。

 ログインした私は、『ダマーヴァンド』に転移すると、日曜日までに手に入れたアイテムがしっかり一通り揃っている事をまず確かめた。

 続けて、『ダマーヴァンド』の収支を確認したのだが……。


「ん?」

『どうしたでチュ?』

「なんか数字がおかしくなってる」

『チュ?』

 なんか見慣れない数字と言うか、これまでとは違う数字が表示され始めていた。

 具体的には収入と支出が同じくらい増えていた。

 総合的な収支に変わりはないが、気になる。

 と言う訳で、まずは『ダマーヴァンド』の核である毒鼠の杯が安置された噴水にやってきた。


「何これ」

『育ってるでチュねぇ……』

 そして、噴水の周りにイネ科植物とマメ科植物が混在する形で茂っているのを見た。


「……。『藁と豆が燻ぶる穴』にあった藁と豆の元になった植物かしらね」

 さて、何処から種子が来たのか、どうやってコンクリートの床を土に変えて根付いたのか、毒液以外に碌な水源が無いのにどうやって育ったのか、色々とツッコミどころはあるが……。


『赤い豆や実が混じっているでチュけど?』

「みたい……辛っ!? ゲホッ! ゴホッ! ガボッ!!」

 とりあえず手近な場所にあった赤い豆を齧ってみた。

 そして感じたのは、まるで品種改良された唐辛子をそのまま齧ったかのような強烈な辛味、熱さだった。

 私はその刺激に耐え切れず、反射的に吐き出してしまう。


『た、たるうぃが耐え切れないなんて、恐ろしい植物でチュね……』

「ゴホゴホ。あー、ザリチュ、少し勘違いしてるわ……私は未知が好きなのであって、痛いのが好きなわけじゃないの。つまりね。普通の食べ物で、普通に辛いとか、そう言うのが不意に来た上に、食べる益が見当たらなかったりすると、耐えられないのよ」

『たるうぃはやっぱりたるうぃだったでチュね……』

「あー、酷い目に遭ったわね……」

 回復の水で口をすすぎながら、自分のステータスをよく見てみれば、微量のダメージに加えて、灼熱の状態異常も発生していた。

 また、豆の方もよく見てみれば、赤だけでなく黒も混じっていて、まるで私が『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』を習得した時に食べた豆のようだった。


「私が『ダマーヴァンド』の主で、『灼熱の邪眼・1』を習得した影響で生えたのかしら」

『可能性はありそうでチュね』

 もしも私が考えた通りであるならば、今後私が新たな呪術を習得する度に、『ダマーヴァンド』も私の影響を受けて変化していくのかもしれない。

 それは……


「とても愉快な事になりそうね」

『まあ、たるうぃの好きそうな形で変化は起きそうでチュよねぇ』

 思わず笑みを浮かべてしまう程度には面白いことだ。


「とりあえず今はやるべき事をやりましょうか」

 まあ、もしかしたら条件は『灼熱の邪眼・1』ではなく、『藁と豆が燻ぶる穴』の核を『ダマーヴァンド』内で砕いて、呪詛を吸わせた事の方かもしれない。

 そして、植生を増やす方法は他にもあるだろう。

 と言うか、もっと直接的な方法がある。


『何をしたでチュ?』

「この前のイベントで手に入れた薬草やキノコ。それに沼のセーフティーエリアから森のセーフティーエリアまでに手に入れた毒草に毒キノコ。要するに植物や菌類を『ダマーヴァンド』で繁殖させる対象として指定したわ」

『毒液で育つしかないから、無事に育ったら全部毒草と毒キノコになりそうでチュねぇ』

「なったらなったよ。とにかく繁殖させて、この広場の外に出たものについては毒ネズミたちの餌にもするわ」

『食べ物が増えるのは良いことでチュ』

 と言う訳で設定完了。

 沼、森間の毒アイテムは『毒の邪眼・1』の強化に使えると考えて集めたものだったが、その用途に用いるなら、『ダマーヴァンド』の毒液に耐えるだけの代物になってからの方が都合はいいだろう。


「そう言えばモンスターの品種改良とか、新しいモンスターを作るとかってどうすれば出来るのかしら」

『チュ?』

 私はダンジョン管理用のツールを色々と弄って、モンスター周りを見てみる。

 今更な話だが、『ダマーヴァンド』に存在しているモンスターの中でモンスターだと断言できるのは子毒ネズミ、毒噛みネズミ、毒吐きネズミの三種類だけだ。

 彼らは『ダマーヴァンド』の中で繁殖し、数が増えすぎると成長した個体が垂れ肉華シダの蔓や『ダマーヴァンド』下のビルを下るなどして、外のエリアに出て行く。

 外で出している被害は……大したものではない。

 大半は他のモンスターとの小競り合いで命を落とすし、普通のプレイヤーなら襲われても問題なく対処できるからだ。

 NPCにも被害は出たと言う話は聞いていない。


「うーん……」

 だが、それは今の毒ネズミたちだからだ。

 毒ネズミたちを強化して、プレイヤーとNPCに無視できないレベルの被害が出れば、彼らは『ダマーヴァンド』を潰しにかかるだろう。

 それは嫌な流れだ。

 つまり現状では強化の類はするべきでない。

 仮にやるならば、最低限『ダマーヴァンド』の位置を動かす方法ぐらいは見つけておきたいものである。


「ま、後回しでいいわね。まずは自己強化優先よ」

『分かったでチュ』

 しかし、勝手に強化されてしまう事を防ぐために強化方法は知っておきたかった。

 だが、分からない以上は、色々と試すしかなく、試すなら先に色々としておくことがある。

 例えば改良途中の毒鼠が逃げ出しても直ぐに対処できるように、新しい邪眼を手に入れておく、と言った事をだ。


「じゃ、マントデアの方から始めましょうか」

 私は昨日マントデアから受け取った、電撃の石ころを基にした呪術をまず作ることにした。

05/29 誤字訂正

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