107:現実世界にて-4
「メシマズ妖精なんて言われてるけど……」
「酷い話ですよね。メシマズは無意識かつ訳の分からない論理で作るのであって、私は意識的にかつ必要に迫られてワザと作っているのに」
「樽笊さんもだいぶ酷い事言っているわよ」
「いやだって、本物のメシマズは……ねぇ?」
金曜日。
私は大学の空き教室で財満さんと『CNP』について話していた。
「この話題は止めておきましょう。よからぬものを招く気がするわ」
「そうですね。そうしましょうか」
なお、ブラクロのリアルと思しき大学生は食堂で課題について云々と唸っている。
ロックオのリアルと思しき大学生がその付き添いで、内心で溜め息を吐いていそうだ。
「でもそうなると、私の動画を見て呪術を習得する人は増えなさそうですかね……」
「たぶんそうなるわね。でも、無茶をして、死んだ方がマシなんて事態に陥るプレイヤーの数は減っただろうから、そう言う意味では貢献したんじゃないかしら」
「死んだ方がマシですか……まあ、『CNP』だと冗談にならない話ではありますね」
「ああ、そう言うのもあるのね。掲示板では見かけたこともないけど、流石は樽笊さんね」
「ちょっと縁がありまして。まあ、不老不死の呪いがあるからと甘く見るのは止めた方がいいですね」
『CNP』では基本的には死ねば状態異常やらHPやらは回復する。
しかし、仮称アジ・ダハーカにやられた干渉力低下のように、死んでも回復しない状態異常と言うのも存在している。
あんなものを使ってくる存在は極限られているだろうが、冒険が進めば遭遇する機会はきっと増える事だろう。
「財満さんの方はどうなんですか?」
「私の方? まあ、何とも言い難い所ね……」
呪術繋がりと言えばザリアの呪術習得はどうなのだろうか?
何かしら出来上がれば、きっと面白い物が見れると思っているので、詰まっている部分があれば手伝いたくはあるのだが……。
さて、教えてもらえるだろうか?
「まず、助言通りに剣先に私の針は仕込んでみたわね。何となくだけど、貫通力と言うか刺突力と言うか、そんな感じのが強まりはしたし、正確性も増したように思うわ」
「なるほど」
「けれど呪術ではないんでしょうね。呪術にあるらしい動作キーも詠唱キーも無いし、そもそも習得したというアナウンスの類もなかったわ」
「ふむふむ」
進歩はあったらしい。
しかし、財満さんの言う通り、呪術ではないのだろう。
呪術として習得できたなら、『呪術初習得』の称号は取れているはずだ。
「となると、何かが足りないんでしょうね。単純な回数か、思いの強さか、呪詛を利用しているか……この辺ですかね。『CNP』の呪いは強い想いを核として、形成されるもののようですから」
「なるほどね。ああ、そうなると、あの動画もちゃんと意味がある事になるのね。もう少し考えてみるわ。もしかしたら上手くいくかもしれないし」
「出来上がったら是非見せてくださいね。未知なものは楽しみですから」
「機会があればね」
さて、これで財満さんがどんな呪術を習得するのか。
実に楽しみである。
「機会で思い出したけど、樽笊さんは強化? それとも探索? 向こうでイベント以外のタイミングで会うなら、それぐらいは知っておかないと厳しいと思うんだけど」
「ああそれですか。私は敢えて言うなら強化側ですね。まだようやく南と東のセーフティーエリアの登録を済ませたところなので、北と西も登録を終えておきたいところなんです」
「異形度の影響と言う事かしら」
「そう言う事ですね。異形度が異形度なので、ようやくです。街に至っては入りたくても入れなさそうですが」
強化と探索と言うのは、昨日スクナがダンジョン内で言っていた話の事だろう。
だが、私はどう転んでも現状では強化の側だ。
レベルはともかく、セーフティーエリアの登録がまだまだだし、邪眼の習得や『ダマーヴァンド』強化のための材料を集めたりもしないといけない。
悔しいが、未知のエリアの探索どころではないのが実情だ。
「そう言う財満さんはどうなのですか?」
「私も強化に近いのかしら。今はブラクロの友人で新しく『CNP』を始めた子の強化と、シロホワが考えている事を実現するための材料集めで各地を奔走中。で、その合間に自分の呪術を練り上げようとしているところ」
「なるほど」
財満さんも強化の側、と。
それにしてもブラクロの友人となると……ああ、確かにもう一人居た気がする。
今も食堂でブラクロに付き合っている事だろう。
「まあ、探索の方は漏れ聞こえてくる話を聞く限りでは、フラグがまだ成立していないのか、どの方面も頓挫しているらしいわ。それが本当なら、自己強化ついでにフラグ回収を進めた方が後々の役に立つんじゃないかしら」
「何かあるんですか?」
「詳しくは分からないわ。でも、単純なレベル不足とかもあるみたいね。ま、あれだけ広い世界なんだし、気ままに進めるのがきっと一番いい事なんでしょうね」
探索の方は……まあ、私の強化が終わったら、万全の対策をした上で探索してみてもいいだろう。
通常フィールドではなく呪限無の方を、だが。
「合流と言うか一緒に活動するのは……そうね。同じエリアに居たら考えましょうか」
「そうですね。そうしましょうか」
そうして私たちは次の講義に向かうべく、席を立った。