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105:スワンプズセーフティ-1

「此処が沼地のセーフティーエリアだ」

「ビル街に比べると人が少ないわね……」

 『藁と豆が燻ぶる穴』を崩壊させた後。

 私はスクナの案内の下、E1、沼に沈んだ工場のセーフティーエリアに向かって移動。

 沼に沈んだ大きな工場の屋上に作られたと思しきセーフティーエリアに着いた。


「足場が悪いせいで、どうしても人が集まらないらしい」

「それなら仕方が無いわね」

 プレイヤーの姿は少ない。

 スクナの言っていた通り、沼地の探索のしづらさの影響が大きいのは確かだろう。

 呪いのおかげで地面の状態も道も気にしなくて済む私であっても、時折安全の為の迂回などで不便な思いはさせられたのだし。


「スクナ兄貴と邪眼妖精……だと……」

「え、何この地獄の組み合わせ」

「アイエエエエェェェェ!? ナンデ!? ナンデ入賞者コンビ!?」

「アワワワワワワ……」

 なお、私とスクナの組み合わせと言うのがかなり目を惹いたのか、私たちの姿を目撃したプレイヤーはだいたい大丈夫かと言いたくなるレベルで驚いたり、呆然としたりしていた。

 手を出してくるような気概のあるプレイヤーは……流石に居ないか。

 単純にそう言うプレイヤーが居ないだけかもだが、私だけなら近接不意打ちでどうにかなるかもしれないが、スクナ相手にそれは不可能であろうし、出てこないのは当然の話か。


≪E1、沼に沈んだ工場のセーフティーエリアを発見。転移可能拠点として登録しました≫

「ま、絡まれるよりかはマシね」

「そうだな。私も時々有象無象に絡まれて面倒な事はあるし、手を出してこないならそれでいい」

 とりあえずセーフティーエリアの登録は無事に済んだ。

 これで『藁と豆が燻ぶる穴』が無くなった現状でも、沼地に問題なく来れるようになった。


「タル。今回は色々と世話になった」

「世話になった? むしろ私が世話になった側だと思うけど……」

「いや、今回一緒に行動したおかげで、色々と見えてきた物があったし、知らなかった物を知る事も出来たからな。その礼だ」

「そう。なら、次に会った時は色々と面白い物が見れそうね」

「そうだな。考えていることはある」

 私たちは登録の為の赤と黄色の二色で彩られた板から少し離れて会話を続ける。

 どうやらスクナは呪術に興味を持ったらしい。

 となれば、次に会った時は前の顔で呼吸をし、後頭部の顔で呪術の詠唱キーを発動させるくらいはするかもしれない。


「幸いなことに、この世界は現実と違って、切り捨てて良い相手には事欠かないしな」

「あー……現実の話はマナー違反になるのだけど、スクナってやっぱり現実ではそっち方面の人なの?」

「意外か?」

「いいえ、あの武器の冴えを見たら、そっち方面なのは容易に想像がつくわ。現実で技を振るう機会が無いからVRでってのもフィクションなら割とある話だと思っているし。だからこれは確認みたいなものよ。答えなくても問題はないわ」

 スクナのリアルが武術家の類である事に疑いの余地はない。

 ただ、どうして『CNP』に居るのかは分からないが。


「まあ、タルの思っている通りだな。私は現実でも剣術、槍術、体術、弓術、他にも色々と修めている。が現実で修めた業を振るう機会は殆ど無いし、想定される機会も大抵は訪れないに越したことは無いものだ」

「ふうん」

「が、タルが聞きたいのはそこではなく、何故私が『CNP』を遊んでいるかだろう?」

「まあ、そうだけど。話して大丈夫なの?」

「別に隠す事でもないから問題はない」

 スクナが笑みを浮かべる。


「実を言えばだな。リアルの武術家たちは案外フルダイヴのVRゲームには関わりがあるのだ。人型の敵の中でも達人に属するようなもののモーションを作るためにな。私の知り合いでも両手の指で数える必要がある程度には、関わりを持っているのは居るぞ」

「あらそうなの。知らなかったわ」

「そうか。なら覚えておくといい。今回の藁人形は違ったが、上位の敵になれば、中身がそう言うのも少なからず居る事だろう」

 まあ、当然と言えば当然の話なのだろう。

 素人が考える効率の良い動きと、達人が持つ本当の動きでは少なくない差があるのは分かる。

 AIが学習を積み重ねて作り上げる武術だけでは足りない可能性があるのも分かる。

 だったら、リアルの武術家たちの動きを取り入れようとするのは、当たり前の流れなのだろう。


「そして、だからこそ私のような人間にとっては、『CNP』のような出来が良い上にプレイヤー個人の技量が要求されるゲームは遊び甲斐があるのだ。なにせ上位の方の敵と戦えば、疑似的にではあるがリアルの達人たちと戦えるような物なのだからな」

「なるほどね……」

「おまけに現実では戦えないような化け物や、現実ではあり得ない戦術を取る者とやりあう機会だってあるのだ。武を嗜む者にとっては例えステータスのような枷を嵌められても、楽しむ他あるまいよ」

 スクナの笑みが深まる。

 心の底から戦いを楽しむ者の顔へと変化する。

 きっと、スクナは心の底から戦いが好きで好きで仕方が無い人種なのだろう。

 私も未知を楽しむ時は、今のスクナのような表情をしているだろうし、その気持ちはとてもよく分かる。


「と、話が長引いてしまったな。タル。お前さんはこれからどうする? 私は少々用事があるのだが」

「んー、今日はもうログアウトね。その後は今日の収穫物の整理をしてから……たぶんN1のセーフティーエリアの登録ね」

「そうか。ならば、これをしておくとしよう」

「あら」

 スクナから提示されたのはフレンド申請だった。


「いいの?」

「次に会う時が敵か味方かは分からないが、こうして縁はあったのだから、繋いでおくのも悪くはないだろう? 勿論、無理にとは言わないが」

「そう。なら喜んで受けさせてもらうわ」

 私は申請を受理、スクナをフレンドとして登録する。

 これで三人目のフレンドである。


「では、機会があればまた会おう」

「ええ、機会があったらまた会いましょう」

 そして、私はこの日のプレイを終えた。

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