109:レッドマジックストーン-2
本日二話目です
「さて、呪われた赤魔宝石と真鍮の輪を毒液に漬けている間に、どう呪うかを考えましょうか」
『前回と同じ感じじゃ駄目なんでチュか?』
「前回の呪われたクロムダイオプサイトと、今回の呪われた赤魔宝石とじゃ、結構な差があるもの。そこをしっかりと考えずに呪っても碌な事にならないわ」
私は噴水に腰かけつつ、どう呪うかを考える。
「まず、赤魔宝石は周囲から力を呼び寄せた上で定着させることで繁栄をもたらす力とやらを持っている。ただこれは赤魔宝石そのものの性質と言うよりは、燻ぶるネバネバの核だったからこその性質であると判断するわ」
『その心は?』
「たぶんだけど、赤魔宝石と言うのは、赤い、魔物の体から採れた、宝石のような輝きを持つ石、の総称でしかないと思うのよ。で、魔物の体から採れた以上は、元となったモンスターの保有する性質、呪いを受け継いでいると考える方が適切だわ」
『なるほどでチュね』
赤魔宝石についての推測はたぶん間違っていないと思う。
特殊な物品であるためか、掲示板には魔宝石と付くアイテムについての情報はない。
だが、クロムダイオプサイト……緑透輝石と言う、あまり一般的とは言えない宝石まできちんと網羅して名前が付いているのが『CNP』だ。
仮に赤魔宝石のような色合いや輝きを持つ石が現実にあるなら、きちんと名前を出してくるだろう。
なのに赤魔宝石と言う名前が着いて、フレーバーテキストで元になったモンスターの名前を出すあたり、私の推測はそう大きくは外していないと思う。
「で、周囲から力を呼び寄せた上で定着させることで繁栄をもたらす力だけど……」
『だけど?』
「これってマメ科植物の根に着く根粒菌の窒素固定をモチーフにしているんじゃないかしらね。集める物が窒素と呪詛じゃだいぶ違うけど」
『チュー?』
そう言えばこの世界、細菌やウィルスの類はどうなっているのだろうか。
呪いと言う目に見えず、ある意味万能な力が満ちている上に、ゲームの世界であるから、その辺の再現は敢えて省いている可能性もあるが……機会を見て、ザリア辺りにサクリベスに発酵食品が無いか確認してもらえば分かるか。
「で、今はこれが呪いによって変質。呼び寄せた力を所有者を傷つける事……分かり易く言えば火傷を負うような熱に変換している状態なのね」
『燃える物を上に乗せたら、火が点いたりするんでチュかね?』
「たぶん点くわよ。だから、適切に扱えば恒久的な熱源として扱う事も可能なんじゃないかしら」
『わざわざ呪い直す必要あるんでチュかね? それで、十分だと思うんでチュけど』
「いやぁ、たぶんだけど、そう言う使い方をしていると、何処かで所有者を焼きにかかるんじゃないかしら。気が付いたら可燃性の物が近くにあって、燃え移って、今まで利用だけしてきた報いを受けさせるように、全身がボウッとね……正に呪いでホラーだわぁ」
『チュアアァァ!?』
気が付けば噴水の毒液がだいぶ温まっているように思える。
噴水の毒液は常に供給され続けているので、沸騰するような事はないが、あまり放置し続けるのはよくなさそうだ。
「そんなわけだから、呪って変質させるなら、リスクはもっと具体的に、特定の現象しか招かないように調整しておいた方が無難でしょうね。今の私に火が点いたら洒落にならないわ」
『な、なるほどでチュ。ざりちゅも火が点くのは嫌でチュし、賛同するでチュ』
私は噴水の中から呪われた赤魔宝石の付いた真鍮の輪を取り出す。
放っているオーラは微妙に緑と赤が入り混じっているように思える。
とりあえず変化が起きたのは確かなので、セーフティーエリアに持ち帰って呪怨台に乗せるとしよう。
「変質しますように……」
『ざりちゅに火が来ないように……火は嫌いでチュ……』
私は赤と黒と紫の霧が呪怨台の上に集まっていくのに合わせて、いつものように呟き呪う。
「上手くいきますように……」
ただ、緑透輝石の足環との釣り合いも考えて、気合いを入れて呪う事はしない。
成功さえすればいいというスタンスだ。
「出来たわね」
やがて霧の中から、オーラを放たなくなった赤魔宝石付きの真鍮の輪が現れる。
HPは……まあ、90%を超えているなら大丈夫だろう。
と言う訳で鑑定。
△△△△△
赤魔宝石の腕輪
レベル:12
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:10
燻ぶるネバネバの核を基にした赤魔宝石が付けられた真鍮製の腕輪。
石が帯びる強い呪いは所有者の周囲を変質させ、集まった呪いが散逸する事を抑える力を持つが、所有者もまた呪いに晒されるからこその力である。
極めて丈夫であり、普通に扱っている分には傷がつく事も汚れる事もまずないだろう。
所有者の周囲の呪詛濃度低下を一定時間防ぐ。
注意:所有者に一定時間ごとに灼熱(1)を与える。
▽▽▽▽▽
「ふうむ……酸素ボンベみたいなものかしら?」
『例えがよく分からないでチュよ』
「いや、どちらかと言えば包帯服がボンベで、こっちが宇宙服? まあ、便利なのは確かね」
今の私は呪詛纏いの包帯服の効果によって、呪詛濃度5の空間までなら呪詛濃度不足に陥ることなく活動できるようになっている。
だが、呪詛濃度4以下の空間に入ると、周囲の空間から呪詛が減った分だけ、私の周囲からも呪詛が減ってしまうため、サクリベスのような呪詛が殆どない場所には立ち入る事が出来ない。
そんな状況を一時的にでも解決してくれるのが、この赤魔宝石の腕輪の効果なのだろう。
どのくらいの時間、効果を発揮し続けてくれるかは分からないが、少なくとも役に立たないという事だけはないだろう。
「装着……重いっ!」
『そりゃあ、レベル不足でチュからねぇ』
私は右腕に赤魔宝石の腕輪を付ける。
思わず重いと言ってしまう程度には重い。
し、しかし、この重さも後1レベル上がれば解消される物。
解き放たれる日もそう遠くはないはずである。
「と、とりあえず効果のほどを確認したら、今日はもうログアウトね」
『分かったでチュ』
なお、肝心の効果だが、10秒程度しか持たなかった。
便利な効果であるだけに、レベル不足に対するペナルティも大きいと言う事なのだろう、たぶん。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル11
HP:342/1,100
満腹度:27/100
干渉力:110
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『灼熱使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『七つの大呪を知る者』、『呪限無を垣間見た者』
呪術・邪眼術:
『
所持アイテム:
毒鼠のフレイル、呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、真鍮の輪×2、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール設置
▽▽▽▽▽