勇者パーティの役立たずと言われた男

作者: 海道コウジ

ふと、自分の努力を横から全部かっさらわれた主人公が書きたくなりました。

なんでだろう?


魔王と名乗る存在が突然、他種族に宣戦布告をした。北の地でひっそりと暮らしていたはずの魔族が一斉に武装蜂起し、他種族へ襲いかかった。

必死に抵抗するも、強靭な力を持つ魔族に押されていった他種族たちの中の一種族である人間族が勇者の召喚を行った。

召喚された勇者は、一緒に召喚された友と共に、世界を救うために旅に出た。

いくつもの出会いを繰り返し、仲間を集め、勇者はついに魔王を倒した。

他種族連合の会議場にて勇者たちの報告を聞き、各種族の王たちが、勇者を褒め称える中、一人の青年が手を上げた


「一つよろしいでしょうか?」


「ん? なんのようだ?」


手を上げた青年は、勇者と共に召喚された少年だった。


「自分は、ここを去り、山にこもろうと思います」


青年の発言に何人の王が、ほころびそうになる頬を抑えただろうか。

厄介物が、自ら、出て行ってくれると言っているのだ。

人間族の王が建て前で引き留めようと声をかけるも、青年は首を振った。

会議場を出て行く青年を最後まで引き留めようと声を上げた勇者も、他の仲間たちに止められ、青年の背中を見送ることしかできなかった。





















長かった…

マジで長かった…

ようやくここまで来れた。


マジで、美雷光(みかずちひかる)とかいうクソと一緒にいるのが苦痛でたまらなかった。

美雷光っていうのは、ユウシャサマの名前で、俺と同じ高校の同じクラスだったってだけの関係だった。

俺の名は、勇気弾(ゆうきだん)中位レベルの高校に通う格闘技が得意なただの高校生だった。

教室で部室(格闘技部)が開くまで、暇つぶしをしていた時、何を思ったのか、奴が俺に声をかけてきた。適当に聞き流していると、突然、足元が光り出し、次の瞬間には、異世界に飛ばされていた。

最初はふざけんなって思ったけど、元の世界に帰す手段もないって言われちまった為、何時までも不貞腐れているわけにもいかなくなって、必死こいて元々鍛えていた身体を更に鍛えて、拳で騎士団を相手にして圧勝するほどになったし、頭の方は、文字を覚えて魔法についても専門家ほどじゃないけど、知識を手に入れた。

美雷? 知らねえよ。見かけるたびに違う女の子とイチャイチャしていやがった。しかも、俺がちょっと良いなぁとか思った娘とばっかと。






そして、魔王を倒す旅に出たんだけど、そこで、俺は信じられないほど、ふざけんなって目にあった。






最初は、人間族の聖地と呼ばれる地で聖女にあった時のことだ。

彼女は聖地の奥に閉じ込められて治癒の効果を持つ法術とやらを操る訓練を幼少よりしていて外界を知らなかった。

彼女の願いを聞いて俺は、綿密に計画を立てて、彼女を聖地の街へ連れて行った。そこで、外界を知った聖女は、多くの人々を救う為、旅に連れていってほしいと、頬を染めて頼んできた。



勇者(美雷)にな!!



なんでも、俺と街で遊んだその日の夜に美雷と出会い、外の世界のことを知って興奮していた彼女は、そのことを話したそうだ(バレるとまずいから、絶対に秘密と言っておいたはずなのだが…)。美雷は何時間もその話に付き合ったらしい。そこで、何度もあって、仲良くなっていた俺の存在を忘れてしまうほど、勇者に夢中になっていた。

旅の間も俺ガン無視で、「勇者様、勇者様」って感じ。

戦闘後、小さなかすり傷しかない勇者(ザコ一匹に時間掛けまくり)にハイレベルの法術を、結構な怪我をしている俺(勇者が相手する以外全部を相手にしていた)は無視。

ああ、聖女じゃなくて性女だったんだと思うことにした。






次は、獣人種の街で出会った女騎士。男の中でたった一人だけで必死に頑張っているのは、すごいけど、周りの男に合わせて、自分に合わない戦い方をしていた。その為、周囲から「足手まとい」「弱くて使えない」と言われ続けていたらしい。戦い方については、格闘技で自分のスタイルを確立できていなかった時期の自分を思い出してしまい、稽古をつけてやった。稽古を受けて自分の戦闘スタイルを身に付けた女騎士は、あっという間に獣人の騎士団でも上から数えた方が早いくらいの実力者となっていた。

力を付けた彼女は、この力で獣人の国だけではなく、もっと広く多くの人々を助けたいと、恥ずかしそうに旅の同行を申し出てきた。



勇者(美雷)にな!



