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117:ハニーアンバー-4

本日二話目です

「さあ来るぞ……ぬんっ!」

「……」

 マントデアが右腕を振るい、飛来した蜂蜜の砲弾を粉砕する。

 蜂蜜と衝撃が撒き散らされ、私とマントデアが僅かにだがダメージを受けると同時に、蜂蜜の濃い臭いが漂い始める。

 同時に緑透輝石の足環が輝いて効果を発揮。

 蜂蜜の砲弾の出元である大きな岩がある場所に本当に小さくだが、毒の状態異常エフェクトが表示される。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

 琥珀色の蜂蜜ばかりのこのダンジョンにおいて、毒のエフェクトである深緑色はとてもよく目立つ。

 だから私は、そのエフェクトを目印にして『毒の邪眼・1』を発動。

 私の体にある13の目が深緑色の光を発し、狙いを付けた相手に毒を叩き込む。


「どうだ?」

「入った手応えはあるわ」

 命中は間違いなくした。


「だが、飛んでくるのは変わらずか!」

「毒だから、どうしても時間はかか……あー、なるほどね」

 第二射が到達。

 マントデアは正確に拳で打ち抜いて、ダメージを抑える。

 が、それでも余波で私は少しだけダメージを受ける。

 そして、毒のエフェクトの表示数が増えた。


「相手は一体じゃないわね」

「ほう……」

 で、先に発生したであろう毒のエフェクトが、大岩の陰に隠れると言うよりも、かかっている当人が力尽きたかのように消え去った。


「たぶんだけど、ミツバチの針と同じなのね。一匹につき一発が限度。ギリギリまでHPを削ると言う多大なリスクと引き換えに、長距離高威力の砲撃を出来るようにしているんだと思うわ。でも、それだけだと敵対者を撃退しきれないから、何匹もあそこに居るんだと思う」

「なるほどな。つまり、全部の個体を倒さないと、砲撃は止まないわけか」

 次の砲撃が飛んできて、マントデアが対処する。

 同時に私に少しだけ被ダメージが生じて、毒のカウンターが発生、毒のエフェクト数が増える。

 が、直ぐに毒のエフェクト数が一つ減った。

 やはり、毒が消えたと言うよりは、力尽きたと言う感じだ。

 望遠鏡でもあれば正確に探れるのだが、無い物は願っても仕方が無いか。


「うーん、場合によっては、あの岩のように見えてるのが、実は巨大な蜂の巣ってのもありそうね」

「それが本当なら、ちょっとキツいなんて次元じゃないな。幾ら俺でも流石に耐え切れないぞ」

「でも、巣なら女王蜂が居るでしょうし、それなら一度で削り切らないと復活するでしょうね」

「厄介な……」

 あの大岩が巣の可能性は……そんなに小さくはないだろう。

 なんにせよ、まずは砲撃を止める事、それから安全圏までとっとと進んでしまう事か。


「とりあえずもう少し耐えてちょうだい。狙ってみたい事があるから」

「分かった」

 私は『毒の邪眼・1』のチャージをキャンセルすると、『灼熱の邪眼・1』のチャージを始める。

 併せて、相手の砲撃の間隔を計測して、適切なタイミングを計る。


「3……2……1……『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

 私の13の目が赤く輝く。

 そして……


「うおっ!?」

「よしっ」

 大岩で大爆発が起きた。


「カーキファング! ストラスさん! 熊です! マントデア! 今の内に一気に進むわよ!!」

「お、おうっ!」

「分かった! 先導する!」

「はいっ!」

「あ、熊ですはこのまま此処で敵を狩るのです。後は追わせないので、頑張ってください」

「なら頼んだわ! 適当なところで切り上げておいて!」

 カーキファングがマントデアの前に出て駆け出す。

 その後にマントデアとストラスさんが続き、私はマントデアの肩に掴まって移動を任せつつ、大岩を注視し続ける。

 熊ですについては本人に任せよう。

 死に戻りしない程度に頑張ってくれれば、それで十分だ。


「で、タル。アンタは何をやった? なんで爆発が起きた?」

 ある程度の道は事前に探ってあったのだろう、カーキファングは殆ど迷うことなく走り続ける。

 ストラスさんの足ではカーキファングの足に追い付けないので、マントデアが掴み上げて、私と同じように肩に載せて駆ける。


「ちょっと相手が砲撃するタイミングで、火の気を撒いてやっただけよ」

 いつの間にか大岩からは黒煙のような物が上がり始め、大岩の周囲では幾つもの影が飛び回るようになっている。

 どうやら延焼が起きたらしい。


「だけって……タイミングが一致するのは数えていたから分かるが、火の気って……」

「詳細は省くけど、ここまで効果があるとは思ってなかったわよ。相手の体に火が点く事はあっても、蜜は燃えないと言うか、量を考えたらあっけなく鎮火されると思ってたもの」

「まあ、このダンジョンで蜂蜜が無い場所なんて無いですからね。ちょっとした火ぐらいだったら、確かに簡単に消せるのが普通そうです。私の視界だと何が起きているのか全く分かりませんけど」

 何故火が燃え広がったのかは分からない。

 何処かに可燃性と言うか、火を燃え上がらせる油のような物体でもあったのだろうか。

 なんにせよ、相手はこちらに手が回らず、砲撃は止んでいる。

 この機会を逃す手はない。


「すんすん……こっちだ!」

 段々とカーキファングの動きに迷いが出始める。

 どうやら未知の領域に入り始めたようだ。

 だがそれでも、何かしらの方法で先に進むための道を正確に割り出しているのだろう。

 迷う時間は短く、移動は早い。


「あはっ」

「おうっ、楽しそうだな……」

「楽しそうですね。タル様」

「ええ、とても楽しい。いえ、嬉しいわ。だって、誰も踏み込んだことがないであろう領域に入れるんだから。と。『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

 と、気が付けば大岩から上がっている煙の勢いがだいぶ収まっている。

 と言うわけで再加熱。

 大岩そのものが燃えるのであれば、わざわざ砲撃手に向かって撃ち込む必要は無い。

 結果は……


「ふふふっ、やっぱりアレは岩じゃなくて巣の方が正しいみたいね」

 見事に岩の形をした別の何かに火が点いた。

 そして、一気に岩の上部全体を覆うように燃え上がり始めた。

 ああそうか、此処まで派手に燃え上がるなら、私と同じように火炎属性への耐性低下でも入っているのかもしれない。


「でも、巣を燃やされたとなると……来ますよね?」

「来るな。ついでに言えば、順調に巣の方へと俺たちは近づいてる」

「そうか。だが、奥地へと繋がっていると断言できるルートは今俺が通っている道だけだ」

「あははっ! いいじゃない! 折角だから殲滅戦と行きましょう! 全滅させれば、今後の憂いはなくなるわ!」

 ああ、テンションが上がってきた。

 蜂蜜の砲撃を放っていたモンスターはどんな個体なのか、そもそもあの巣は本当に巣なのか、巣の周りに飛んでいるモンスターは何なのか、一体あの場に何が眠っているのか。

 興味が尽きない、未知が尽きない。


「ま、殲滅には同意だ」

「そうだな」

「ですねー」

「ゴーゴー! マントデア! 突撃よ!!」

 迷路の終わりが見えてきた。

 やはり大岩は大岩ではなく巣だった。

 だが、私たちの脅威だった巣は今や激しく燃え上がり、第一階層で見かけた静音琥珀大蜂によく似ているが別種の蜂が火をどうにかしようとしてはその身を燃え上がらせ、火の勢いを強くする薪と化している。

 そんな場所へ私たちは突撃した。

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