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11:ファーストメイク-2

「ふうむ……」

 結論から言ってしまえば、袋状の物体にインベントリ能力が付与されるように呪う事だけは簡単になっているようだった。

 やはり、インベントリの類が無いとゲーム進行の難易度が高くなり、余計なストレスが多くなってしまうと言う判断なのだろう。

 インベントリなしと言う縛りプレイも許される辺り、中々に尖っているとも思うが。


「とりあえず武器が2本は出来たわね」

 私は毒噛みネズミの前歯を前歯同士をすり合わせたり、床に擦り付ける事で研ぎ澄まし、ナイフとして使えるように加工した。

 その上で持ち手部分に余ったケーブルと毒噛みネズミの毛皮を巻き付けることで、持ちやすいようにした。

 そうして加工を終えたところで呪怨台に乗せて、呪いをかけた。


「1本目は純粋強化」

 1本目は呪う際にひたすら毒が強くなるようにと想いを込めた。



△△△△△

毒噛みネズミのトゥースナイフ

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:2


毒噛みネズミの大きな前歯を基にしたナイフ。

周囲の呪詛を利用して、傷つけたものへ毒を注ぎ込む。

与ダメージ時:毒(1×呪詛濃度+使用者のレベル)

注意:呪詛発動時、使用者のHPを5消費

▽▽▽▽▽



「まあ、これは成功よね。多少のリスクを負う事にはなったけど」

 結果として私のレベル分だけ毒が強くなるようになった。

 現状では2足されるだけだが、いずれは中々の数字になるだろう。


「2本目は……まあ、解体に使えるか」

 2本目は呪う際に毒が無くなるようにと想いを込めた。



△△△△△

毒噛みネズミのトゥースナイフ

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


毒噛みネズミの大きな前歯を基にしたナイフ。

周囲の呪詛を利用して、傷つけたものへ毒を注ぎ込む。

与ダメージ時:毒(1)