なんでも、訓練の後に、「おつかれさま」って笑顔で飲み物を差し出されたらしい。その笑顔を見てこの人の助けになりたいって思ったらしい。勇者はニコポのスキル持ちですか?

おいおい、さっきの広く多くってのはどうしたんだよ?

彼女のことは、弟子みたく思っていたのだが、彼女は、そうとは思っていなかったようだ。

旅の間、聖女と女騎士で激しいにらみ合いが何度もあったけど、美雷は気づいていないらしい。鈍感とか、クソだな!

そして、最悪なのは、戦闘時だ。事前に話し合っていたフォーメーションなど忘れて、俺一人が前に出て、聖女を護る勇者(弱いから、前に出さないための方便)を護る女騎士。

ふざけんな! んで、相変わらず、聖女は俺の怪我を無視しやがるし!

お荷物が一人増えただけじゃねえかよ!!






三度目の正直というよりも、二度あることは三度あるって感じだったのが、エルフの国にいた女魔導師だった。

他の追随を許さないほどの魔力を保有していた女魔導師だったが、魔力の制御が出来ない欠陥魔導師だった。わかりやすい例として、ライターの火を付けたら、某世紀末救世主伝説で雑魚が使用する火炎放射機ばりの炎が出るって感じだ。そのことを悩んでいるらしかったので、俺は女魔導師に既存の術式(この世界の魔法は、魔法陣に魔力を流して効果を発現するものだった)でダメなら、オリジナルの術式を作ればいいと話し、俺の協力の下で、何度も失敗しながらも女魔導師はついに自分専用のオリジナルの魔導書を完成させた。

完成された魔導書によって女魔導師は誰もが認める最高の魔導師となったが、その地位に就くよりも、まずは世界を平和にすることが先だと、俺たちの旅に同行したいと濡れた瞳で言い出した。



勇者(美雷)にな!



魔導書作成が思うようにいかない頃、勇者に励まされ、頭を撫でられた時、私には、私を信じ期待してくれる人がまだいるんだと感じたそうだ。勇者は、ニコポだけではなく、ナデポも持っていたらしい。

何日も一緒の部屋で作業を続けた俺に仲間意識の一つも持っていなかったらしい。

ただでさえウザかった聖女と女騎士の睨みあいに女魔導師まで追加され、ウザさは倍増だ。

戦闘は、前衛俺一人で、後衛が聖女と女魔導師で、その護衛の勇者と女騎士。

女魔導師が援護射撃してくれて多少は戦いやすくはなった。

たまに、俺に当たりそうになるがな!!

しかも、謝罪なしだしな!!

おい、女騎士、なんだその未熟者めみたいな視線は!?

っと、イカンイカン…






……ドワーフの国で出会ったのが、女商人だ。

中々の大きさの商店をしていたらしいが、最近できた大型商店に客を奪われたらしく、このままいくと路頭に迷うという。

俺は彼女の店を盛り返すため、協力することにした。ふたを開けてみると、店側が超上から目線で、ぼったくり値段で売っていた。

意識改革を促すも、自分たちのプライドがうんぬんと言うので、店を失うか、その腐ったプライドを捨てるかどちらかにしろと怒鳴った。

まぁ、翌日には、冷静になり、言いすぎたと謝罪すると、気にしていないと言った。

そして、利益が出るぎりぎりの値段設定と様々なサービスを行うことで無事、彼女の商店は盛り返した。

そして、国を出るときには、わざわざ見送りに来た。そして、胸に飛び込んで「無事に帰ってきてください」と言った。



勇者(美雷)にな!



俺が怒鳴ったその日の夜に偶然、勇者に出会い、「大丈夫だよ、頑張ろう(勇者は特になにもしていない)」と言われ、私はまだできると思えたそうだ。その頃、俺は、彼女の店の為、方々を駆け回っていました。

自分とは何のかかわりもない店の為に土下座する勢いで方々に頭を下げ、動き回った俺には何もありませんでした。

それから、彼女から、良い装備が届けられるようになり、装備が充実していきました。

俺以外がな!

何? 怒鳴った奴になんて援助する価値なしとでも言いたいの!?

ってか、装備が充実してもこいつら基本的に全員後方で俺の打ち漏らしを細々と退治する程度で、正直、こんな良い装備いらなくねって感じだ。

俺の装備? 自分の金をやりくりして捻出していますが?






