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第94話 15歳のイングリス・天恵武姫護衛指令2

 アカデミー内の一室に呼び出されたのは、第一回生からは、イングリス、ラフィニア、レオーネ、リーゼロッテの四人だった。

 この四人の共通点は、特別課外学習の許可を受けている事。

 イングリス達のほかにアカデミーの上級生たちの姿もあるが、彼等もそうなのだろう。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございまーす。今日はすっごく重要なお願いがありますので、よーく聞いて下さいねえ?」


 相変わらずミリエラ校長は、ちっとも重要そうに聞こえない物言いである。

 皆少々拍子抜けの表情だが、彼女に続いてセオドア特使や天恵武姫(ハイラル・メナス)のリップルが姿を見せると、ピリッと引き締まった。

 これはただ事ではないな、と感じたのだ。


 そして、ミリエラ校長が事態の説明をする。

 天恵武姫(ハイラル・メナス)のリップルの身に、異変が起きている事。

 彼女の存在が、魔石獣を呼び寄せる状態になってしまっている事。

 それを、セオドア特使の力を借りて解析し解決しようとしている事。

 解決方法が見つかるまでの間、リップルの身をアカデミーで預かる方針になった事。


「なるほど――我々はリップル様を護衛し、魔石獣が現れた場合に即座にこれを殲滅。周辺への被害を食い止めれば良いという事ですか」


 そう言ったのは、騎士科の三回生の制服を身につけた男子生徒だった。

 灰色に近い色の短髪で、眼鏡をしており、非常に美形かつ知的な印象の青年だ。

 その右手に輝く魔印(ルーン)は上級印――

 ではなく、虹色の輝きに包まれた特級印だった。


「あれは特級印――」


 天恵武姫(ハイラル・メナス)は究極の魔印武具(アーティファクト)

 真の能力は、武器化してこそ初めて発揮される。

 魔石獣の最強種たる虹の王(プリズマー)を制する事が出来るのは、武器化した天恵武姫(ハイラル・メナス)だけだと言われている。

 そしてそれを操る事が出来るのは、特級印の魔印(ルーン)を持つ聖騎士のみ。


 この青年は、将来の聖騎士候補だろう。救国の英雄というやつだ。

 ラファエルの後輩という事になるだろうか。


「シルヴァ・エイレン様ですわ。近衛騎士団長レダス・エイレン様の弟君ですわね。アカデミー唯一の特級印の持ち主です」


 リーゼロッテが小声でそう教えてくれた。


「つまり、アカデミーで一番強い生徒って事だよね?」

「ええ、そうなるでしょうね」

「いいね……強そうだね、手合わせしたいな――」

「そればかりですわねえ、あなたは……」


 呆れた目で見られた。


「シルヴァさんの言うとおりですね。皆さんは一、二、三回生それぞれの選抜メンバーです。それぞれにチームを組み、交代でリップルさんの護衛に当たって貰おうと思います。それぞれの判断で、他の生徒に協力を求める事も許可します。異変が始まり魔石獣が現れたら、これから支給する魔印武具(アーティファクト)の結界により即座に周辺を隔離し、周辺に被害を出さないように魔石獣を排除してください」

「「「はい」」」


 選抜された生徒達がそれぞれ頷く。


「こちらがその魔印武具(アーティファクト)です。皆さんお持ちください。リップル殿の側に、必ず一人は異変に即応して結界を張れる人員が付くようにお願いします」


 ミリエラ校長に続き、セオドア特使が魔印武具(アーティファクト)を取り出した。

 剣型、槍型、杖型――と色々とある。


「……弓型は無いわね、あたしには使えないわね」

「では、わたくしが槍型を受け取っておきますわ」

「私が剣型を受け取っておくわね」


 一、二、三回生それぞれに、魔印武具(アーティファクト)が行き渡った。

 ――まだ魔印武具(アーティファクト)は余っている様子だった。


「……わたしも貰っておこうかな」


 イングリスに魔印(ルーン)はないが、魔印(ルーン)とはつまり魔素(マナ)の流れを一定の方向性に制御するもの。

 霊素(エーテル)魔素(マナ)に変換した上でそのように制御をすれば、使う事は出来るはずだ。

 そして更に魔印武具(アーティファクト)自体の起こす現象を見て学べば、直接同じ現象を起こす事も可能になる。あまりに複雑すぎると難しいが――

 一応、この魔印武具(アーティファクト)を持っておくに越したことはないだろう。

 まだ数的には余っているのだし――

 イングリスは前に進み出て、魔印武具(アーティファクト)に手を伸ばす。


「待て。止めておきたまえ。君がそれを持ってどうする」


 シルヴァに制止をされてしまう。


「? どうしました? 先輩」

「どうしました、じゃない。君がそれを持っても無駄だろう。従騎士科の無印者に扱える代物じゃないんだ。手を触れるな」

「はい、分かりました。済みませんでした」


 ぺこりと一礼。イングリスは大人しく引き下がろうとしたのだが――


「ちょっと待って下さい! そんな言い方……!」


 こういう時に黙っていないのがラフィニアである。


「まぁまぁまぁ、ラニ。怒らないで、気にしてないから……ふふふ――」

「な、何をニヤニヤしてるのよクリス」

「いいからいいから。ここは黙って従おう。ね?」


 イングリスはむしろ上機嫌だった。

 どうもあのシルヴァは従騎士科の人間を快く思っていないようだ。

 そして、どうやら、割と神経質で気も短いタイプ。

 要は精神的に未熟という所だ。


 が、そういう人間なら、少し挑発すれば本気で手合わせしてくれそうである。

 聖騎士や天恵武姫(ハイラル・メナス)は、敵対関係にでもない限り、そう簡単に我を忘れて斬りかかって来てくれたりはしない。

 だがこのシルヴァならば可能性があるかも知れない。

 いい手合わせ相手になってくれるかも知れない、と嬉しくなったのだ。


「まあまあシルヴァさん。数は余っていますし、別にいいんですよ?」

「校長先生! でしたら、大切に保管し破壊された時の予備とするべきでしょう? 無駄にしていい魔印武具(アーティファクト)など無いはずだ」

「まぁそうなんですが、イングリスさんなら無駄には――しないとは言い切れなかったりしますねぇ……あはははっ♪」

「ふざけないでください! そもそも何故この場に従騎士科がいるんですか? 人員の選抜に問題があるのではないですか? これは重要な任務でしょう? でしたらそれ相応の人間で臨むべきだ。無印者は足手まといになりかねない。今すぐに出て行ってくれ!」

「……」


 それは困る。

 どう言いくるめるか、と思っていると――


「はい。分かりました」


 ひょい、と手を上げた者がいる。やや薄い、桜色っぽい髪色をした少女だ。

 髪の長さは肩くらいまで。制服からして二回生か。

 非常に美形だが、非常に冷めた雰囲気でもある。


 彼女が挙げた右手には、何の魔印(ルーン)も刻まれていなかった。

 この少女も、どうやら無印者のようだった。


「ありがとうございます。じゃあ、失礼します」


 すたすたと出口に向かおうとする。


「ああちょっと待って! 待って下さいユアさん!」


 ミリエラ校長が、慌ててユアを止めていた。

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