104:スモークホール-8
≪称号『灼熱使い』を獲得しました≫
「あー、酷い目に遭ったわね」
称号獲得のインフォが入ったので、ソストドッヘを倒したことは間違いないようだ。
とりあえず称号の内容は見ておく。
△△△△△
『灼熱使い』
効果:灼熱の付与確率上昇(微増)
条件:灼熱(1000)以上を与え、灼熱の効果が残っている間に生物を殺害する。
私の灼熱の力を見るがいい。
▽▽▽▽▽
「コピペ称号だけど、便利な物ね」
『毒使い』の灼熱版と言うところか。
条件の数字が大きいのは、毒(100)と釣り合いが取れるのが、この数字と言う事なのだろう。
道中の燻ぶるネバネバたちを相手にしている時に獲得できなかったのは……『
「さて……」
称号の確認も終わったところで、周囲の状況をしっかりと見る。
ソストドッヘの最後の攻撃によって生じた爆発。
私はアレを、私を絡め捕るために立ち上がったままになっていた藁の陰に隠れる事によってやり過ごした。
だがそれでも、私の火炎耐性の低さも相まって、HPは7割ほど削れてしまっている。
しかも灼熱(352)のおまけつきだ。
「当たり前だけど、酷い有様ね」
では、私以外の状況はと言えばだ。
ドーム状の空間内には黒煙で満たされており、あちこちで藁が燃え上がっていたり、固化したネバネバが散らばっていたり、煮豆の川から吹き飛ばされた煮豆が壁にぶつかってグズグズになっていたりする。
今まで藁の下に隠されていた熱せられた鉄板のような物も所々に見えていて、迂闊に近づいただけでも火傷するであろう熱波を放っているので、空中浮遊があっても油断はしない方が良さそうだ。
「まさか、これほどの爆発になるとは。想定外だったな」
「あ、生きてたのね。スクナ」
「際どかったがな」
スクナが回復の水と思しきものを飲み干しながら、黒煙の向こうに現れる。
耐性の差があるのは分かっているが、私よりもよほど爆心地に近かったのに生き残っているのはいったいどんなカラクリなのやら……。
うん、スクナの綺麗で無駄のない行動に未知を感じれる事はこれまであまりなかったが、ちょっと面白くなってきた。
「何にせよ、これで『藁と豆が燻ぶる穴』の攻略は完了だ。ボスの遺体についてはどうする? 大部分は残っていないが、四肢と五寸釘のような剣は残ったようだぞ」
スクナがソストドッヘの体をこちらに放り投げた後に近づいてくる。
スクナの言うとおり、ソストドッヘの胴体と頭部は完全に爆散し、四肢はスクナからの切り傷で脆くなった部分を境に焼き千切れたようだ。
まあ、うん、これならばだ。
「ボスの遺体については全部スクナにあげるわ」
ソストドッヘについては渡してしまっていい。
「……。まだ何かあると言う事か」
「ええ。ボスが死んでもダンジョンが揺らいでいる感じが無いって事は、たぶんそう言う事だから」
当然、スクナは私の物言いで何かある事には気づく。
なので、二つの顔で部屋の中を警戒しつつ見渡すが……まあ、異形度5のスクナでは、距離が近くならないと分からないだろう。
「えーと……これがそうね」
私は戦闘開始と同時にソストドッヘが煮豆の川に投げ捨てていた物を、煮立った汚水に触れないように気を付けて拾い上げる。
「……。鑑定するまでもなく強い呪いが籠っていると分かる物品は初めて見たな」
「あらそうなの?」
私が拾い上げたのは見た目は藁の束だった。
だが、疎水性加工のような物が施されているらしく、少しの水も中へと入り込んではいない。
そして肝心の中身と言えば、人の目玉、指、歯、骨と言った物であり、黒く禍々しいオーラが藁の中から湧き出てきている。
「それが何なのか聞いても?」
「問題なし。これはダンジョンの核。周囲から呪詛をかき集め、保持し、ダンジョンの維持をするために欠かせないものね」
「ボスが核ではないのか?」
「ボスが核の場合もあるはずよ。ただ、ボス以外が核になっている場合もあるって事。ボスを倒してもダンジョンに崩壊の兆しが見られないって言うなら、ほぼ間違いなくボス以外に核があるって事でしょうね」
破壊、維持、奪取の選択肢が現れたので、とりあえず奪取。
それからダンジョンの核を私に一時変更。
ダンジョンマスターとしての権限も利用して、妙な支出の類が無いかなどを確認していく。
「なるほどな。ボスを倒した際に即座に崩壊を始めるダンジョンとそうでないダンジョンがあるようだったが、そう言う差だったのか」
「んー、スクナの言い方からして、あまり知られていない知識なのかしら?」
「少なくとも私は知らなかったな。後でアイツにも確認してみるとしよう。そうすれば、一般的にはどうなのかが分かるはずだ」
「掲示板に書き込んでもいいのよ? 私は人の口に戸を立てようとは思ってないし」
「一般的でなかったら検討しておこう」
うん、妙な支出は無いし、呪限無に繋がる穴も無さそうだ。
これならばダンジョンを崩壊させてしまっても、トラブルは起きないだろう。
「とりあえず第一階層への直通通路を形成してっと」
「核があるとこのようなことも出来るのか……便利な物だな」
「残念だけど、これが出来るのは条件を満たしている一部だけよ」
私は適当に内部の資材を消費して、第一階層に戻るための通路を形成する。
ダンジョンを崩壊させる気なので、大盤振る舞いだ。
「じゃ、スクナ。ダンジョンを崩壊させるけど大丈夫?」
「忘れ物の類は無いから大丈夫だ」
そして第一階層の入り口にまで戻ったところで、私はダンジョンを崩壊させる選択肢を選んだ。
するとダンジョン全体が大きく揺れ始め、私たちがダンジョンの外に出てから暫く経つと、『藁と豆が燻ぶる穴』はガワとなっていた廃工場含めて、内側に向けて潰れるように崩壊。
瓦礫の山となって、沼の底へと沈んだのだった。