木人の国で出会ったサーカスの女獣使い。

彼女には、街で起こっていた連続殺人事件の容疑がかけられていた。街で獣にやられたような傷がある死体が毎日のように発見されていた。丁度、サーカスがその街に着た頃ということもあり、彼女に疑いの視線が集まった。

街の人々は、勇者にこの悪魔に天罰を! って声が上がり、勇者は剣を握って彼女の獣たちを斬ろうとしたけど、俺には、どうしても獣たちがやったようには思えなかった。

なんていうか、人の肉の味を覚えた獣の殺気みたいなものが感じられなかったからだ(旅の途中何度も野性クマだとか虎だとかと戦ったからわかる)。

街の連中の話の中で、犯行現場を見たとか、そういう話もなかった為、証拠が出てくるまで見張りを付けて拘留し、ちゃんとした証拠等が出るまで調べるべきだと主張した。

俺が必死に調べ、街の住人に化けた魔族の仕業であることを突き止め、それを街の人々の前で話し、魔族を倒した。

釈放された女獣使いは、深く深く頭を下げ、モジモジとしながら感謝の言葉を述べた。



勇者(美雷)にな!



このまま、自分は無実の罪で殺されるのかと恐怖していた自分を励ましてくれた勇者にキュンッとしてしまったらしい。

おいおい、その男は、君を害そうと剣を握った人ですけど? チョロイン過ぎやしませんか?

君と君のお友達である獣の為に走り回った俺には、何もなしですか、そうですか。

そして、サーカスの団長と勇者に頼み込んで旅に同行することになった。

獣たちが俺と一緒に前衛になってくれたことがとても助かりました。

ってか、獣たちが勇者たちに一切、懐かずに、俺に懐いたことには、少しだけ優越感を感じた。






それからも、ホビットの女弓兵、人魚(水の中でのみ、下半身が魚になるらしい)の吟遊詩人など、人助けをしても誰も俺に感謝することはなく、勇者ばかりもてはやされた。

感謝されることを望む俺がおかしいのだろうか?

美人さんに「ありがとう」と言われることを望むのはいけないだろうか?

十代の男子が色恋に憧れるのはいけないのだろうか? もう、二十代になったけど。






そんなある日、俺は、自分を鍛える為に単独でダンジョンに挑んだ(誘ったところで、誰もきやしないけどな)。そのダンジョンの最奥で、二つのアイテムを手に入れた。一つは、ステータスチェッカーというタブレット端末みたいなマジックアイテムで、もう一つは、スキルデリーターという短剣だった。

簡単に機能を説明すると、ステータスチェッカーは指定対象のステータス及びスキルを調べることが出来るというもので、スキルデリーターは大将のスキルを一つだけ選択して消すことが出来るというものだった。

俺は、ものの試しにと、自分のステータスをチェックしてみた。

そして、愕然となった。

俺のスキル欄はこうだった。


・異世界からの来訪者

 異世界から召喚された者。全ステータスに中ブースト効果あり。

・真の勇者

 正真正銘、本物の勇者。左背に証である翼の痣がある。

 全ステータスに中ブースト効果あり。

・マスターファイター

 最高位のファイター。物理攻撃及び物理防御、速度に大ブースト効果あり。

・女神から嫌われた者

 女神が嫌う者。全ステータスに大マイナス効果。

・運命に抗う者。

 自分の運命に向き合い、必死に足掻く者。女神から嫌われた者の効果を無効化。

・栄光の譲渡(譲渡対象:美雷光)

 自分の功績・栄誉及びスキル効果を対象者へ譲る。



これのせいかぁァァァァァァぁァァァぁァァァァァァァァァぁァァァァ!!!!!!!!



思わず、ステータスチェッカーを地面にたたきつけてしまった。慌てて壊れていないか確認すると、大丈夫なようだ。背中には、昔から確かにそんな感じの痣があった。

その場でスキルデリーターを使用してしまおうとかと思ったが、少し考えてやめた。

そして、俺はそれらを大事に保管して、旅を続けた。

ついでに勇者のスキルはこうだった。


・異世界からの来訪者

 異世界から召喚された者。全ステータスにブースト効果。

・女神に認められた勇者

 女神が勇者と認定した者。証として右手甲に菱形の痣がある。

 全ステータスに若干ブースト効果。

・見習い剣士

 剣を使う者の初期。剣を装備時物理攻撃にほんのちょっとブースト効果。

・女神に愛された者

 女神のお気に入り。幸運度にブースト効果。

・栄光の受領(対象:勇気弾)

 対象の功績・栄誉及びスキル効果を自分の物とする。


………あいつ、俺からブースト効果を奪ってさらに自分のブースト効果まであったのにあんなに弱かったのか…

……俺に関わった女との遭遇率は、高められた幸運が原因かな?






