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113:フォレストズセーフティ-4

本日二話目です。

「依頼、と言う言葉を使うのであれば、相応の報酬もあると言う事ですね。私の今後の都合上、依頼であるならば、必要経費以外にも受け取るものは受け取る必要がありますから」

 私は居住まいを正し、目を少し鋭くしつつ二人に向け、言葉使いを改める。

 その動きにマントデアとカーキファングも相応の物を感じ取ったのだろう。

 少しだけ真剣さの度合いを高めたように感じた。


「勿論だ。依頼内容の概要に合わせて、報酬についても説明はさせてもらう」

「俺たちの依頼を切っ掛けとしてタルがトラブルに巻き込まれるのは、俺たちとしても気分が悪い」

 正直なところ、実力者であろうこの二人が私に助力を願うダンジョンと言うだけでも、依頼の対価として十分な程度には興味を惹かれる。

 しかし、それだと傍目には無償で依頼を受けているように見えて、今後どうでもいい相手からつまらない話を持って来られるようになるのは面倒極まりない。

 だから、きちんと通すべき筋は通しておくべきだろう。

 なお、依頼の話が嘘で、二人が私をPKするために話をしているのなら……それはそれで美味しい。

 ほぼ間違いなく、私を仕留めるために未知の何かを持ってきてくれるからだ。


「まず俺の方だが、呪術による素材回収をお願いしたい。俺は見ての通りの大きさで、服一つ作るにも並のプレイヤーの10倍以上の素材が必要になるからな」

「ああ、その腰巻ってやっぱり」

「初期装備の壊れないボロ布の下着だ。いい加減おさらばする事を考えたい」

「なるほどね」

 マントデアの依頼は出来る限り傷のない毛皮の類を多く入手したい、と言うところか。

 それならば私への依頼も納得がいく。

 掲示板辺りで情報を得れば、呪術……特に私の『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』のような、直接のダメージを与えずに敵を倒せる呪術が素材回収に極めて適切である事は想像に難くないからだ。


「報酬としては、俺にしか回収できないであろう呪詛生成物だ。掲示板に出てた『灼熱の邪眼・1』の作り方からして、アンタなら活用できるとは思う」

「へぇ。マントデアだけにですか」

「原理上は俺以外にも回収できるはずだが、確実に入手できるのは俺からだ。ああ、俺の優位性は保てるから安心してくれ。そこの勘定はしている」

「なるほど。十分そうですね」

 マントデアの目の一つが僅かに動いて、背中で蠢いて電光を発している触手に一瞬だけ向けられる。

 なるほど、どういう素材なのかは何となく分かった。

 確かにマントデアからしか手に入らない素材だろうし、呪詛生成物なら有効活用できる可能性は高そうだ。

 これは受ける価値が十分にある。


「では、カーキファングの報酬は? ダンジョン攻略の手伝い依頼は流石に安請け合いは出来ませんよ」

 が、受けるかはカーキファングからの話次第でもある。

 頼むから、きちんと報酬を提示して、受けさせて欲しい。


「経緯から行こう。俺はとある事情からダンジョンのボスを討伐する事で得られる素材を求めている。しかし、俺とマントデアではボスに辿り着くことも出来なかった。だから、協力者を募る事にして、今回タルに声をかけた」

