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103:スモークホール-7

「先が開けているわね」

「ほう。それにこの感じ……来たか」

 道を先に進んでいくと、呪詛濃度がまた僅かに高まった。

 これで呪詛濃度12で、ダンジョンの核があるには相応しい場所と言えるだろう。


「「……」」

 そして、私たちが行きついたのは、煮豆の川に取り囲まれたドーム状の空間であり、空間の中央では藁人形がこちらに背を向けて屈んでいた。


「ワラァ?」

「ほう……剣士か……」

 藁人形が何かを煮豆の川に投げ捨てつつ、こちらを向く。

 身長は2メートルほど、腰には金属製の五寸釘に似たデザインの剣。

 それを見たスクナが二つある顔の両方で獰猛な笑みを浮かべている。


「ワラアアァァ……」

人面疽(じんめんそう)ではなく、人の頭部ね。あれ」

 燻ぶる藁人形と同じように、藁人形の胴体には黒いネバネバに包まれた核がある。

 ただし、核は豆ではなく人間の頭部であり、目鼻口どころか髪の毛やまつ毛までしっかり揃っている。

 で、当然のようにその目は私たちに向けられ、苦悶の声を上げていそうな口からは声が発せられている。


「お前たちの頭は……良さそうだああぁぁ……」

「ははは、殺意だけは一丁前だな。その殺意に見合うだけの技量がある事を願っているぞ」

「なるほど。殺した相手の頭を奪って自己強化を繰り返すタイプなのね」

 藁人形が腰の剣を抜いて構える。

 スクナが槍と二本の剣を構える。

 私はチャージを開始しつつ、『鑑定のルーペ』を使って藁人形の情報を探る。



△△△△△

『納頭の藁人形』・ソストドッヘ レベル15

HP:17,424/17,424

▽▽▽▽▽



「名称、『納頭の藁人形』・ソストドッヘ。レベルは15よ。私は後ろから邪眼で支援させてもらうから、スクナは好きにして」

「言われなくとも!」

「頭を寄越せエエェェ!!」

 スクナが駆け出し、ソストドッヘも駆け出す。

 先制攻撃はスクナで、右手に持った槍の穂先は正確にソストドッヘの頭を貫こうとしたが、ソストドッヘは体を覆う藁を刃の進路上に出すだけで防御して見せる。

 どうやら、金属並みの強度をソストドッヘの藁は持っているらしい。

 すかさず行われたソストドッヘの反撃は、あっさりスクナの刃で防がれた。

 スクナはそこから追撃を繰り出そうとしたが……。


「ワラアァ!」

「むっ……」

 ソストドッヘが後ろに跳ぶのと同時に、足元の藁が勢いよく立ち上がって壁のようになって進路を阻むと同時に、藁から放たれたネバネバによってスクナの体を絡め捕ろうとした。

 その為にスクナは素早く後方に跳んで避けざるを得なかった。

 どうやら、ソストドッヘはこの場にある藁を操れるらしい。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「ワラッ!?」

 と、ここで私のチャージが完了。

 深緑色に輝いた13の目による『毒の邪眼・1』がソストドッヘに命中する。

 与えた状態異常は……毒(82)か。

 毒耐性やら相性の悪さやらを考えても効果が低い。

 もしかしなくても耐性貫通に対する耐性とかもあるのだろうか。

 そう言うのはいたちごっこになるので、無いと思いたいのだが……ボス耐性の一種としてなら有り得るのか?