いくつもの試練を(俺が)乗り越え、ついに(俺が)魔王を倒した。

ついでに勇者は、魔王戦開始早々に、足元の石につまずいて転び、自分の持つ剣の鍔に額を強打して気絶しました。その為、女連中は誰一人として使いものにならなくなり、俺と俺に続いてくれた獣たちで魔王と戦い、勝利しました。

ポメラニアンのモロ、おまえが捨て身で魔王の耳を食いちぎって作ってくれた隙のおかげで倒すことが出来た。本当にありがとう。

で、当然のごとく、俺の名声はなく、勇者様のおかげで勝ったと、女たちが報告し、俺は足手まといというレッテルが張られた。

もうどうでもよかったので、俺みたいな厄介者もいらんでしょ?

って事で簡単に城から出ることが出来た。

獣たちと、別れを惜しんでから、俺は、人里離れた森に家を建てた。

家の側には『勇者モロ、ここに眠る』と書いたモロの御墓をつくった。

そして、そこで大事に保管していたステータスチェッカーを取り出し、栄光の譲渡(譲渡対象:美雷光)に向かって全力でスキルデリーターを突き刺した。











それから、俺は、晴れた日には畑を耕したり、狩りをして、雨の日は家にこもって読書をしたり、なんとなくで作った道場で訓練をして過ごすという晴耕雨読の生活を楽しみ、時たまに必要物品を買う為に近くの(3日ほど歩いたところにある)町で買い物をしたり、狩った獣の肉を売って収入にしたりしてのんびりと過ごしていた。

そんな生活を1年ほど続けたある日、俺の家に訪問者が現れた。


聖女でした。

とりあえず、迎えると、聖女はまるで、恋する乙女のように俺に抱きついてきた。


「目が覚めました。何故、あの男に心奪われていたか、自分でもわかりません。

わたくしの為に頑張ってくれたあなたこそ、わたくしが本当に愛する人です」


…お帰り願いました。





その翌日、今度は、女騎士がやってきました。

俺に向かって臣下の礼をとった。


「今までの自分はどうかしていました。先生(俺のことらしい)こそ、私が唯一尊敬する人物です。どうか、また、私を鍛えてください」


昨日と同じように即行でお帰り願った。






その翌日は、女魔導師。


「今までは、何らかの精神支配を受けていたと思われる。

どん底にいた私を救ってくれたあなたを蔑にしていた自分が恥ずかしい。

私は、あなたと共に生きたい」


帰っていただきました。





それから、俺の関わった人々が押し掛けてくるようになった。どうなってんだ?

ついでに、来訪者たちによると、美雷光は、真の勇者(俺のことらしい)の功績を我がものとして、周囲を騙してきた詐欺犯としてつかまり、処刑されたそうだ。

不幸になれとは思っていたけど、即行で処刑かよ…

ステータスチェッカーで自分を調べてみるが、おかしな所はない。

スキルデリーターにおかしな効果があったのかと調べてみた。


・スキルデリーター

 指定した対象スキルをなかったことにする。


ん? もう一度確認する。


・スキルデリーター

 指定した対象スキルを“なかったことにする”。


指定した対象スキルを消すではなく、なかったことにする?

……つまり、過去にさかのぼってそのスキルの影響で俺をないがしろにしていた連中の中にある俺への評価が、正しい物へと変化したということか?

一人で、どこその武術の神さまのように暮らそうと思っていたのに…

正直、手のひらクルクルしてきた連中が気味悪くて仕方ないです。

謝ってくれりゃ、それで十分なんだけど、それが、「自分は間違っていた。ごめんなさい。そして抱いて!!」とか勘弁して下さい。


……逃げるか。






後年、その後の勇者にして拳王と呼ばれるダン・ユウキがどのような人生を送ったのか、歴史家の中でも複数の説が語られている。

聖女と共に聖地で幸せに暮らしたというもの。女騎士と共に多くの弟子を育てたというもの。女魔導師と魔法研究にいそしんだというもの。小さな孤島で生涯一人で暮らしたというもの。etc.etc.


ただ、共通しているのは、何年もの間、ダン・ユウキは、一人で武者修行の旅をしていたというものだった。


歴史家の中では、ダン・ユウキは、女たちから逃げる為、旅をしていたのではないかと冗談で語られている。






主人公は触れていませんが、主人公は光にステータスのブースト効果を全部奪われていた為、よくある転移モノの恩恵を一切受けていません。全部自前です。

そして、スキルデリーターでブースト効果が効果を発揮している為、戦えば、最強です。