「ふむふむ。そのとある事情と言うのは?」

 この二人が対処できなかった状況か……あーうん、とりあえず一つ思いついた。

 たぶんだが、現状では私以外に条件を満たせるプレイヤーは居ないと思う。

 私以外だと……数の暴力か、よほどの隠密能力が必要そうか。


「サクリベスで仲良くしている住民からの依頼だ。正確には、彼女が仕えている主の一人が求めている物になるのだがな。私は彼女の為に是非とも手に入れたい」

「彼女……ああ、駄犬さんの飼い主ですね」

「飼い主じゃない。ただ、定期的に癒してもらっているだけだ」

「ひうっ!?」

 ストラスさんの言葉にカーキファングが牙を剥き出しにし、唸り声を上げる。

 と言うか、否定するのはそっちであって、自分が駄犬扱いなのはどうでもいいのか。

 ま、この辺は個人の趣味なので、置いてこう。

 それよりもだ。


「で、報酬は?」

 報酬の話に移ってしまおう。


「情報だ。彼女が仕えている主に関する情報を一部だがタルに渡す」

「情報ですか……報酬としては扱いに困る物ですね」

「だろうな。だが問題はない」

 カーキファングが私の近くに寄って来て、耳を寄せろと仕草で示してくる。

 どうやらストラスさんと熊ですの事を考えてのようだ。

 なので私は耳を近づける。


「神殿に居る聖女についてだ。イベントで掲示板に書き込む程度には気にしていただろう」

 なるほど。

 その情報ならば確かに対価に成り得る。


「その情報、私に流していいのですか?」

「内容が内容だし、得た経緯も経緯だから、むやみやたらと流していい物ではないな。だが、俺が得た情報通りなら……タルは大丈夫だろう。ああ、報酬として見合うかどうか不安だと言うのなら、先払いだって構わないぞ」

「後払いで大丈夫です。むしろ先払いなんてされたら、そっちが気になって依頼が手につかないでしょう」

「ほう、そう言ってくれると言う事は……」

 そう言っているカーキファングの目は何かを言いたげで、熊ですとストラスさんの居る側から見えない方の口の端は僅かにだがつり上がっている。

 これは……むしろ話したくて仕方が無いと言う感じか?

 どうやら、聖女様は私の事をしっかりと覚えていて、カーキファングの飼い主にもその話が流れてくるほどのようだ。

 うん、知っておいた方が良さそうだ。


「ええ、二人からの依頼は受けましょう。報酬も十分で……何より面白そうだもの」

「よしっ!」

「ふうっ……」

 そんな訳で、元から気持ちは定まっていたが、私はマントデアとカーキファングからの依頼を受けた。


「で、二人はどうするの?」

 で、私はストラスさんと熊ですへと視線を向けた。

 状況からして、たぶんマントデアとカーキファングの二人だけでは手が足りない可能性もある。

 ストラスさんは分からないが、熊ですの実力は確かだし、呼ぶのはありだろう。


「その、マントデアさんとカーキファングさんが良ければ、同行させていただきたいです。気になりますので」

「んー、細かい作業とかがあったら、居てくれた方がいいよな。カーキファング」

「攻略中は検証班など外部に情報を流さない。これだけ守ってくれるなら俺は構わないぞ」

「では、よろしくお願いします」

 と言う事で、ストラスさんは加入と。


「熊ですは一つ聞きたい事があります」

「聞きたい事?」

「二人が攻略していたダンジョンに甘味はあるのですか? 熊ですは甘い物が好きな熊なので、それさえあれば協力してもいいのです」

 熊ですは甘いものがあればか。

 私はこれから向かうダンジョンについて知っている二人へと視線を向ける。


「甘い物か……甘い物はあったな……」

「ああ、胸焼けを起こしそうな程度にはあった……」

 が、二人が微妙に遠い目をしているようにも思える。

 これは……もしかしなくても……。


「ダンジョンの名前を伝えておくか。ダンジョンの名前は『蜂蜜滴る琥珀の森』」

「一番分かり易い特徴は、ダンジョンの至る所から湧き出す大量の蜂蜜だ」

「行くに決まっているグマー!!」

 何かトラウマになるような事があったと言う事なのだろうなぁ。

 熊ですは気にしていないようだが。


「ま、やる気のある実力者が増える分には困らないか」

「そうだな。あの蜂蜜を回収できるのも悪くはない」

「あー、そう言う事ですか……気を付けますね」

「だいたい察したわ」

「行く熊! すぐ行く熊! 熊ですを蜂蜜が待っているクマー!!」

 そんな訳で、私、マントデア、カーキファング、ストラスさん、熊ですの五人で組んで、ダンジョン『蜂蜜滴る琥珀の森』へと向かう事になった。

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