「毒の効きはあまり良くないようだな」

「みたいね。まあ、時間稼ぎをさせないだけでも意味はあるんじゃない?」

「悪いとは思ってもいない。むしろよくやったと思っているから、そのまま続けてくれ」

「分かったわ」

 なんにせよ、スクナと言う最強格と言って差し支えない前衛が居るのだから、私は横やりの類に気を付けつつ、邪眼による後方支援に徹するとしよう。


「さあ行くぞ!」

「ネッバアァ!」

 スクナがソストドッヘに向かって駆け出す。

 ソストドッヘが左腕をスクナに向けて、手から黒いネバネバが着いた人の顔の模様を持った豆を散弾のように飛ばす。

 同時にスクナと私の足元の藁からは先程のように、こちらを絡め捕るように藁本体とネバネバが迫ってくる。


「奇妙ね……」

 私は翅で小刻みかつランダムに動き回る事で攻撃を回避。

 スクナは……タイミングをずらすように極僅かな加減速と進路変更はしているが、まるで等速直線運動をしているような動きでもってソストドッヘに向かっていっている。

 ソストドッヘから放たれた納豆の散弾も、まるですり抜けるように弾き、躱してしまった。

 相変わらずの研ぎ澄まされた動きである。

 それにしてもだ。


「これだけの呪術。相応のコストやリスクが必要になると思うのだけど……何を消費しているのかしら」

 ベノムラードの毒回復にもリスクはあった。

 毒砲撃も相応に消費している物はあったし、逆利用された時のリスクは私を勝利に導いたほどだった。

 ではソストドッヘの呪術はと言うと……とりあえずHPを消費している様子は見られない。

 周囲の呪詛に動きも無いし、クールタイムの類を無視して連射しているようにも見える。

 何かしらのカラクリはありそうだ。


「はははははっ! 実に堅い藁よ!」

「どうなって……ワラアァッ!!」

「ま、色々と試してみましょうか」

 スクナとソストドッヘが剣の間合いに入り、斬り合いを始める。

 とは言え、ソストドッヘの体を構成する藁は金属並みの強度を持っているので、如何にスクナと言えども一太刀で切り裂くなどと言う真似は出来ないようだ。

 それでも最小限の動きで、最大効率の攻撃をスクナは続けており、ソストドッヘは殆ど一方的に切られているようにしか見えない。

 が、それでも私とスクナの足元への干渉が止まない。


「『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

「っ!?」

「いい援護だ」

 私の目が赤く光り、ソストドッヘの胴体が一瞬だけ炎に包まれる。

 ダメージはそれなり、与えた状態異常は灼熱(1543)、頭上には深緑色の球体と赤い炎のマークが入れ代わり立ち代わりで表示されている。

 で、灼熱をこれだけ与えられるとなると、灼熱への耐性は案外少ないのかもしれない。

 また、ネバネバと炎の組み合わせによって、ソストドッヘの胴体に含まれていたネバネバが固化して、動きが明らかに鈍っている。


「ふんっ!」

「ワギャッ!?」

 スクナが隙を見逃すわけもなく、手に持った刃が胴体の中に隠れようとした頭部を刺し貫き、割る。

 さて、普通のモンスターならばこれでお終いだが……。


「ワラアッ!」「よくも!」「やってくれたなぁ!!」

「やはりそう言う事か」

「なるほど。分業制と言うところかしらね」

 ソストドッヘは動きに乱れはあれど動き続ける。

 そして、これまでは一つの頭部しか喋っていなかったのが、他の頭も喋り始める。

 どうやらソストドッヘの藁の中にある頭部は、その全てがきちんと頭部として働く事が可能であるらしい。


「まあでも」

「ならば、全ての頭を落とせばそれで済む話だ」

「舐めるな!」「私たちが人間如きに」「負……け……?」

 スクナの槍が次の頭を刺し貫いた。

 そう、全ての頭がきちんと頭部として働くならば、その全ての頭とやらを破壊してしまえば、それで済む話だ。

 私とスクナならばそれほど難しい話でもない。


「逃げ……」「意思が乱れ……」「統一をギャッ!?」

 で、同じ結論にソストドッヘも辿り着いてしまったのだろう。

 一部の頭だけが、時間差を伴って。

 結果、ソストドッヘの動きは大きく乱れ、スクナの攻撃によって次々に頭が潰されていき、体を構築する藁も強度維持の呪術が切れかけているのか半ばまで裂かれるようになった。


「こうなればあああああぁぁぁぁぁ!」

「むっ!?」

 生き延びるためにはスクナをどうにかしなければならない。

 ソストドッヘはそう判断して、四方から藁とネバネバを放った。

 流石のスクナも四方から同時にとなれば防ぎきれるものでもなく、他の腕で庇った腕一本を残して全身を絡め捕られ、直ぐにはその場から動く事は叶わなくなる。

 同時に藁の中から出てきた頭の一つが、人間と同じ位置に持ってこられ、叫び声を上げる。


「自爆……ではなく、あくまでも私を殺して生き延びるためか。良い心がけだ。だがしかしだ」

 叫び声を上げた頭の前に真っ赤な火球が生じる。

 同時に部屋中の熱が失せて、一気に冷えていく。

 どうやら熱操作の呪術の類によって火球を生み出したようだ。


「『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

「むんっ!」

「!?」

 そこへ私の『灼熱の邪眼・1』によってソストドッヘが想定せず、制御も出来ない熱が生じ、一部のネバネバが固化して動きがおかしくなると同時に火球も揺らぐ。

 同時にスクナの手から投じられた刃が火球を生み出した頭を貫いて、殺す。

 直後、制御を失った火球は……


「ぬぐおおぉぉ!」

「おっと」

 大爆発を起こして、ソストドッヘの残る頭を焼き尽くした。

05/14誤字訂正

09/14誤字訂正

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