▽▽▽▽▽



「それでも毒肉にはなるんでしょうけど」

 結果として毒は弱まったが、消し切る事は出来なかった。

 これは用いた素材が、毒噛みネズミと言う毒を用いるモンスター由来の物であるためだろう。

 これだけでも素材とする物質と込める想いの内容の相性が重要である事は見て取れる。


「ま、3本目と4本目に比べたらマシね」

 さて、私が持っていた毒噛みネズミの前歯は全部で四本あった。

 なので、残りの2本に対しても同じような加工を施し、別の想いを込めて呪った。

 3本目には数字にして1,000を超える様な強力な毒を生成できるようにと言う想いを。

 4本目にはインベントリとして使えるようにと言う想いを。

 それぞれに込めて呪った。

 呪った結果……


「どっちも完全に砂になって、消え去ってしまったし」

 2本のナイフは霧が晴れると同時に風化。

 跡形もなく消滅してしまった。


「さて、詳細までは分からないけれど、とりあえず分不相応な想いを込めて呪ったら、呪うのに失敗した挙句に消滅するって事でいいのかしらね」

 こちらの目指すものに対して、呪う物の質や傾向が適切でないと上手くいかない、と言う事だろう。

 どの素材が何処まで行けるのか、どの形状がどんな呪いに適しているのかと言った部分については……たぶん、地道に検証するしかない。

 まあ、貴重な素材を手に入れ、調子に乗って過度な呪いをかけたら消滅しました、なんてことになる前に気付けて良かったと思うべきか。


「……。これ、普通に街から始まったプレイヤーなら、NPCから懇切丁寧に教えてもらえるんでしょうね……まあ、こういう事もあるから、誓約書必須なんでしょうけど」

 私は設定画面にある掲示板の文字だけを見る。

 きっと掲示板に見に行けば、これくらいまでの情報ならばもう揃っているのだろう。

 私は空中浮遊と虫の翅に慣れるのに時間を使っているし。

 だが、現状で掲示板を見る気はない。

 折角のダンジョンスタート、折角の他にプレイヤーが居ない状況なのだ。

 詰まるまで……とはいかなくとも、今日一日くらいは掲示板情報なしでやるのも悪くはない。


「次は毒の効果の検証ね」

 さて、折角なので今の内に確かめられることは確かめておくべきだろう。

 と言う訳で、私は毒噛みネズミのトゥースナイフを手に取ると、軽く指先を切る。

 『CNP』はF(フレンドリー)F(ファイア)云々以前にPT機能もなければ、自爆を防ぐようなシステムも存在していないゲームである。

 また、セーフティーエリア内部であるから死ぬ事は絶対にない、なんて親切なゲームでもない。

 なので、こう言う自傷行為も問題なく行えるようになっている。


「ふむ」

 私の視界の左上隅、HPバーと満腹度のバーの下に、毒(1)と言う表示が出る。

 それに伴って、少しだけ気分が悪くなるような感じがする。

 そして発生から10秒後、私に1ダメージだけ与えて、毒の表示は消えた。


「じゃあ、次はこっち」

 続けてもう一本のトゥースナイフで腕を切りつける。

 ダメージと呪いの効果によってHPバーが減ると共に表示されたのは毒(12)。


「まずは12ダメージ」

 10秒後に受けたダメージは12で、それにともなって表示は毒(11)に変化。

 その後も順当に11、10、9と10秒ごとに私へとダメージを与えつつ、数字は少なくなっていく。


「じゃあ、連続攻撃と言うか、連続投与ね」

 毒が抜けてHPが回復すると、私は腕にナイフを突き刺し、毒にかかると共に抜き、また別の場所に新たにナイフを突き刺す。

 これを数度繰り返した。

 すると一度目は順当に毒(12)、二度目は毒(24)だったが、その後は最大で12、低ければ1か2と言う感じで、増え方にだいぶばらつきが生じた。


「あ、ヤバい。すごく気分が悪い……これもう一回死に戻りましょ……」

 で、毒(100)を超すくらいまで試したところ、それまでとは比べ物にならないくらいに気分が悪くなった。

 視界がグワングワンしているとしか言いようがない感じになり、気分そのものも気怠い感じになってきた。

 回復の水をマトモに飲む事すら出来そうにない。

 どうやら毒は100を超えると、一気に重症化するらしい。

 幸いにして受けるダメージも100を超える大ダメージが10秒ごとに入ってくれるので、死に戻りは難しくない。

 と言う訳で、私は諦めて一回死ぬ事にした。


≪称号『毒使い』を獲得しました≫

「なんか来た」

 そしてリスポーンすると同時に称号獲得の通知が来た。

 とりあえず内容を見てみる。



△△△△△

『毒使い』

効果:毒の付与確率上昇(微増)

条件:毒(100)以上を与え、毒によるダメージで生物を殺害する。


私の毒の力を見るがいい。

▽▽▽▽▽



「自殺でいいんかい!」

 有用称号だが、思わず一人ツッコミをしてしまった。

 と言うかこの分だと、ダメージを与えられる系の状態異常……いや、状態異常全般に同じような称号がある気がする。

 機会があれば、試してみてもいいかもしれない。


「まあいいわ。とりあえず検証結果まとめね」

 なんにせよ『CNP』の毒の仕様は分かった。

 『CNP』の毒は


・ダメージは10秒ごとに括弧内の数字分だけ。

・ダメージを与えると、括弧内の数字が1減る。

・毒の追加を試みると、既にある毒の数字とランダム要素に応じて、追加できる毒の量が減る?

・括弧内の数字が100を超えると重症化して、マトモに動く事も難しくなる。


 と言うところか。

 実際には細かい仕様を間違えているかもしれないが、概ね間違ってはいないだろう。


「んー……戦闘で使うなら、100オーバーによる重症化で動きの阻害を狙うのが第一。重症化が無理でも50ぐらいあれば総ダメージ量は結構な数になるはずだから、それぐらいは狙いたいところね。20ぐらいだと……嫌がらせか、ダメージをトリガーとするような他の何かと組み合わせたいかな」

 使い方としてはそんなに間違っていないと思う。

 なお、後で計算してみたところ、毒(45)ぐらいから、総ダメージが1,000を超えるようだった。

 尤も、450秒……7分半もかかるのは少々問題だが。

 なんにせよ、この知識は今後も私が毒を使い続ける限りは役に立ってくれることに間違いないもの、大切にするとしよう。


「んー……とりあえず一度ログアウトして夕食でも食べましょうか。ネズミの塔の本格探索はそれからね」

 私は毒噛みネズミの毛皮袋の中身をきちんと出してあることを確認すると、ログアウトした。

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