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111:フォレストズセーフティ-2

本日二話目です

「だいぶ近づいてきたわね」

『嫌な感じがしてきたでチュからねぇ』

 『呪い樹の洞塔』を出て暫く。

 モンスターと戦いつつ森の中を進む私の感覚に、嫌な気配が入ってくる。

 セーフティーエリアの周囲に存在している呪詛を退ける白色の円柱の気配だ。

 どうやらだいぶ近づいてきたらしい。


「アイテムの回収は……まあ、十分か」

 私は此処までに回収してきたモンスターの素材を思い出す。

 うん、森と言うだけあって、沼やビル街に比べてモンスターの量も種類も段違いだった。

 角の生えた蛇やら、人の手の生えた花やら、巨大な蜂、針千本のような毛虫、毒々しい液の滴る巣を張った蜘蛛、目が三つある猪、なんでもござれだった。

 森の中と言う事で何もない平地ほど素早く動き回れなかった私に襲い掛かってきた者だけを返り討ちにして、その場でめぼしい素材だけを剥ぎ取ってきただけだが、それでも色々と手に入った。


『楽しそうでチュねぇ』

「そりゃあね」

 全てが有毒な物と言う訳ではないし、呪詛生成物と言う訳でもない。

 また、ダンジョンではなくフィールドで回収できた物なので、質もそこまでではないだろう。

 だが、種類は多いから、これをきちんと処理すれば毒のカクテルのような物くらいは作れるかもしれない。


「ふふふ。そうねぇ……きちんとダンジョンの中で呪詛生成物の蜂毒を回収して、それに『ダマーヴァンド』の毒液を混ぜ合わせる。可能なら、モンスターでない植物の毒も混ぜ合わせるべきかしら。で、そうすれば『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』を少し強化するくらいは出来ると思うのよね」

『飲む気でチュか』

「いっそ、血管から直接注入もありかしら。注射器代わりになるようなアイテムでもあればだけど」

『加減は考えた方がいいと思うでチュよ……』

 そうやって毒のカクテルを作ってきちんと呪えば……私の強化には繋がるだろう。

 うん、楽しみだ。


「と、見えてきたわね」

 私の視界にプレイヤーの姿が入り始める。

 その数は沼とビル街のセーフティーエリアに比べて明らかに多く、とても賑わっている。

 一部のプレイヤーに至ってはゴザを広げての商売ではなく、木々に呑み込まれた建物を弄って店舗のようにしているぐらいだ。

 此処まで来ると、もはやセーフティーエリアと言うよりは小さな村のようなものかもしれない。


「ん? 霧がこ……タルウイイイィィィ!?」

「なあああっ!?」

「モンス……いや、プレイヤーだが!? だが!?」

「じゃ、邪眼妖精だああぁぁ!?」

 と、セーフティーエリア内のプレイヤーたちが私の姿を認識したのか、一気に騒がしくなる。

 今更な話だが、こうやって騒がれるのを見ると、イベントで3位入賞した影響と言うものを感じるなぁ。


「大歓迎ね」

『阿鼻叫喚と言うべきでチュ』

「そうかしら?」

『そうでチュよ』

 なんにせよだ。

 此処まで大きく騒がれているなら、迂闊にセーフティーエリアに入るのは止めた方がいいだろう。

 ビル街や沼と違って、NPCが何処かに居る可能性も否めないし、少し待ってみて、話の通じる案内人の類がやってくるのを待った方がいいだろう。


「く、熊ですは確かに顔見知りですが……顔見知りですが、待ってほしいのです!」

「タル様!」

「お、顔見知りが来たわね」

『片方の被害者感が酷いでチュ』

 周囲を警戒しつつ待っていると、セーフティーエリアの中心部からストラスさんが、近くの店舗から熊ですが他のプレイヤーに押し出されるように出てくる。

 うん、二人とも顔見知りであるし、話は通じそうだ。


「イベントぶりね。ストラスさん、熊です」

「お久しぶりです。タル様。セーフティエリアの登録ですか?」

「熊ですは会いたくなかったのです……」

「ええ、ストラスさんの言う通りよ。いやー、高異形度はこういう時に困るわね」

 私は二人に挨拶をする。

 ストラスさんは素直に返し、熊ですは顔を逸らして見るからに嫌だという様子を見せる。

 まあ、熊ですはイベントで私に負けているし、今だって周りに押し出される形なので、当然の反応だろう。


「で、セーフティエリアに入っても大丈夫? トラブルにならない?」

「大丈夫です。『CNP』の住民で、高異形度の存在に耐性が無い住民がサクリベスの外に出てくることはありませんから。そして、タル様程でなくとも、異形度10を超える様な高異形度のプレイヤーは何人か居ますから」

「なるほど。なら遠慮なく入らせてもらうわ」

「では、私が案内させていただきますね」

 私は殆ど無音で移動するストラスさんに着いて行く形で、セーフティエリアの中心部へと向かっていく。

 そして、私の後ろを何故か熊ですが着いてくる。


「熊ですは着いてこなくてもいいんじゃないの?」

「こうなれば、もうどうにでもなれなのです。熊ですは流されるのです」

「うーん、無理はしなくていいと思うけど……」

 熊ですはため息を吐きながら着いてくる。

 熊ですが着いてくるしかなくなっているのは、ストラスさん、私、熊ですの三人を遠巻きに見つめている他のプレイヤーの視線や動きからして……トラブルは起きて欲しくないが、もしも起きてしまったならば、その時は熊ですに私を止めて欲しい、そんな所だろうか。

 私が言う事ではないかもしれないが、実に身勝手な物である。

 そこは自分で何とかしようと思ってほしい物だ。

 まあ、なんにせよだ。


「此処がセーフティーエリアの中心です」

「ありがとう。ストラスさん」

≪N1、森に飲まれた街のセーフティーエリアを発見。転移可能拠点として登録しました≫

 セーフティーエリアの登録は無事に済んだ。


「お、それじゃあもう話をさせてもらっていいか?」

「ワンッ」

「あら」

『デカいのと犬でチュねぇ』

 で、そんな私の下に何処かで見た覚えのある異形の巨躯とカーキ色の犬が近寄ってきた。

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